第13話 漁ったら

 「お前みたいな自信のないやつは自分を過信してるやつよりも自分のこと知らねえからな」


 自信がない、と言われたことにリンリは少しだけムッとした。


 尾野輔に、脱獄犯・場内造を差し出した翌日、一人で警察二人を撃退したことを珍

しく褒めながら、しかし非難もした。


 「お前はまだまだだな。志だけはいっちょ前にデカい、バカ」


 「なっ!?」


 相変わらず腹の立つ男だったが、リンリはそれでも昨夜の尾野の目つきを見て、本

当に処刑人であることを認めざるを得ない思いだった。


 場内造の身柄を連れてきたリンリに、彼はただ「準備してくる」とだけ言って、ビ

ルの地下へと入っていった。


 それから、数十分、場内と三階の部屋で待っていたリンリ。待ち遠しく思いながら

彼の机の上にある書類を盗み見てやろうかと魔が差したところで、スマホの着信が鳴

り、尾野からメッセージが来ていた。


 『準備が出来た。北区の処刑場へ来い』


 リンリは例のごとく『はい』とだけ返信をすると、さらに食い気味のような速さで

返信が来て、その文面に戦慄した。


 『俺の部屋の物、勝手に漁ったりしてないよな? 真面目なお前だから信用してる

けど。漁ったら、そうだな…、重要機密の文書を見たとみなして両目と利き手を落と

してやる』


 「僕…、何も触ってないですよね…?」


 「うん…たぶん…」


 これから腕を切り落とされる場内さんもまた、こんな怖い人に切られるのかと、彼

の文面に震えあがっていた。






 そしてリンリは、出向いた。


 北区へと。


 腕を切られ、周りに罵られる母を想起させるあの場所へ、あの構図へと。


 「うっ…」


 例の黒づくめの衣を着た純白のヤギ頭が、またもや歯切れの悪い斧を、屈託なく縦

に振り下ろす。


 「っあああああっ!!」


 大の大人が情けなく涙を流す光景に、リンリは吐き気を催した。


 「もっと痛めつけろー!」


 「この恥さらし!」


 「もう腕取れなくていいんじゃないか~!」


 身体の痛みに加え、ただ罪を犯したという事実のみを知る人間たちが、物見遊山に

場内造を罵倒した。


 「なんでだよ…、尾野さん。あんたは、なんでこんなに人を苦しめるんだよ…」


 必要以上にいたぶられ、何の事情も知らない人間から辱められる場内に、リンリは

尾野への怒りと恐怖を含んだ声が無意識に漏らす。


 ぶかぶかの黒ずくめを来たヤギ頭。


 飛び散る返り血が、純白な被り物に何度も付着した。

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