イリスの叫び
私も自分に預けられた一本の黒い筒を小わきにかかえて階段を下り裏口から外にとびだした。銃声と反対の方へ逃げだして数分後ふりかえると私達の住んでいた町は、激しい火の手に包まれていた。
銃声はしきりに夜の天地をふるわせている。気がつくと頭上を光の帯が伸びていく。しかもこれから私が逃げようという方角へ光の帯はとんでいきつつあることを知るとさすがの私も足がすくんでしまうように感じた。
「まずい、ぐずぐずしているとハイム兵にみつかってしまう」
私はある事情のため、極秘にこの土地にのこっていたのだ。だから、もしハイム兵に見つかれば有無をいわさずスパイとして殺されてしまうであろう。さらにモール博士から宅されたこの黒い筒などをもっていることなどが発見されれば言い逃れはできない。
「困った。これは、うまく逃げられるか分からないな」
私は乾いてやけつくような喉の痛みを感じながらぜいぜい息を切って雑草におおわれた脇道をつまずきながらいながら駆けだしたのであった。丘のうえにある灯台が、只一つの目当てだった。私は灯台が光っていることにうたがいもせずにどんどんと前進した。
銃声がひっきりなしに鼓膜をうっていたがこのあたりは静まり返っていた。
私は「ほっと」息をつき、戦闘の渦の中からうまく逃れることができたと感じた。私はたえ切れない疲労をおぼえそのまま横になってしまった。それから、どれほどの時間が流れたのか私は全くおぼえていないが夢をみていた。そのとき、私は誰かに呼ばれているような気がした。
「ライト、ライト!」
私は、その場に、とび起きようとした。
「し、静かにして……」
私の両肩を下におしつけられながら耳元にささやいていた。
「イ、イリスじゃないか」
私は目をみはった。私の傍についていたのは、イリスという私たちの住んでいたアパートの娘だった。
「ライト、うまく気がついてくれてよかったわ。あたし、ライトはもう死んでしまうのかと思ったのよ。だって、あたしが見つけたときは、ライトは、青い顔をして倒れているし、上衣は血まみれだし、シャツの腕からは、傷口が見えるし……」
「傷?」
私は、そのとき始めて、脈をうつたびに、左腕がずきんずきんと痛むのに気がついた。
「あっ、左腕をやられていたのか」
そのとき私はたいへんなことを思いだした。左手でわきの下にしっかり抱えていた例の黒い筒はどこへいってしまったのだろうか。
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