第10話 肩透かし

「低級霊だから大丈夫とは思ったんだけどね、お姫様を救うのは王子の役目だし」


「誰が姫だ誰がッ!」


急いで布団の脇に投げ出されていた浴衣を身に纏う。優仁はクスクスと笑っている。


「本当に可愛いね、君は。僕がずっと傍にいて、護ってあげるよ」


まだ浴衣をきちんと着れず蹲ったままの俺の額に彼の大きな手が触れて。優しいキスが落とされた。


「……!」


真っ赤になり、二の句が継げない。


「…もう一回する?」

「ば、…てめッ…」


触れられたらもう動けない。目をきつく閉じて身をすくませ、彼を待っていると…


あれ?


恐る恐る目をひらくと、優仁は畳の上に落ちた何かを注視している。それを指先で拾い上げ。


「…女の髪だね」


一本の長い黒髪だった。優仁はつまみ上げた髪を口に含む。うえっ何してんだ?


「成る程。…そういうことか」

「そういうこととは?」

「いや、今日はもう休もうか」


布団を直して優仁がさっさと横になる。

え?もう一回は?


「奏多、おいで?寝よう?」


しれっと言いはなった奴の顔に赤面したままの俺が足蹴りを入れたのは仕方ないことだろう。


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