第3話 たかや 2
「今年は、流星雨の日、満月だって。あんまり見れないかもしれないねえ」
ここに来た初日、つまりおととい、着いて早々、おばあちゃんが言った。田舎での主なお楽しみは、流星雨を見ることと(条件が合えば)、小さな村にしてはけっこう盛大な花火大会。今年は、そのうち1つがいまいちってことで、少しがっかりした。
だって、去年の流星雨はほんとにすごかったんだ。星の雨なんで言うけどだいたいいつも空振りだったから、まさかあんな風にたくさん“降る”ことがあるなんて、思わなかった。田舎の夜空は、それでなくても星がびっしりで怖いくらい。そこから、時々ひゅうひゅう音まで立てて星が飛ぶ(ほんとは星じゃなくて塵だって、ちゃんと知ってるけど!)。ほんと、すっごくびっくりした。
***
たかやは、僕と同じ2年生で、昔っからここに住んでいるって言った。でも、去年までは会ったことがなかった。
「なんでだろうな」
たかやは不思議そうにそう言ったけど。理由はわかっている。この辺の子は僕たちに近づかなかったから、そのせいだろう。じゃあ、どうしてたかやは今年の夏、地元の誰とも一緒じゃなくて、一人でいるんだろう? 何かあったのかな? 何となく、聞いちゃいけないことかもしれないと思って、僕は黙っていた。
***
今日も来るかな、と思って、縁側の近くで待っている。
おばあちゃんは、今日もいない。麦茶とおやつを出してくれて、留守番ばっかりでごめんねえ、でも、買い物に行かないと晩ご飯作れないからねえ。買い物、乗り合いで行くから人数制限があってねえ、連れていけないんだよ、と言った。
いい子の僕は、だいじょうぶ、暑いから、気を付けて行ってきてね、と笑顔で送り出す。おみやげ待ってるね、と、子どもらしい一言を添えて。
そうして、たかやがやって来た。
2人で縁側に座って、おばあちゃんが用意してくれたおやつを食べながら、いろんな話をした。学校の話、好きな食べ物の話、好きな子の話―。
兄弟の話もした。お兄ちゃんがいて、受験生だから今年の夏は“しょーねんば”で、だから今年は一人で田舎に来たこと。お兄ちゃんは優秀でかっこよくてもてること。僕も大きくなったらもてるといいな、と言うと、たかやは少し笑って、うん、きっともてるよ、と言った。ほんとにそう思っているのかな? たかやはもてそうだけど。
「たかやは? 兄弟は?」
「妹がひとり。ゆみって言うんだ」
「へえ、ゆみちゃんか。どこにいるの? 何歳違い?」
「家にいるだろ。まだ幼稚園だから、ついて来られるとめんどいんだよな」
「ふーん」
妹か。年下の兄弟がいるから、同い年でも、たかやはお兄ちゃんっぽいのかな? 自分のこと『俺』って言うのも何だか似合っている気がする。お前の兄ちゃんの名前は何て言うんだ? 今、いくつ? って言われたから、かける、ひしょうのしょうって書いてかける、今年14、と言うと、たかやは片方の眉を上げ、一言、
「へえ」
とだけ言った。
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