第14話:いいえ、通りすがりの冒険者です

【Ⅰ】魔王城を探検だ!

「まてまてー」



 カコカコカコ、と乾いた足音を響かせて、骨の魔物が錆びた剣すら放り捨てて逃げ回る。


 骨の魔物を追いかけ回して魔王城の奥地までやってきたユウは、なかなか追いつくことが出来ない骨の魔物に対して「むー」と頬を膨らませる。

 レベルカンストではあるが、ユウはそこまで身体能力が高い訳ではない。魔法に特化しているだけであって、それ以外は全てゼノ頼りだ。


 不満げに頬を膨らませて地団駄を踏むユウに、ゼノが頭を撫でてやりながら言う。



「追いかける役目はアタシがやるから、オマエは魔法に集中しろ」

「うん」



 ユウはしっかり頷くと、綺麗な装飾が施された長杖ロッドを握り直す。


 骨の魔物はユウを嘲笑うかのようにカコカコと踊るが、代わりに出てきたのは身体能力が非常に高いゼノである。

「ざまあ」と言わんばかりにカコカコと軽い足取りでユウを馬鹿にするが、一瞬で肉薄してきたゼノに骨の魔物の動きが止まる。「ざまあ」と言うべきなのは、ユウの方だ。



「うちの魔法使いを馬鹿にしたのか、オマエ?」



 暗闇の中にあってもギラギラとした光を失わない赤い双眸で骨の魔物を睨みつけ、ゼノは髑髏ドクロの鼻っ面めがけて拳を叩き込む。


 がしゃーんッ!! と骨の魔物の頭が飛んだ。

 頭が暗闇の中に吹っ飛んで消えていき、頭蓋骨をなくした胴体はオロオロとその場を右往左往する。無防備な状態の骨の魔物へ、ユウが「《ごろごろどん》!!」と最上級雷魔法を叩き込んだ。


 薄闇を照らす閃光。天井から落ちた雷が、骨の魔物の胴体を黒焦げにする。

 ただの骨の状態に戻った魔物の残骸から、黒い粒子がしゅうしゅうと抜けていく。これで討伐完了だ。



「ゼノ、ゼノ、あと何体?」

「これで終わりだな」



 ゼノは仕事の内容が書かれた羊皮紙に視線を走らせて、その表面をユウに見せる。


 羊皮紙の上には大きな文字で『完了』と表示されていて、すでにカロンナイトを五〇体倒したことを示していた。想定よりも早く仕事が終わってしまった。



「本当に終わり?」

「終わりだな。ほれ、帰るぞユウ坊。あまり長居すると、余計な魔物に見つかるだろ」

「うん」



 ゼノに帰還を促され、ユウは頷く。


 しかし、問題がある。

 ここは一体どこだろうか?


 気づけば随分と魔王城の奥まった場所までやってきてしまったようで、見覚えのない調度品や絵画が飾られていた。

 同じような廊下もあらぬ方向へ伸びていて、果たしてどちらからやってきたのかユウもゼノも覚えていない。


 ゼノは「仕方ねェな」と呟くと、



「ユウ坊、転移魔法は使えるか?」

「ええー、ぼく歩いて帰りたい」



 まだまだ魔王城の探検がしたいユウは、転移魔法を使わずに歩いて帰る希望をゼノに訴える。


 ゼノも同じ考えだったようで、ユウの我儘を「そうだな、そうするか」と二つ返事で受け入れた。彼女もまた、魔王城などという珍しい場所を楽しんでいないのだ。



「じゃあ、もう少し探検するか。お宝があるかもしれねェし」

「お宝? 何かな、何があるかな?」

「金銀財宝だろうな。魔王なんだから、結構貯め込んでたりするだろ」



 もはや考えが盗賊のそれである。


 ユウは「ほーせき、ほーせき」とまだ見ぬお宝を想像して小躍りし、ゼノもまた魔王城から財宝を強奪する気満々である。

 財宝が云々と考えるより、魔王を倒すことが先決だという常識は彼らにはない。この場にローザがいれば、おそらく「魔王を倒してからそう言え!!」とツッコミを受けそうだ。


 彼らを止める役目を追う人物がいないので、自称レベル0のユウとゼノは暴走する。手綱を握る人物がいなければ、そんなものである。



「きれーなほーせき、あるかな?」

「あるだろ。ここは魔王城だぜ? 財宝ぐらい貯め込んでなけりゃ、王様を名乗れねェだろ」

「そっかぁ。どんなほーせきがあるかな、赤いかな? 青いかな?」

「赤も青もザックザックだろうよ」

「ぼくの杖、もっとつけられるかな?」

「これ以上装飾をつければ、めちゃくちゃ重くなるぞ。止めとけ」



 魔王城に貯め込まれた財宝を探し求めて、ユウとゼノは城のさらに奥地へ進んでいく。

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