第4話:あの傲慢な騎士に制裁を

【Ⅰ】仕事が請け負えない!?

 早速、冒険者として仕事を請け負おう。



「おはよーございます! お仕事ください!」

「ありません」



 冒険者ギルドを訪れたユウとゼノは依頼を請け負う受付で仕事を求めたが、受付嬢はにこやかな笑みで冷たいことを言う。


 一言で「ありません」と突っぱねられて、ユウは「ええ!?」と泣きそうになる。



「何でぇ!? ぼくたちがレベル0だから!?」

「おい、レベル0って仕事が受けられねェのか!? どうなんだ!?」



 ユウとゼノは揃って受付嬢に詰め寄るが、受付嬢は「ありません」の一点張りだった。



「あなたたちのレベルが高すぎて、お任せできる仕事がありません。ここは始まりの街とも呼ばれるウィラニアです、上級の冒険者の方はもっと大きな国に行くことをお勧めします」

「そんなことないもん!! ぼくたちレベルがないんだよ!? 高すぎるだなんて嘘だもん!!」



 ユウは頑なに受付嬢の言葉を信じなかった。


 レベルが表示されないのは高すぎる訳ではなく低すぎるからだと信じて疑わず、ユウとゼノは初心者であることには変わりないのでレベル0なのだ。


 ゼノも受付嬢へさらに詰め寄ると、



「おい、何か仕事はねェのかよ。薬草集めだとか、誰かのお使いだとか、そんなことでもいいんだよ!!」

「ぼくたち何でもやるよ!!」



 ユウもゼノの後ろから応戦するが、それでも受付嬢は首を縦に振らなかった。


 頑として受付嬢は「受けられる仕事がありません」と主張するので、仕方なしにユウとゼノは冒険者ギルドから出る。


 、とは一体何事だろうか。


 何度見ても冒険者カードにはレベルが表示された状態ではなく、やはり無の状態だ。

 その影響でHPもMPも表示されておらず、体力・魔力量もどちらも数値化されていない。


 困った、非常に困った。

 仕事が受けられないのであれば、冒険者として登録した意味がなくなってしまう。このままでは海魔から取れた翡翠色の魔石を売りながら、何もせずにダラダラと生活するしかなくなってしまう。


 そんな生活になってしまったら、あの無人島生活となんら変わらない刺激となってしまう。



「ゼノ、どうしよっか……」

「仕事がなきゃなァ……金のアテもいつか尽きるだろうし」



 ゼノはベルトに括り付けた麻袋の中身の金貨を確認する。

 朝食として黒いパンとチーズを購入したので若干減ったが、まだ余裕はあるだろう。


 この金貨に頼り切りでは、ユウとゼノは餓死してしまう。


 ユウは「うー、うー」と長杖ロッドを握りしめて、冒険者ギルドの前を右往左往する。

 仕事が貰えないことを気にしているのか、今にも泣き出しそうだ。



「せっかく……せっかく冒険者になったのに……」

「やっぱりレベル0ってのがいけねェのかな」



 しょんぼりと肩を落とすユウの隣で、ゼノは自分の冒険者カードを見返す。

 冒険者カードに記載されたレベルは表示されておらず、同じくHPやMPも表示されていない。それなのに『所有スキル』という欄には数え切れないほどのスキル名が並んでいる。


 そう言えば、受付の少女は「ユウとゼノのレベルが高すぎて受けられる仕事がない」と言っていた。


 この街では、レベルが0の初心者でも高レベル判定を受けるのかもしれない。そしてユウとゼノがレベル0ということは、他の冒険者はユウとゼノよりもレベルが高い……?


 そんなことを悶々と考えるゼノの隣で、ユウは長杖を側に置いて座り込み、石畳の溝を指先でなぞって遊んでいた。もう冒険者として仕事が貰えなかったことは記憶の彼方に飛んでいったらしい。


 その時だ。



「役立たずのアンタはもう私の配下には要らないのよ。他の人と組んでくれる?」

「え、そんな……待って、待ってシュラちゃん!!」



 石畳の溝を指でなぞる作業から顔を上げたユウは、視線の先に三人ほどの少女の集団と杖を両手で抱えた少女が言い合いをしている光景を確認した。


 言い合いというより、三人ほどの少女の集団が杖を抱えた少女を仲間外れにした模様である。杖を抱えた少女は泣きそうになりながら、去ろうとする少女の集団に追いすがる。


 しかし、少女の集団を率いる軽鎧を装備した少女が、鞘から引き抜いた直剣を杖を抱える少女に突きつけた。

 切っ先が喉元に突きつけられたことで、杖の少女は思わず立ち止まってしまう。



「役立たずはついてこないで」



 少女の集団は、杖を抱えた少女を無視して歩き去ってしまう。


 一人で残されてしまった少女は、メソメソと泣き始めた。次々と溢れ出てくる涙を着ている長衣ローブの袖や手の甲で拭うが、涙が止まることはない。

 理由は不明だが、彼女が理不尽な扱いを受けたのは間違いない。


 少女が突き放される瞬間を眺めていたユウは、ゼノを見上げる。

 彼女もユウの視線に気づき、小さく頷いた。どうやら意見は同じらしい。



「おねーさん!!」

「お嬢ちゃん」



 ユウとゼノは、二人揃って涙を流す少女に声をかけた。



「ぼくたち、冒険者のお仕事がないの。一緒にお仕事をしよう?」

「さっきも冒険者ギルドで『レベル0に受けられる仕事はない』って言われたばかりなんだわ。冒険者の仕事を教えてほしいんだが、付き合ってもらえるか?」



 手の甲や長衣の袖で擦りすぎて赤くなってしまった瞳を瞬かせて、掠れた声で言う。



「…………レベル0……?」

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