転
実は、といきなり男の声が聞こえてきた。籠もった声。
「あの子は、先日亡くなっているんですよ」
その声は、私の耳元で囁かれる。
深い穴の底から聞こえるような声。
「な、何言ってるんだ⁉︎ 」反射的に私は叫んだ。
「一昨日前の事でした。あなたがあの部屋に来る前に、容態が急変してしまいましてね……。呆気無いものです。亡くなるまで、あなたの名前を呼んでいたそうですねぇ」
私の耳元で、男の声が囁くように聞こえる。まるで顔がすぐ横にまで迫っているかのように。
「まあ、ここで会えたからいいじゃないですか。会いたかったんでしょ?」
私はすぐ側の男の顔を見た。
違う。
男の瞳が深淵みたいに見えて、その奥から覗いている。
眼窩だ。眼球が無く、瞳だけが闇の中で小さな光となって、私を見ている気がした。
頭蓋骨が私を見ている。
「あなたもお疲れ様でした。一生治らない病気を抱えて大変だったでしょう? もう潮時なんです。休んで良いんですよ」
私は怖くなって取り乱した。
「い、一体何を言ってるんだ、君は! こんな、科学の発達した時代に! 」
「そんなのはね、昔も今も同じなんですよ。科学なんて関係無いんです」
男は溜息をつき、あの子達が遊んでいる方へ、骨だけの顎をしゃくった。
……あの子がいない?
病衣姿のあの子の姿が無くなっていた。いくら砂埃の中でも、遊んでいる子供達の姿くらい分かる。間違いない。
「もう、邪魔だね、これ! 」男の子の声が聞こえた。
子供達の足元で何かが絡まっている。。
あの子の病衣だ。病衣が上下一揃い、砂まみれで落ちていた。それが子供達の脚で蹴り出されようとしている。
その中で蹴り出そうとしていたもの。
私は見たものを、一瞬疑った。
石を蹴っていない。
それは、子供のものと思われる頭蓋骨だった。
転がって私の元に来た。
コロコロコロコロ。
もう無い瞳が覗いた。
子供達は、石蹴り遊びを辞めた。こっちに近寄って来た。
にこやかに私に語りかける。
「それ拾ってよ」
「君も遊ぼうよ。一緒に石蹴って遊ぼうよ! 」
やっぱり瞳はない。代わりに暗い穴が私を見ていた。
私は、恐ろしくなって叫び声を上げた。声にならない叫び。
後ろに下がろうとした。動けない。何故だ⁉︎
子供達が、男が、目の前に迫って来る。
私はそこで気が遠くなってしまい……目の前が真っ暗になった。
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