電車職人の親子の夢

ある子供がいた。親に捨てられ福祉に捨てられ世界に捨てられた、そんな彼に手を差し伸べたのは縁もゆかりもない電車職人の爺いだった。

昔気質の頑固な爺いに子育ては難しかった、なにせこれまで電車一筋55年、子供どころか結婚すらしたことがなかった。しかし爺いは己の与えられる方法で最大の愛を与えた。

対して子供は生来の気弱だった、弱気で泣いてばかり、虐められることもしばしば、到底あの頑固職人の子供とは思えない有様であった。

子供はよく泣いた、そんな時に爺いは自身の工房へ連れて行った。熱いアルミを整形し、鉄を打ち、電車を作る。子供はそんな爺いの、職人の背中を見て育った。

しかし爺いは歳だった、享年67歳、突然の死であった。

子供は気弱であった、「あの頑固職人は魂まで死んでしまった」、そう周囲は嘲るように言った。

悲しみも覚めやらぬある日、子供の元にどう見てもカタギでは無いとわかる3人組が来た。

「お前のオヤジのサインがある、この工房も金も全て頂いていく」

子供は抵抗したが虚しく、3人組は金目のものを探し始めた。そして、あろうことか爺いの位牌をゴミのように蹴り飛ばした。

その時子供の中で何かが切れた。

捨てた親への怒りがあったのかもしれない、助けてくれなかった福祉への憤りがあったのかもしれない、社会への義憤があったのかもしれない、しかしその時彼は初めて泣くだけでなく、怒りを露わにしたのだ。

「テメェら、ふざけんじゃねぇ!!!!」

人生初の啖呵であった、そして爺いが愛用していた職人道具であるスパナを持って、三人組に立ち向かったのである。

そこには確かに爺いの魂があった、誰よりも近くでその背中を見て育った子供は、その魂を受け継いでいたのであ


ここでめがさめた。

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