【Ⅳ】仕返し
「もしかして、もう他の冒険者を
軽鎧の少女は嘲笑と共に嫌味にも聞こえる言葉を吐く。
ふわふわとした金色の髪に色素の薄い茶色の瞳、やや勝ち気な印象を与える顔立ちは不遜な態度がよく似合う。黙っていればそこそこ可愛らしい少女だが、意地悪な性格のせいで全てが台無しになってしまっていた。
上等そうな軽鎧を身につけて、その腰には直剣を吊るしている。武器も防具もそれなりに金がかかっているようで、それらが彼女の自信を後押ししているようにも見えた。
口を噤むミザリーに、軽鎧の少女はなおも続ける。
「アンタ、役立たずなんだからすぐにまた捨てられるわよ。それとも、そこの男の子の慰め者にでもなるつもり?」
「ん? ぼく?」
いきなり話題に出されたユウは、訳が分からず首を傾げる。
「ぼくが何? ぼくがせんせーに何かするの?」
「――え、何こいつ。頭おかしいんじゃないの?」
軽鎧の少女は怪訝な視線をユウにくれてくる。
彼女の反応は当然だ。
見た目こそ立派な青年とも呼べるユウだが、中身だけは何故かそこら辺の子供と同じぐらいの精神年齢である。見た目は大人、中身は子供とか頭がおかしいと疑われる。
しかし、少女の言葉はユウに全く届いていなかった。
ムッと彼は唇を尖らせると、
「ぼくおかしくないもん!! 性格悪いおねーさんに言われたくない!!」
「誰が性格悪いですってぇ!?」
「悪いもん!! 意地悪すると、お友達は減っていくんだからね!!」
ユウがビシッと指摘するが、少女は「はあ?」と返す。
「友達? そんなの必要ないですけどぉ? あのね、私とパーティを組みたいって人は大勢いるのよ。いくら減ろうが関係ないわよ」
軽鎧の少女は自信満々で言い放つ。
彼女は、何もしなくても自分に人がついてきてくれるという絶対の自信がついていた。魔物との戦闘時に常時展開されるパッシヴスキルを餌にすれば、誰でも自分に媚び諂うとでも思っているのだ。
おそらく、彼女の後ろの少女たちも、この軽鎧の少女が有するパッシヴスキルしか見ていない。魔物に殺される可能性を少しでも減らすことが出来るのであれば、性格の悪い小娘を相手にだってニコニコと笑顔で接する。
結局のところ、彼女たちの関係性はパッシヴスキルのみで成り立っているのだ。
それがなければ、おそらく軽鎧の少女には誰もついてこないだろう。
だからこそ。
ユウは純粋な気持ちで、そんな言葉を口にした。
「可哀想なおねーさんだね」
「……可哀想?」
「うん。おねーさん、可哀想だよ。中身が何もないんだもん」
ユウは青い瞳で真っ直ぐに少女を見つめると、
「性格が悪いって言っちゃってごめんね、おねーさん。何でも持ってるように見えて、何も持ってないんだもん。可哀想だね」
「――何よそれ、私が可哀想? ふざけんなッ!!」
少女が声を荒げると、その後ろで控えていた四人の少女たちはビクリと怯えたように肩を震わせる。集団を率いる存在である軽鎧の少女が怖いのだろう。
「私は可哀想じゃない!! 中身がない? 笑わせないで!! 私には『聖騎士の行進』っていうパッシヴスキルがある!! それだけじゃない、冒険者としても十分に強いわ!! 少なくとも、昨日今日で冒険者になったようなアンタとは違うのよ!!」
自分自身に対して自信がある少女は、ユウにそう主張した。
ユウは青い魔石が特徴の
「《ふーいん》」
青い魔石がチカチカと明滅すると、眩い光が軽鎧の少女を包み込んだ。
少女は「きゃあッ!!」と甲高い悲鳴を上げるが、光はすぐに収まる。
攻撃魔法の類ではないようで、少女には傷一つついていなかった。
自分の体や顔をペタペタ触って確かめる少女は、キッとユウを睨みつけてくる。
「何するのよ、この変人魔法使い!! 今この場で殺して――」
「おねーさんのパッシヴスキル、もうないよ」
ユウは何でもない調子で告げる。
少女は「はあ?」と返すが、それ以上何も言わないユウに対して不安を抱いたのか、彼女は自分自身の冒険者カードを取り出す。
そこに書かれている個人情報に視線を走らせると、サァと顔を青褪めさせた。
「な、何で? 私のパッシヴスキルが、なくなってる!?」
「あー、ユウ坊の封印魔法だな。あれ、前にユウ坊を怒らせた時に食らったんだけど、本当に何も出来なくなるからな」
後ろで傍観していたゼノが懐かしそうに呟く。
ミザリーが慌ててゼノへ振り返り、
「え、あの、大丈夫なんですか? 封印魔法って確か最上級魔法のような……」
「そのうち解けるだろってタカを括ってたんだがな、三日経っても解除されなかったんだよな。だから謝り倒して解いてもらった」
ケロリとゼノがその時の情報を明かし、
「まあ、今回は別にユウ坊は怒ってねェし。諦めて最初からスキルを育てたらどうだ? 謝っても多分ユウ坊はその魔法を解いてくれねェだろうし」
「何よそれ、直しなさいよ!! ねえ!?」
軽鎧の少女はユウに詰め寄るが、肝心の本人はツーンとそっぽを向いて少女を無視する。
「おねーさん、冒険者としても強いんでしょ。それに他のお友達もいるし。あのお化けにも勝てるよね」
「お化け? 何を言って――」
はぁ、と生温かい息遣いが聞こえた。
少女はゆっくりと振り返る。彼女が率いていた少女たちもまた、同じように。
そこには樽のような腹と高い身長、しかし身長に反して小さな頭が乗った巨大なゴブリンが立っていた。
少女たちを
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