キャラの名前はキャラの願い
読者の一人から「キャラの名付けに関して書いてくれ」とのコメントをいただいた。
作品のネーミングについては以前触れているが、キャラのネーミングについては触れていなかったので、改めて書いていこうと思う。
キャラの名前を考える際、注意して欲しいのは背伸びをしないことだ。
普通に考えて、異世界という舞台で話が展開するのに、キャラクターたちが日本名であるのはおかしい。
これは間違いない。
日本名じゃおかしいことくらい、俺たちでもわかるぜ。ということで、異世界モノの作者たちはオリジナリティに富んだ、素敵な名前を僕たちに提示してくれる。
しかし、変にオリジナリティを出そうとして、無駄に長い名前や、語感の悪い名前のキャラで溢れかえってしまうのがよくあるパターンだ。
ただでさえ異世界モノはキャラの名前が覚えにくい傾向にあるのに、これでは作品がさらに悪い方へ流れていってしまう。
というかそもそもの話、作品の世界観やキャラ設定、物語の構成が他の作品の丸パクリなのに、細部だけ差別化しようとしてもどうせバレる。所詮大同小異だ。
ならばどうやって回避すればいいのだろうか。
これは冒頭で言った通り、背伸びしないことである。
無理に自分の見識の範囲外でキャラクターにネーミングすることはない。これをしてしまうと、知ったかぶりになる危険性があるからだ。
皆さんご存知のとおり、知ったかぶりをする奴というのは何故だか知らないが、学校でめちゃくちゃ嫌われる。何もそこまで……。と思うくらい嫌われる。
作品も同じだ、安直なネーミングで無用心に他人の領域へ踏み込むと、その領域の専門家(笑)が親の
これはできるだけ避けねばならない。
見えている地雷を「いくぜ!」の掛け声とともに踏み抜く必要はないのだ。
例えば異世界モノでよく目にする「シャルル」という名前。
日本の創作では多くの場合、語幹の柔らかさなどから女性に付けられる名前だが、実際はフランス語圏で用いられている男性名である。
日本人で例えると女の子に「
メジャーな人名でもこういった誤解が生じているのなら、なろう系作者がこぞって付けようとするマイナーな外国人名では、より誤解が生じる可能性が高いだろう。
結果的に知ったかぶりと言われてもしょうがない。
では見識の中でどうやって名前をつけていくか。
最も簡単な方法は日本人名をつけることだ。
普段から慣れ親しんでいる日本人名では、セオリーから大きく逸脱したネーミングを避けるのも簡単だろう。
しかし、先述の通り異世界に日本人名のキャラクターが大量に登場するのはおかしい。
「初めまして、勇者御一行。僕は北センライール領チュートカバナ王国、第七十六代国王の沢田
……。
目も当てられない。
ということで、この対策は異世界モノにおいては行うことができない。
次に講じることができる策として、造語を使用するというのがある。
僕はこれを強く推奨したい。
キャラクターの名前を考えるときにそのキャラクターが背負っている願い、役目、生い立ち、伏線等を仕込むことは、作品の質を上げることにつながるのは言うまでもないだろう。
その願いや役目、生い立ち、伏線に関連する要素を世の中にある言葉だけで表せるわけがない。
テンプレートに当てはめた人名では、そのキャラクターの個性たり得ない。
ここまではおそらく皆さん分かっているはず。
しかし、ここからが難しいところで、そして多くの人が詰まるところだ。
ぶっちゃけ言って、無い言葉を作るのはすごく難しい。
僕だって、こんなふうに語ってはいるが、キャラクターに名前をつけるのが得意というわけではない。むしろ苦手だ。
僕の小説は名前の登場しないキャラが多く登場する。
これは主人公やメインヒロインなど関係なしに発生する僕の手癖である。
サボっているように見えるかもしれないが、これにもちゃんと理由はあって「こいつは主人公だ。しかし、あくまで常識から逸脱した人物ではなく、これを読んでいる貴方だってこいつになり得る」ということを暗に示している。
というのが70%で、残りの30%はサボりだ。
それくらいネーミングはめんどくさい。
しかしながら、我々はそれでもなおキャラクターに名前をつけなければいけない。
ということで、以前の作品のネーミング法よろしく、外国人名の命名法を軽く紹介していこうと思う。
一つ目、既存の人名を流用する。
先ほどから何度も述べている方法。既存のものを使えるので、性別等も調べればすぐに出てくる。また、実在する偉人から引っ張ってきたりすれば、その偉人のイメージが命名されたキャラクターにも宿ることになる。
特徴は考えるのが楽なことなので、作品の本筋には関わってこないが、少しだけ役割のある準モブくらいのキャラクターにバンバン使っていくといいだろう。
二つ目、イメージに合う外国語を使う。
これがおそらく一番使われる方法だろう。
イメージに合う言葉を一つ選んで、そのまま用いたり、もじったりして名前にする方法だ。
言葉を複数個選んだ場合は、それらを組み合わせて省略したり、文章にして頭文字を取ったりして名前にすることができる。
この方法は少々時間がかかるものの、手がかりなしでキャラクターの名前を考えるよりは簡単に考えられるのではないかと思う。
また、使用する品詞を形容詞や副詞に限る必要はなく、実際に存在し、互いに関係性のある固有名詞を名付けていくことで、グループ毎の統一感を演出できる。
例えばとある騎士団の団長に、しし座α星(しし座で最も明るい星)である「レグルス」という名前をつけたなら、副団長にはβ星の「デネボラ」と名付け、それ以下の団員たちにも、それぞれしし座の星の名前を名付けていけば、その騎士団全体に名前としての統一感が現れる。
安易なネーミングになってしまうが、レグルスはしし座でいうところのライオンの心臓に位置するので、フルネームは「レグルス・ライオンハート」でどうだろう。
歴史上にも「リチャード・ザ・ライオンハート」というイングランドの王が実在する。まあ、彼の場合は本名ではないのだが。
こう言った風に、キャラクターを区別する記号としてもこの名付け方は有効だ。
主人公にはこちらの方法で名前をつけ、記号としてではなく、信念や伏線としての意味を持たせておくと良いだろう。
また、逆のアプローチとして、敵側のネーミングに共通する法則性を味方側のキャラに適用することで、終始読者たちに「こいつは味方なの? 敵なの?」と勘ぐらせ、そのキャラへ注目を集めることができる。
リゼロでも所々に星の名前を冠するキャラや地名が登場しており、その中でも
「スバル」「ペテルギウス(ベテルギウス)」「アルデバラン」「プレアデス」
は全ておうし座に属する星である。また、スバルとプレアデスに至っては、別の言語で同じ星団を示す言葉なので、深い関係性があることが容易に想像できる。
余談だが、世界を脅かしている魔女教という組織の幹部が全員星の名を冠するキャラであったことから「スバルラスボス説」のようなものがweb版連載当時から囁かれており、本編でこそ採用されなかったものの、if世界で実現した。
思っていたより二つ目に文字数を割きすぎてしまった。次へ行こう。
三つ目、アナグラム。
僕はこの方法を好んで使う。
そもそも、アナグラムの認知度ってどれくらいなのだろうか。
誰かとアナグラムの話をすることなど今まで一度もなかったし、今後も一切ないと思われるので、アナグラムがどれくらいの人に知られているのか分からない。
まあ知らない人がいたら困るので、軽く説明することにしよう。
アナグラムはいわゆる言葉遊びの一種で、意味のある言葉を文字ごとに分解し、並び替えることで別の意味のある言葉に変えるというものだ。
例えば「いろはにほへと……」で有名ないろは歌は、平仮名のアナグラムと言える。
他にも、
one plus twelve = two plus eleven
1+12=2+11=13
というような、偶然の一致にしては出来すぎたアナグラムもある。
では、アナグラムの実演をしていこう。
アナグラムを用いてネーミングされたキャラの例として、実際に僕が書いた作品に出てくる「
皆さん。このキャラクターに仕込まれたアナグラムがわかるだろうか。
ヒントを出しておくと、このキャラクターが登場した作品は『
さて、わかった人は多分いないだろう。というか、わかってしまわれてはネタバレになってしまうので困る。
それでは解答編。
まず彼女の名前をアルファベットに分解する。
hitugai kanonn
そして、並び替えると
koituga hannin
となり、さらにひらがなに戻すと
こいつがはんにん→こいつが犯人
という文が浮かんでくるという寸法だ。
その名の通り、彼女は『懺悔』の中で起きた、とある事件の犯人だった。
アナグラムのいいところは、ネーミングについて深く考えなくても、キャラのイメージに合いそうな(あるいはそのキャラの立場を表す)言葉や文を分解し、並び替えるだけでそれっぽい名前になるところだ。
アナグラムを行なう際、例に出したようにアルファベットまで分解する必要はなく、平仮名の状態でも行われる。
しかし、この場合は並び替える前の文の面影が残ってしまうので、読者に勘付かれる可能性が高い。
加えて、アルファベットのレベルまで分解すると言語の壁を超えてアナグラムできるという利点があるので、できるならそこまで分解することを推奨するが、文字数が増えると単純に難易度が上がってしまう。
最初は平仮名から初めてみるといいだろう。
この手法でネーミングをすると、先述の二つより高度な文をキャラの名前に仕込むことができるので、個人的にはオススメだ。
しかし、今の僕のように「自分はよくアナグラムをします」と言ってしまうと、僕が作中に出す固有名詞全てでアナグラムをしてくる輩が発生する恐れがある。という欠点がある。
ゲームの解析班が未発表の情報をリークするように「まだ公式から公開してない情報なのにぃぃぃぃ!!」と、なりかねないことを留意しておいて欲しい。
ネーミングはそれぞれの作者に好みがあるので「これにしろ」とは言えないし、上記の三つ意外にも様々な考え方があると思うが、今回は僕がよく用いる三つを書かせていただいた。
誰かの役に立ったなら幸いだ。
ということで今回は、ネーミングする際の注意点、僕がやっているネーミング法の二本立てでお送りした。
実は別名義で活動していることがあるのだが、その時のアカウント名も「嘘築」のアナグラムだったりする。
もしやと思ったら試してみるといいかもね。
今回はここらへんで、次回はインプットについて書いていこうと思う。
それでは次回更新までさようなら。
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