16話 ああ妹よ

 玄関先でチャイムが鳴った。

 体を起こして呼びかける。


「どちら様ですか」

「妹が来ましたよー、早く開けてー、部屋入れてー!」


 鍵を開け、扉を開くと大量の荷物を持ったそいつが玄関になだれ込んで来る。

 手に持つ紙袋には有名な百貨店の文字が書かれていた。


晴菜はるなが土産か、珍しいな」

「まあね。って言っても父さんに「この金で土産を」って言われて万札握らされたからさ、はい」


 紙袋を受け取り、中を見る。チョコレート、パウンドケーキ、クッキー。このチョイスは妹の好みだろう。

 あの電話のお詫びとでも言うのだろうか。そんな事しなくても別に許すけどなぁ。


「で? 何しに来たの?」

「遊びに来たよ」

「堂々と言うな」

「私も持ってきたんだよ? ゲーム。やろうよ、用意して。やり方分かんないから」


 晴菜が荷物の中から取り出したのはマ〇カだった。やりこんでいたマ〇オカートWiiiから月日は流れ、その手に握られているのは8DX。半ば強引にゲームをする事になったが俺は乗り気だ。昔のようにボコボコにしてやる。

 というかもうテレビの前に陣取ってるの強そうなので止めてもらっていいですか(震え声)


「ふぅー、はい、リモコン。ハンドル使うか?」

「うん。今回こそは負けないからね、積年の恨み晴らさでおくべきかって感じだからね」

「そうかそうか、ドライビングテクニックじゃ俺の方が上だぞ? 馬鹿言ってんじゃねえ」

「御託はいいよ。マ〇カってアイテムあるんだよ、分かってる? 技術だけじゃ勝てないって」

「200ccなんてあるのか、これでやろうぜ」

「いいね。覚悟してね?」

「こっちのセリフだ」


 キャラクター選択画面。昔からカ〇ンとキングテ〇サが好きだ。好きな理由? なんか分からんけど親近感が湧くんだ。それと可愛い。あのキシャシャみたいな声可愛くない?

 晴菜は昔と変わらずピ〇チか。主要キャラってあまり使う気になれないんだよな。あとこの隠し方に他意は無い。


「堺斗ぉ〜、おまかせでいい?」

「いいよ別に」

「よし、スタート!」


 初戦はグラグラかざ〇。wiiiでもやった、見覚えのあるコースだ。来るなら来い!全てを破壊してやる!!


 軽快なBGMと共に始まるカウントダウン。2のカウントと共にボタンを押してスタートダッシュを決める。これ基本ね、テストに出るよ。

 スタートダッシュを決めて早速1位に躍り出る。このまま逃げ切れば勝ち、というか昔からこの戦法だ。もしあのト〇ゾーこうらに襲われようと、圧倒的な差をつけていれば逃げられる。


「えっ、待って堺斗速くない!?」

「プークスクス、晴菜おっせぇー」

「ちくしょう、キ〇ー引いてやる」

「それ轢くって意味も掛かってるよね」


 このゲームで重要になってくるアイテムボックスだが、上位になるとほぼ"コイ〇"と"黄金皮バナ〇"しか出て来なくなるから期待はしない。引いたバナ〇は保持しておく。


「キター! キ〇ー、ぶっ飛ばせ!あっ、青甲羅飛んでったよ」

「は!? 待てって、ちょ(ドカァーン」

「プークスクス、もう8位www」

「ここから巻き返す位朝飯前だが?」

「後でおやつ食べようね」

「いいよ」


 次のアイテムは、来たな。"緑の弾丸みど〇こうら"。斜線上にいるピ〇チ目掛けて投げる。


「食らえぇっ!」

「はぁ、避けとこ(スッ」

「かかったな」

「へ?(ガッ 痛った!」

「ふっ、"緑の弾丸みど〇こうら"は跳ね返る!」

「忘れてた」


 その調子でまた1位に躍り出た。慣れないカイト飛行もこなしてファイナルラップ。"コイ〇"を10枚と"黄金皮バナ〇"を保持したままの1位は余裕がある。


「このまま勝っちゃうな」

「あ、青甲羅引いた」

「は?」

「あげるね、はい」


 保持していたバナ〇を路上に投げ捨てて次のアイテムボックスへ向かう。狙うはト〇ゾーこうらから免れられるアイテム。スーパー〇ラクション、ダッシュ〇ノコ、なんでもいい。あの"青の榴弾ト〇ゾーこうら"を防ぐアイテムをっ!

 コインだ。


ドカァーン!!!


 青い閃光が走り、爆風で車体が宙を舞う。立て直すのに時間がかかる。圧倒的なロスタイムだが、


「まだだ!」

「いや、終わりだ! "追駆赫弾あか〇うら"!」

「なにィィィィイ!? (ガッ」

「まだ後2発も残ってるよー、そい!」


 被弾時の無敵時間の合間を縫った、2位からの三段撃ちトリプルあか〇うら

 距離は離れているが、最終ラップだ。2位集団と差がどんどん縮まっていくが全く動けない。そのまま抜かれてしまった。ゴールは目の前だがそこまでが遠い。


「やった! 1位〜!」

「くそ、4位か、くそっ!」

「やっぱアイテム重要じゃん、運なさすぎ」

「こんなとこで運使いたくないしな(プルルルルル」

「そう言われると言い返せなくなるから止めてくれない? あ、電話鳴ってるよ。ちなみに誰から?」


 マネージャーからの電話だ。きっとオフコラボの予定についての電話だろう。


「ああ、バイト先の人。ちょっと出るね」

「はーい」


 部屋から出て洗面所の方へ行き扉を閉め、通話ボタンをスライドする。


「もしもし、白井です」

「もしもし、紅彩です。オフコラボの件ですが」

「どうしました?」

「あの、黒翳覆として、性別が確定してしまうのはどうなのかな、と」

「どうなのか、とは? 私はそれでいいと思っていますが」


 オフコラボをする上での問題点。それは同期に生身で会う関係上、見た目が、性別が露呈する。しょうがない事だと割り切っていたが、同期からの目、ひいてはアナザーズー全体の黒翳を見る目が変わってしまう恐れがある。


「こんな事を言っても根本的な対応策なんてないんですが、やはりアズーからの性別不明の黒翳という印象が変わってしまうのは大きいと思うんです。」

「そうですね。それでも仕方の無い事では? エンタメとして、私だけ別室という訳にもいかないですし」

「すいません、これは私のワガママかも知れません。でも、白井さんなら対応策が浮かぶかもしれないと思って。考えておいてくれませんか?」

「考えてはおきます。あまり期待はしないで下さいね。それでは」


 通話終了ボタンをタップする。通話の切れた音が洗面所に鳴り響く。ワガママかも知れない、か。……どうしよ。


 その時、洗面所の扉が勢いよく開かれた。


「晴菜……?」

「話は聞かせてもらったよ、黒翳覆さん?」




────────────────────




「知ってたのか? お前あの界隈見てると思ってなかったんだけど」

「うーん、別に堺斗が黒翳だなんて知らなかったよ? 疑ってはいたけど。「まさかな」って思ってた気持ち分かる?」

「分かります」

「疑ってたから電話の着信覗き見たんだよね、そしたら〖マネージャー〗って書いてあったし、バイト先って言うし怪しいなと思って」

「それで?」

「盗み聞きしてたら分かった」

「お前案外頭良いよな」

「それ私への当てつけでしょ、後私も見るよ? 濡羽さんとか面白いよね」


 正直舐めていた。身内の中で1番バレる危険性がないと思っていた。だが、1番の地雷だったかもしれない。隙を見せた自分が悪かった。


「それで、この事を知って私をどう……?」

「そうだね……さっきの電話でさ、性別バラしたくないって言ってたじゃん。私いい事思いついちゃった」

「何をさせる気ですか……?」

「女装、だよ」


 え?は?ウッソだろお前www何馬鹿なこと言ってんのwww女装?くっそwww冗談も大概にせいやwww

 考えてもみませんでした。


「ベースは良いし、メイクとウィッグしたらイケるんじゃない? 身長も低いし、後は……演技力でどうにか」

「身長低いって言うなよ! あーと、もし嫌だって言ったら?」

「あ、父さんそういえば黒翳面白いなーって言ってたなぁー」

「すいませんでした」

「監督脚本メイク私、主役は堺斗、演出はマネージャーさん! 私の一世一代の大掛かりな舞台に付き合ってもらうから。明日服持ってくるね」


 俺はこれからどうなってしまうのだろうか。

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