第2話 宿泊場所
結局隣でほれ窓の景色が綺麗だとか、八つ橋が食べたいとかあれこれ騒ぐ優仁のせいで俺はほとんど眠れなかった。
優仁は外見は30代男性である。が、その振る舞いはまるで子供みたいだ。
外見は、というのは、中身が人間ではないからだ。本人曰く高次元な概念的存在であるそうだが、結局それがなんなのか俺にもわからない。
子供のような彼を見ていると、幼い有彦を思いだし、少しだけ胸が痛くなる。
有彦。優仁の元の身体の持ち主であったが、彼は俺と出会う前に死んでいた。それでも、様々な要素が重なり俺は有彦と1ヶ月過ごしたのだ。
まるで家族のように。
失ったものは戻らない。有彦には二度と逢えない。
しかし、俺には優仁がいる。本当は、優仁に有彦へ注いでいた愛をそのまま注げばいいのかもしれないが…
新幹線が京都に到着した。アンジェラを起こして俺達はホームに降り立つ。
「アンジェラ、頼んでおいた宿はどこなんだ?」
俺は日本人であるが、京都に来るのは初めてだ。ならアンジェラに宿選びを任せても変わらぬだろうと思って。
「えーとね、お寺よ」
「は?寺?」
「そーよ、だって宿坊だもの」
宿坊とは、元々僧侶の宿泊する場所だったり、参拝者の心身を清めるための施設として使われていた場所。今は一般人も宿泊できるのだ。
「宿坊安いし。おまけに歴史的な建造物に滞在できて、精進料理、座禅、写経などのカルチャー体験が出来るのよ?最高じゃない」
「まあそりゃ…」
「良いじゃないか、僕は普通のホテルよりそういう場所のが嬉しいよ。ありがとうアンジェラ」
優仁は乗り気のようだ。
「はいじゃあこれ地図。あ、私は京都駅前のホテルに泊まるから、二人でいってらっしゃい」
カバンから取り出したパンフレットを渡された。
「はあ?!お前は泊まらないのか?」
「だってベッドじゃないと寝にくいのよ、私」
宵鳴鳥事件の際に温泉旅館に泊まったのだが、どうもその体験からアンジェラは学んだらしい。
「良いじゃない。二人きりのが。だってハネムーンなんでしょ?この旅行って。私ね、一人旅ってしてみたかったのよね。じゃ、バーイ」
絶句している間にアンジェラはヒラヒラと手を振り去っていく。そして、俺は優仁と二人でホームに取り残された。
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