【Ⅲ】若い男の誘いにはご注意を

「やあ、君たち。可愛らしい女の子二人だけで参加かい?」



 ダンジョン攻略が早く始まらないかと心待ちにしていると、ニコニコと爽やかな笑みを浮かべた男が近寄ってきた。


 動きやすそうな革製の鎧と槍を装備し、明るい茶色の髪を持つ爽やかな印象の青年である。顔立ちも端正なものであり、女性であれば放っておかないような雰囲気がある。


 キラリと白い歯を輝かせながら笑う青年は、



「ああ、僕はレオル。レオル・ジーナさ。若い女の子二人だけのパーティかい? よかったら僕たちのパーティと組まないかい?」



 レオルと名乗った青年は、どこかを親指で示す。

 その先には彼と同い年らしき男性のみで組まれたパーティが待っていて、ミザリーとシュラの視線を受けると、彼らはにこやかな笑みで手を振ってきた。


 ミザリーは「えっと……」と上手く断る言葉を探しているようだったが、気が強いシュラがレオルの顔を見上げると強めの言葉で断りを入れる。



「私たち、もうパーティを組んでるの。それに私たちも一端の冒険者よ、舐めないでくれるかしら?」

「え、えっと? 確かにそれは失礼なことをしたね……でも二人だけじゃないのかい?」

「アンタにはそこにいる二人の姿が見えていないのかしら。もしそうだとしたら、その目は節穴ね」



 シュラが顎で示した先には、近くにあった屋台に引き寄せられるユウとそんな少年の襟首を引っ掴んで屋台に近づくことを阻止するゼノの姿があった。

 はた目から見れば、ダンジョン攻略の前にしては緊張感のない二人だと思えるだろう。


 レオルの視線に気づいたのか、ユウの襟首を引っ掴んだままゼノが「何だよ」と応じる。



「君も彼女たちのパーティの一員かい? もしよければ」

「失せろ」



 ゼノの答えはたった一言だった。


 それはもうよく砥がれたナイフの如く、レオルの誘いを最後まで聞くことなくぶった切ったゼノは「ユウ坊、いい加減にしろ」と屋台に視線を釘付けにするユウを叱る。


 ユウは不満げに唇を尖らせてゼノに文句を言おうとしたが、刃のようなゼノの暴言を受けて固まったレオルの存在に気付いて首を傾げる。



「おにーさん、だぁれ? どうしたの?」

「……き、君も彼女たちのパーティかい?」

「うん、そうだよ」



 気が強いシュラや聞く耳すら持たなかったゼノとは違い、ユウはレオルに対して笑顔で応じる。


 この少年だけは話が通じるとでも思ったらしいレオルは、早速とばかりに本題を切り出してくる。



「もしよかったら、一緒にパーティを組まないかい?」

「ううん。もういらない」



 話はちゃんと聞くが、ユウはとても正直だった。


 きちんと首を振ってお断りの意思を示すと、



「あまり増えちゃうと、魔法に巻き込んじゃうから。おにーさんたちも応援してあげるけど、一緒にはいけないよ」

「あ、うん……そう……なんかごめんね……」



 ユウにまでやんわりと断られ、レオルはしょんぼりとした様子で自分の仲間たちのもとに戻っていった。


 物寂しげなレオルの背中を眺めて、ユウは「可哀想だったかなぁ?」とゼノにお伺いを立てる。


 美しきダークエルフは清々しい笑みを浮かべると、ユウの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。



「よくやった、ユウ坊。変な奴の誘いには乗るなよ」

「ん? うん、分かったよ。ゼノが言うならそうするね」



 よく分からないが、ゼノの言うことなのでユウは特に考えることなく頷いた。


 ☆


 ウィラニア全体に響くような鐘の音を合図にして、ダンジョン攻略の為に組まれたレイドパーティがついにウィラニアを旅立った。


 たくさんの冒険者がゾロゾロとウィラニアを旅立ち、さながら遠足よろしくダンジョンのある場所まで歩いていく。

 その中に混ざるユウ、ゼノ、ミザリー、シュラの四人組は、最後尾を雑談しながら歩いていた。



「ねえねえ、ゼノ。だんじょんってどこにあるのかなぁ?」

「さあな。歩いて行くぐらいだから、そんなに遠くねェんじゃねェか?」



 長杖を両手で大切そうに抱えるユウは、隣を歩くゼノに問いかける。


 特に説明を受けていないゼノは適当に返答するが、他の冒険者に確認しようとすることはなかった。結局のところ、この美しきダークエルフは自分の周りにしか興味はないのだ。



「今回のダンジョンは、歩いて三〇分ぐらいのところよ。ウィラニアからの街からも近いから、すぐに攻略する為に今回のレイドが組まれたのよ」

「そうなんだぁ。おねーさん、やっぱり物知りだねぇ」



 きちんと事前に情報収集していたシュラが自信満々に「もっと褒めていいのよ」と胸を張り、ユウが万雷の拍手でシュラを称賛した。


 すると、唐突にパーティの動きが止まった。

 前を歩く冒険者たちは「おい、何があった?」「立ち止まるなよ」と文句を言う。


 例外に漏れず立ち止まったユウたちも、何が起きたのかと揃って首を傾げた。



「ゴブリンが出たぞ。魔法使いや治癒師ヒーラーは支援魔法で前衛職を支援してくれ」

「ごぶりん!?」



 ゴブリンを敵視するユウは、その指示を聞いて瞳に闘志を燃え上がらせる。彼は両手で握り締めた長杖ロッドを構えると、



「《ごろごろどん》!!」



 容赦がなかった。


 相手も見ずに、容赦なく魔法を叩き込んだ。


 晴れ渡った空から雷が落ち、敵として現れたゴブリンが一瞬で黒い粒子に変換される。他の冒険者は武器を構える間もなく終わってしまった戦闘に、唖然と立ち尽くしていた。


 他の冒険者の気持ちなど一切汲み取らず、ユウは頬を膨らませて言う。



「ごぶりんはみんな倒すの!!」

「おー、今日も凄ェな」



 ふざけた魔法の呪文で発動した最上級雷魔法を前に、ゼノは「絶好調だな」と笑っていた。

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