第5話 美夜子の話
彼女は各務美夜子と名乗り、近くの大学の学生だと説明した。地域文化交流サークルに属しており、活動の一貫として観光地を訪れる外国人などにガイドをしているのだとか。
「俺は餓鬼の頃に日本を離れたが、れっきとした日本人だぞ」
「あ、僕は地球人ですらないです」
俺は慌てて優仁の口を塞いだ。美夜子はきょとんとしている。
清水寺は見応えがあり、美夜子に一つ一つを解説して貰いながらまわるとゆうに三時間かかった。そろそろ昼時である。
「もし宜しければ美味しいおばんざいの店にご案内しますよ」
おばんざいとは、京都の一般家庭で親しまれる惣菜のことだ。
俺が答える前に優仁がぜひ、と答えてしまう。
清水寺からほど近い場所に案内されると、そこは落ち着いた雰囲気の店であった。
「京都は本当に美しいものと美味しいものに溢れていますね」
優仁は小さな小鉢にいくつもの惣菜が綺麗に盛り付けられたお昼の膳をことのほか気に入った様子で上機嫌だ。
「ええ。でもこんな京都を冒涜するような行為をする人たちもいるんです」
「冒涜?」
俺が聞き返すと美夜子は目を伏せる。
「京都の古い町並みを解体し、新しいビルに作り替え、新たな観光地にしようと…彼らは京都の良さを全く理解していないんです。京都の魂を、売ろうとしているんですよ」
彼らとは、美夜子と同じあるサークルメンバーだという。
そのサークルの名は「京都をぶっ壊す日本人の会」というのだそうで。どこかで聞いたことがあるような。
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