第8話 「ここでこれをする名字」 8/29


 僕はこのエッセイのハードルを自ら高くしてしまっているので、毎回書くたびに頭をウンウンしてますし、書いたことを振り返っては自分でうんざりしてますが、もはやできることは書き続けることだけなので、今日も書きます笑

 今回のテーマは、緊張のほぐし方。


 近所の歯医者に行った。治療しなきゃいけない歯があり、それを放置すると大変なことになるのがわかっているので、ちゃんと歯医者に行った。

 歯医者の楽なところは、ゴロンとして口を開けたら全てやってくれるところ。美容院に似た良さがある。しかも、歯医者さんは「痛かったら言ってください」「口ゆすいでください」しか言わない。顔に口の部分だけに穴が開いたタオルもかけてくれるので、目も合わない。

美容院は場合によっては、雑誌を読んで話したくないオーラを出しても、休日の過ごし方や学部や、下手すると将来の夢まで聞かれたりする。髪を切ったり巻いたり延ばしたりする場所で、そんなことを聞かれても困る。それがコミュ障の思考回路である。


 ただし今回の歯医者はいつもとわけが違った。前回の予約をすっぽかしていたので、先生を待つ時間の緊張の度合いが尋常ではなかった。

 前回すっぽかしたのは完全に僕が悪かった。前々回、スマートフォンのカレンダーに予約の予定を登録する時に、面倒くさがって予定の開始時刻をデフォルトの16:00のまま、タイトルのところに「歯医者 1145」と打った。結果として僕は前回の予約の日、15:30に「そろそろ出かけないと」とカレンダーアプリをまじまじと見ている時に「今日の予約は11時45分からだったのでは!?!?」と気づく羽目になった。時すでにお寿司。

 挙げ句の果てに、通信量節約のため機内モードでWi-Fiを繋いでいて、歯医者からの電話も繋がらなかったときた。ひどい客である。


 反省の余地しかなく、今回は先生と出会い様に「すみませんでした…」くらいは言うのが人としての正しい道なのだと思えた。

ただし、困ったことに僕は、自分が普段見てくれている先生の顔をよく覚えていないことに気づいた。挙句、担当の先生はたまに交代している気がするので、もはや誰に謝れば良いのかもよくわからない。

そんなわけで、謝る心の準備もなく、かと言って何ごともなかったような顔をする勇気もなく、モヤモヤをかかえた僕は左横に小さな洗面器のついた歯医者の椅子の上で、無防備に先生を待っていたのだった。

 

 その時激しい緊張の中、ふと思いついた。この緊張を緩和するにはきっと客観視が大切なんだ。こんなのはどうだろうか?「ここでこれをする名字」。

 つまり、例えば今なら。「歯医者で緊張する〇〇」と、状況と状態と自分の名字に当てはめて、心の中で唱えてみる。

僕の名字をこの際サイトウとする。「歯医者で緊張するサイトウ」「歯医者で、歯科医を待ちながら、椅子に座り緊張するサイトウ」「前回歯医者をドタキャンした申し訳なさで、歯医者で歯科医を待ちながら、椅子に座り緊張するサイトウ」

なんだか、脚本のト書きみたいである。シュールで面白い。自分の事なのに自分の事じゃないみたいじゃないか。これは発明だ。エッセイに書こう。

 なんて、内心ワクワクしていると先生がいらっしゃり、まさかのお咎めなしで、治療が始まり、そして治療が終わった。

 いつものように、終始無言、口内をいじられているのに寝てしまいそうな平和さであった。

 帰り際、受付の方に謝った。気をつけてくださいね、と言われた。


 皆さんも緊張した時、不安な時「ここでこれをする名字」試してみてください。

 そして歯医者はドタキャンをしないのが、1番良いです。

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