第2話

「塔子ちゃんへ


 あなたがこの手紙を読んでいるなら、私の相続は遺言書どおりに済んだのでしょう。

 私が死んだら、ほかのものはどうでもいいけど、私がもっとも愛したこの家だけは、塔子ちゃんにあげようと、ずっと思っていました。なぜって私の親戚の中で、私の財産だけを見ずに、私の絵を見てくれるのは、あなただけですから。

 塔子ちゃんも知っての通り、私はここの森がとても気に入って、この土地を買いました。この森は特別な場所で、神様がすんでいらっしゃるのです。神様といっても、神社や教会で祀られているような神様ではなく、もっと原始に近いものです。人間にやさしいばかりではないのです。

 ですからこの土地で暮らす以上は、ルールを守らなければいけません。


 ひとつ。日が暮れたら家の外に出ないこと。夜は神様が森の中を歩く時間です。

 ふたつ。もし外にいるうちに日が暮れてしまったら、無理に森に入らず、近所の家に泊めていただくこと。私が日頃の世話をお願いしている永井さんのお宅なら、快く泊めてくださるでしょう。

 みっつ。それでも外に出てしまったときのために、よく覚えておいてください。

 日が落ちてから外にいるときに、太い弦をはじくような音がしたら、神様が近くにいらっしゃいます。絶対に後ろを振り向かず、ゆっくり歩いて家に戻るのです。走ってはいけません。あなたが走れば相手も走るのですから。

 よっつ。家の中にいるときでも、夜はしっかりとカーテンを閉め、外を見ないようにしてください。呼びかけてくる人がいても無視してください。それは人ではありません。」


 大叔母からの手紙は、そこで終わっていた。

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