しかし、石蹴り上して遊んでいる子供達、よくこんな砂埃の風の中で遊んでいられるものだ。それどころか元気良くはしゃいで遊んでいる。

 私は周りを見回した。親御さんと思われる姿が全く無い。病衣姿の男の子の親は? 子供達の他は誰もいない。

 

 ほっておいてあげなさい。

 男が私に語りかけた。

「なかなか遊べないものですよ。あの子もそうなんですから。病弱で入退院を繰り返しているというじゃないですか」

 あの子の事も知っているのか。何者なんだろう。私は、この男にどこまで話せば良いのかと、考えながら答えた。

「あの子、おっしゃる通り病院で入院中に知り合いましてね。内科病棟でも同じ病室だった事もあってね」

 どこまで話せば良いのやら。ちょっと踏み込んで話す。

「私もね、若い時は仕事で無茶ばかりやっていたものでしてね。この年になって体調を崩して、手術を受けて入退院を繰り返してきましてね。寂しいものです。そんな時にあの子に出会いまして」


 私はあの子をもう一度見た。

 あの子と一緒だった事を思い出していた。病院の中でよく会っていたあの子の事。私は、いつの間にか思い出に浸っていた。

「あの子とは病室の中で遊んでいましてね。折り紙が好きみたいで、よく見せてくれましたよ。鶴とか兜とかいろいろね。恐竜とかもあったな。本当、上手かったですよ」


 男は側で、私の思い出話をずっと聞いていた。いや、聞いていたと思う。

「でね、昨日の診察の時、あの子がまだ入院していると小耳に挟んだものでね。それで一緒にいた病室に行くと、いなかったんですよ。何故かあの部屋には誰もいなかったんですよね。寂しいものです」


 久しぶりに私はあの子の姿を見た。それも元気そうだ。

 でも、熱中し過ぎて気付いていないのだろうか。砂埃まみれの風が身体に当たると痛いだろうに。私でも砂が当たると痛いからコートの襟を立てて顔を守っているというのに。


 何より、私の事を全く見ていない。気付いていないのか。

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