第9話 物の怪たち
障子に映る人影の首が、シュルシュル、と伸びた。頭は見切れてしまい、不気味に天へと立ち上る首と身体だけがシルエットとして残る。
人であるはずがない。俺は裸のまますぐに起き上がる。胸に掛けてある十字架を握り、聖なる言葉を唱えようとした。
「…っ、…!」
それが中断されたのは、首筋に冷たい感触があったから。斜め後ろを素早く振り向く。
天井からなにかがぶら下がっている。白い着物で、ざっくばらんの髪を乱した女だ。彼女が伸ばした赤い舌が俺の首筋を舐めたのだ。
「気持ち悪いんだよッ!」
パッと横転し布団から飛び退く。と、同時、障子を突き破って長い首が迫ってきて。
「ひぃ、ひひひっ」
天井から廊下から。逃げ場を失い俺は壁際に追い詰められる。
もう一度体勢を整え十字架を構えようとしたが、さっと天井の女の舌に奪われてしまった。衣服を着ていればナイフなどの武器があるが、今は丸裸である。壁に背を付けて俺は悪態をつき。
「畜生!こんなモテモテは勘弁してくれッ」
あわや、迫りくる女の顔。俺がギリギリ喉を反らした時だった。
「本当だよ、浮気は勘弁して?」
バターンと障子が倒れた。目映い光に包まれた優仁が現れる。彼の左手から放たれた光に、首長女が消し炭に変わる。続いて右手を彼は天井に掲げた。ぶら下がっていた女がギャーと叫び声をあげ、塵になる。
俺が呆然としていると、浴衣の合わせをゆっくりと直してから俺に近づいてくる優仁の姿があった。
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