【Ⅲ】初めてのお仕事
「え、えっと、まずは仕事の依頼なんですが……お二人は依頼をお断りされてしまったんですよね?」
「うん。受けられるお仕事がないんだって」
ミザリーの質問に対して、ユウは大きく頷く。
少しだけ考える素振りを見せたミザリーは、
「冒険者に登録した以上、冒険者の依頼をお断りされるなんてことはあり得ません。もしかしたら、お受けしようとした依頼の推奨レベルに達していないのかも……」
「だろうなァ。アタシら、レベル0だしな」
ミザリーの指摘に、今度はゼノが応じる。
冒険者カードにレベルが表示されていないので、ユウもゼノも初心者という意味合いを込めて『レベル0』となっているものだと思っている。
これは誰もが通る道で、きっと何でも知っているミザリーや他の人はユウとゼノよりも強いのだ。そうに違いない。
ミザリーは不思議そうに「レベル0って聞いたことがないのですが……」と小さく呟くと、
「それでしたら、私が受けようとしたお仕事を一緒にしませんか? 近くの森でゴブリンの討伐依頼がありまして」
「ごぶりん!? ゼノ、ぼく頑張るねッ!!」
「おう、気合が凄ェな」
「……何故ゴブリンに対して強い
めらめらと闘志に燃えるユウに、ミザリーは若干引き気味で言う。
ユウにはゴブリンに夕飯を邪魔された恨みがある。その恨みは彼の奥深くまで届き、ゴブリンに出会ったら絶対に「《ごろごろどん》」をしてやる所存だ。
コホンと咳払いしたミザリーは、
「それでは冒険者カードを出してください。パーティの申請をいたします」
「パーティ? 何かのお祝いごとなの?」
「違いますよ、ユウさん。パーティとは冒険者のチームみたいなものです。冒険者は複数人で行動するのが基本ですからね。このパーティがたくさん集まると、今度はレイドと呼ばれるようになります」
「へえ、凄いんだね」
あまり重要性をよく分かっていないユウは、いそいそと自分の冒険者カードを取り出す。同じように、ゼノも冒険者カードを取り出してミザリーに突き出した。
ミザリーは二人の冒険者カードの情報に目を走らせると、
「あの、お二人とも」
「なぁに?」
「何だよ」
「レベル0と仰っていましたよね……?」
「そうだよ」
「そうだな」
「……これ、レベル0ではないかと思うのですが」
「え、そうなの?」
「え、そうか?」
二人してほぼ同じような反応をすることから、本当に冒険者について何も分かっていない。
レベルが表示されていないのだから、レベル0ではないのだろうか。
だってユウとゼノは初心者なのだ。初心者なのだから、レベル0は必ず通る道ではないのか?
ミザリーは「あはは……」と苦笑し、
「おそらくですが、お二人のレベルがとても高い状態なのでしょう。この状態はカンストと呼ばれていまして、もうレベルの上限値に到達していますよってことなんです」
「ええー、ぼくたちそんなに強いのかなぁ?」
ユウは不思議そうに首を傾げる。隣のゼノも疑問に思っているようだった。
この世界について何一つ知らず、それなのに強さの基準となるレベルが0ではなく上限値に達するとはどういう意味なのだろう。
確かにユウはたくさんの魔法が使えるし、ゼノは弓術に関しては超一流の腕前を持っている。
だが、それだって世界中を探せばユウとゼノを超えるぐらい強い人は存在するだろう。保証はないが、世界は広いのだから。
自分たちの強さに理解がないユウとゼノは、
「じゃあ、冒険者カードがおかしくなっちゃったのかな」
「田舎から出てきたからなァ。計測できずにおかしくなっちまうのかな」
「お、おそらくそれはないと思いますが……」
ミザリーは「ともかく」と続けると、
「レベルがカンストしている状態でも、冒険者としては駆け出しですから、まずは簡単なお仕事をこなして慣れていきましょう」
「はーい! よろしくお願いします、せんせー!!」
「おう、よろしく頼むな先生」
「あ、あの、先生って呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしいです」
無事にパーティを結成することが出来た三人は、早速ゴブリンの討伐に向かうのだった。
☆
ウィラニアから少し離れたところに、ルガルー森林がある。討伐依頼を受けたゴブリンは、その森に生息しているらしい。
徒歩で二〇分ほど歩けば到着できる、比較的規模が小さくて明るく静かな森だ。
依頼内容はゴブリン五体の討伐。
討伐した証として、ゴブリンを討伐した際に必ず落とすゴブリンの爪を五つ拾ってきてほしいとのこと。他にも素材を落とした際には、冒険者同士で分けてもいいらしい。
――そして現在。
この世界で比較的弱い魔物に分類されるゴブリンは、ダークエルフの美女によって追いかけられていた。
「ぎゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃッ!?」
「ほーらほーら討伐するぞーオマエの頭の後ろで矢を構えてるぞーどタマぶち抜かれたくなけりゃキリキリ走れェ」
銀色の
一方でユウは、
「《ごろごろどん》!!」
「きゃーッ!!」
目についたゴブリンに向かって雷を落として黒焦げにして、ゴブリンは一匹残らず討伐してやらんとする勢いだった。
青い魔石が埋め込まれた
「せんせー、大丈夫?」
「あ、はいすみません」
「何で謝るの?」
「……あの、やっぱりレベルカンストって凄いなぁって」
ミザリーはもはや遠い目をしていた。
彼女がどうして遠くを見つめるのか分からず、ユウは長杖を両手で抱えて首を傾げる。元気がないのなら応援でもしてあげるべきだろうか。
すると、追いかけ回していたゴブリンを仕留めてきたゼノが、汚れた爪を手で弄びながら戻ってくる。
「これで五体討伐か? 随分と呆気ねェな」
「ゼノ、ぼくまだ倒したい」
「ゴブリンに対して恨みを抱きすぎだ」
ゼノに「五体までだろ」と注意されて、ユウは不機嫌そうに唇を尖らせる。まだ倒したりない。
ミザリーは木を削り出して作られた杖を握りしめると、
「そ、それでは帰りましょうか。これでお仕事は完了しましたので」
「はーい、せんせー」
「先生、顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「ちょ、ちょっと……あはは……お気になさらず……」
苦笑いを浮かべるミザリーがくるりと踵を返すと、その歩みを止めてしまった。
唐突に歩かなくなってしまった少女に首を傾げるユウとゼノだが、彼女の視線を追いかけていけばすぐにその原因が分かった。
森の入り口から、少女の五人組が歩いてくるのだ。
その三人組の先頭を歩いているのは、今朝ミザリーに「役立たず」と宣告して突き放した軽鎧姿の少女である。
「あら、こんなところで何をしているのかしら。役立たずの
嫌味ったらしく挨拶してきた軽鎧の少女に、ミザリーは唇を噛み締めた。
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