京都売ります 九条静寂の冒険
蛍
第1話 京都へ
「ねえ奏多、申し訳ないけど僕は納得出来ないよ…」
俺は眠たかった。仕事を終えた後は大体どっと疲れが来るから。
さっきから何冊ものガイドブックに付箋を挟みながら話しかけてくる優仁を、俺はうっさいとばかりに手で払う。
しかし新幹線の二人席に逃げ場はない。
「…ねえ、本のここ見て?君が立てた観光コースだと清水寺に寄れないじゃないか。京都に行くのに清水寺を観ない訳にはいかないだろ?あと、南禅寺の湯豆腐が僕は食べたいのだが、二日目の昼食には無理かな?」
今時ガイドブックなんか買わないでも、観光情報などネットでいくらでも見れるのに。
しかし、優仁は本を捲りあれこれ悩むのが楽しいらしい。もう好きにさせておく。
一人で広い席に座り安らかな寝息をたてているアンジェラが心底羨ましいが、京都にでも旅行に行くかと言い出したのは俺だから仕方ない。
俺の名は九条静寂。人ならざる存在を駆除するエクソシストだ。シスターであるアンジェラとコンビを組み、ニューヨークを舞台に様々な事件を解決してきた。
今は紆余曲折あり、日本にいる。そして、京都に向かう新幹線に乗っていた。目的は仕事ではなく観光だ。
おっと、隣にいる騒がしい男を紹介し忘れた。彼の名前は内藤優仁といい、俺の…
俺の?
「奏多、聞いてるのか?」
「聞いてるよ…わかった、南禅寺な。わかったから少し眠らせてくれよ…京都に着いたら起こしてくれ」
奏多というのは優仁が俺を呼ぶ時の名前で、まあ、あだ名みたいなもんだ。いくら言っても優仁は頑として呼び方を変えないからもう諦めている。
まだユサユサと俺の肩をゆすってくる優仁に冷凍みかんを押し付け、俺は帽子を目深にかぶり眠りにつくことにした。
旅はまだ始まったばかりである。
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