【Ⅳ】最後の四天王、撃破
「お、お、おで、おでは、おでででは、ま、ままま、魔王様のして、してして、四天王の、かかかか、かい、かい、改造人間、だぁ」
大男はニヤニヤとした気持ちの悪い笑みを浮かべて、自分の正体を明かす。
ゼノは首を捻り、それからユウへ振り返った。
「改造人間?」
「多分ね、闇魔法で改造された人間さんのことだよ。あの大きな体も、魔法でたくさん改造されたから太ってるんだよ」
ユウも初めて改造人間を目にするので、予測でしか判断できない。
だが、魔法で人間を改造するなんて酷すぎる。倒しても、おそらくもう人間に戻ることはない。
改造人間は引き裂くような笑みを浮かべると、樽のような腹を揺らして笑う。
「ひ、ひひひ、ひひひへへへぇ。ほ、ほほほ、他の、四天王はぁ、むむむ、むの、無能だったからぁ。へへへ、へはははは、ま、まままま、魔王様はお怒りだよぉ」
他の魔王四天王と違って、彼は特に醜悪であり気持ち悪い。
ユウ
改造人間は腕に突き刺さった弓矢を抜き、足元に捨てた上で丁寧に踏み折る。
「おおお、おで、おでは、強い、よぉ。おめ、だぢなんで、一捻りだよぉ」
改造人間が太い腕を伸ばすより先に、ゼノが銀色の
放った矢は的確に改造人間の右目を射抜き、真っ赤な血が噴き出る。
改造人間は痛がる素振りを見せずに右目に刺さった矢を引き抜き、鬱陶しそうに叩き折る。
「こ、こ、こんなの、こんな、痛く、痛くなぁいよ」
「改造人間だからなぁ、弱点なんかあってないようなモンか……」
ゼノは極小の舌打ちをする。
ユウも珍しいことに、改造人間に対する魔法を考えあぐねていた。
相手はゼノの弓矢をまともに食らっても、痛がる素振りを見せないほどの体力を有り余らせている。魔法を連続で何発も当てても、あの改造人間には通用しないはずだ。
「チッ、風船みてェな図体だから、刺せば割れるかと思ったがな」
「あ、それだ」
「え、どれだ?」
ユウが思い付いた作戦をゼノに伝えると、彼女は意地悪そうな笑みを見せた。それからユウの頭をぐりぐりと撫でる。
「そりゃあいい。ユウ坊、やってやろうじゃねェか」
「うん。あれを倒して、また骨の魔物さん倒そう」
「そうだな。魔王四天王をもう三人も倒してんだ、最後の一人を倒して仕事を終わらせようぜ」
ゼノは長弓を構えて、改造人間へ向き直る。
改造人間はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべるだけで、その脂ぎった手を握り込んで拳を作る。子供のようにぐるぐると肩を回して勢いをつけ、ゼノめがけて殴りかかった。
しかし、ダークエルフの彼女は遥かに身軽である。
軽々と跳躍で床に突き刺さる拳を回避すると、その太い腕を伝って改造人間の体を駆け上がる。
風のような速さで駆け抜けながら、ゼノは弓矢を放つ。真っ直ぐ飛んでいった弓矢は、改造人間の左目を射抜いて視界を完全に奪う。
「あだ、いだだだ、ぁ、あああ」
目を押さえながら改造人間は呻き、見えないながらもゼノを振り払おうとして腕をめちゃくちゃに振り回す。
ゼノはすでに改造人間から遠く離れていて、ユウに親指を立てて合図を送った。
今までの攻撃は、全てこの為だ。
そしてゼノの言葉通り、風船のようになったこの改造人間を破裂させてやる。
ユウは長杖を振り回すと、
「《やみやみちゅーにゅー》!!」
暗闇の中から黒々とした太い管が、改造人間の太った体に突き刺さる。
それは背中に、腕に、腹に、首に、容赦なく刺さった。ぐねぐね、うねうねと蛇の如く意思を持ってうねる管は、内部が膨らむと何かを改造人間へ注入した。
改造人間は管を引き千切ろうとしたが、中に何かが注入されたことで唾を飛ばしながら絶叫する。
「い、いぎゃあ、あががが、があああ、うが、がが、な、なに、なあにごれぇ、ぎもぢわるいぃ」
ジタバタと暴れる改造人間は管を引き千切ろうとしているようで、だが腕が届かずに管は絶えず何かを注入してくる。
それらが改造人間には気持ち悪いのだろう。
体に異物が蓄積していく様が耐えられず、巨体をバタバタと暴れさせながら管を引き抜こうをもがく。だが、管は体に張り付いたように暴れても抜けることはない。
「あが、ぁあああ、やだ、や、あ、ぐああああッ」
パァン、と。
改造人間の腹が、内側から弾ける。
赤い液体を撒き散らし、肉片を飛ばし、腹を食い破られた改造人間は仰向けで倒れた。デロリと舌を出して改造人間は死に絶え、その死体は途端に液状化する。
ユウは「ぴえッ」と改造人間の最期を目の当たりにして、ゼノの後ろに隠れる。
「やだぁ、気持ち悪い!!」
「ユウ坊、何を注入したんだよ」
「? その辺に漂ってるでしょ?」
ユウはキョトンとした様子で言い、指で骨の山を示す。
そう、漂っているというのは黒い粒子――闇の粒子と呼ばれる魔物の源だ。
ユウは魔法で闇の粒子を掻き集め、あの改造人間へ注入させたのだ。
ゼノは優秀な魔法使いの頭を撫でてやり、ユウは自慢げに笑う。
「凄いでしょ」
「凄い凄い」
ユウの背中をポンと押し出して、ゼノは「じゃ、行くか」と言う。
「カロンナイトを倒してさっさと帰らねェと、ローザの奴にどやされるからな」
「うん、行こ」
ユウはしっかりと頷いて、ゼノと一緒に魔王城の奥へ進んでいく。
その最奥に、全ての終わりがあるとは知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます