【Ⅴ】ダンジョン突入
「さあ、ダンジョンへ出発するぞ!!」
誰かのかけ声で、ダンジョン攻略が始まった。
ぞろぞろと大勢の冒険者が洞窟の中に入り込み、ユウたちもその最後尾に続く。
ゴツゴツとした岩肌がどこまでも続き、肌を撫でる空気はひやりとしている。
洞窟内は薄暗く、明かりがなければまともに進めない。さらに道幅も狭く、人一人通るぐらいが精一杯だった。
ユウは洞窟内をぐるりと見渡すと、
「狭いねぇ」
「そうだな」
後ろから続くゼノが同意する。
洞窟内は狭いので、魔法を発動しただけで崩落してしまいそうだった。これは少し、攻撃魔法は自重しなければならないだろうか。
というか、他にも冒険者がいるので、別に活躍しなくてもいいような気がしてきた。他の冒険者は誰も彼も腕利きなので、きっとユウやゼノが活躍する場面はないだろう。
欠伸をしながらユウの後ろを歩くゼノが、
「これだけ冒険者がいるから、怖がって魔物も出てこねェんじゃねェか?」
「そ、そうですね。それもあり得るかもしれません」
ゼノの後ろに続くミザリーが、苦笑すると共に言う。
「これだけ人がいれば、かえって魔物は警戒するかもしれませんね」
「さあね、それはどうかしら?」
ミザリーの後ろ――冒険者の集団の一番後ろを歩いていたシュラが、
「馬鹿な魔物は出てくるかもしれないわよ。魔物にも、知能がある魔物と知能がない魔物の二種類がいるんだから」
彼女がそう言うと同時に、前方から「魔物が出たぞ!!」と声がかかる。
どうやら前方で魔物が出たようだが、残念ながら最後尾を歩くユウたちは姿を確認できない。ユウはぴょんぴょんと飛び跳ねてどんな魔物が出たのか確認しようとしたが、なかなか姿が確認できない。全て前方にいる冒険者が完結してくれるだろう。
つまらなさそうに唇を尖らせたユウは、
「つまんなーい」
「まあ、ダンジョンの主のところまで行けば出番もあるだろうよ。機嫌直せ」
「むー」
それでもユウの機嫌は直らず、ぷぅと頬を膨らませてゼノの手のひらに頭をぐりぐりと押し付けた。これだけで機嫌が直ると思ったら大間違いである。
ノロノロと洞窟内を歩いていくと、パッと唐突に視界が開けた。どうやら洞窟内の広い部分に行き着いたようで、硬い足元には骨のようなものが転がっている。
動物の骨かと思ったが、よく観察してみると人骨のようだった。
「うわあ!! ゼノ、ゼノ!! 骨が落ちてる!!」
「うわ、骨だけ残して綺麗に食われてやがるな。いっそ清々しい」
驚くユウをよそに、ゼノは地面に落ちた人骨を拾い上げる。
「日にちが大分経過してる。食われたのは結構前じゃねェか?」
「ゼノ、それ早くポイして!! 怖い!!」
「お? ユウ坊、こんなのが怖いのかよ」
怯えたようにミザリーの背後に隠れるユウに、ゼノはニヤリと笑うと拾った人骨を彼の眼前に突きつけた。
ユウは「ぴぃッ!!」と甲高い声で叫ぶと、長杖を両手で握りしめて魔法をぶっ放す体勢を取る。さすがに命の危機を感じ取ったらしいゼノが、軽い調子で「悪い悪い」と謝りながら人骨を捨てた。
その時だ。
「おい、これは遊びじゃねえんだぞ!! 前の方は魔物との戦いで大変だってのに……真面目にやらなけりゃ死ぬぞ!!」
人骨云々のやり取りを見ていたらしい他の冒険者が、ユウとゼノを叱責する。
真面目にやれと言われても、最後尾を歩くユウたちまで魔物がやってくることはない。最初から最後まで緊張感を保っていたら、逆に疲れてしまう。
いきなり怒鳴られたことに驚いたユウは、急いでゼノの後ろに隠れる。ミザリーやシュラもまさか怒鳴られるとは思わなかったらしく、二人してユウを真似してゼノの背後に隠れた。
盾にされたゼノはやれやれと肩を竦めると、
「最後尾まで魔物がやってくるかよ。やってきたらこっちで処理するから、オマエらも適当にやっとけ」
「…………ダンジョン攻略を舐めやがって」
四人を叱責した冒険者は、吐き捨てるように言うと前方を目指して踵を返した。
ユウはゼノの背後からひょっこりと顔を出し、遠ざかっていく冒険者の背中に「べー」と舌を出す。シュラも「何よあいつ」と文句を呟き、ミザリーは反省するように「す、すみません」と小声で謝っていた。
「普段は自己責任とか謳っておきながら、今更ちゃんとやれだなんて馬鹿らしいわよ。いいじゃない、自己責任で。生きるも死ぬも自己責任よ」
「シュラちゃん……さすがに言い過ぎだよ。あの冒険者さんが言ってたことは事実だもん……」
「弱気になってるんじゃないわよ。冒険者なら堂々としてなさい」
シュラが弱気になるミザリーを叱咤する横で、ユウはある部分に気づいた。
ゴツゴツとした岩肌の壁に、一部だけ不自然に出っ張った部分があるのだ。まるで全身で「押せ」と言っているかのような。
ユウはその出っ張った部分に近寄ると、
「ゼノ、これ押していい?」
「あ? 何だよ」
ゼノはユウが押そうとしている出っ張りを一瞥すると、興味なさげに「いいんじゃねェか?」と返す。
許可が下りたユウは、遠慮なく出っ張りを指で押し込んだ。
出っ張りはユウの指に押されて引っ込むと、出っ張りの周囲が横に滑った。まるで扉が開くように、ゴツゴツとした岩肌の壁が横に動いて、その向こうに隠されていた道を示す。
「おおー」
思わぬところに出現した道に青い瞳を輝かせたユウは、
「ゼノ、ゼノ、行こう行こう!!」
「分かった分かった、暗いからはしゃぐな」
「ええ!? いいんですか行っちゃって!?」
「隠し通路ね、燃えてきたじゃない……!!」
ゼノを引っ張ってユウは岩肌の壁の向こうから出現した道を進み、シュラもユウとゼノの後ろに続いて道を進んでいく。
一人で残されたミザリーは少し逡巡する素振りを見せてから、泣きそうな声で「ま、待ってくださいぃ!!」と叫ぶと三人を追いかけた。
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