7限目 恥の多い学園生活を送ってきました。
金木は帰宅後ベッドにつき夢を見た。
「ご近所さんに会ったらちゃんと挨拶するのよ」
私の母はそう言って玄関まで見送ってくれた。
「うん、分かった!」
「お利口さんにしてるのよ。裏で何言われるか分からないからね」
よくうちの母が口酸っぱく言ってたのを覚えている。
「はーい、いってきまーす!」
幼心から挨拶は大事なのは知っていたし、挨拶する度にまだ小さいのに偉いねと周りが褒めてくれるから俄然しっかりやった。特にお母さんはよく褒めてくれた。
「ご近所さんから評判良くて嬉しいわ~」
「うん!」
「小学校に行ったら先生には敬語で話すのよ」
「うん!」
「お友達には〇〇君、〇〇さんってつけて呼ぶのよ」
「分かった!」
それから小学校に入学して、母の言われた通り実施した。
「先生おはようございます!宿題の提出に来ました!お願いします!」
「お、金木は1年生なのに言葉遣いしっかりしてて礼儀正しいな」
「ありがとうございます!それでは失礼します!」
「ねえ、しずちゃんあそぼー」
「鈴木さん!遊ぼう!」
「ねえ、わざわざさん付けしなくていいよ。」
「えっ、でもお母さんからさん付けしないって言われてるから……」
「そうなの?ほらおままごとしよう!」
あの頃は友達にも恵まれていたのに、あの人は……
〜翌日〜
「来週から塾に通ってもらうから。」
「えっなんで。」
「しずちゃんの将来のためよ。しずちゃんしっかりしてるからお母さんこの間ね挨拶と言葉遣いがしっかり出来て賢いですねって先生に褒められて鼻が高いの。」
「……。分かった。」
もうピアノも習字もやって塾も始めたら全然遊べる時間がない……でも今苦労した方が将来楽になるから頑張るしかない。
この間教えてもらった空気読んで答えたけど、気を遣うのも大事で、大人になるって簡単じゃないだ……
「しずちゃーん、遊ぼう!」
「ごめんね、今日塾なの。また誘ってね……」
〜数年後〜
「はい、1年集合!今から外周10周!タイム切れなかったらもう1周プラス!」
中学になったら上下関係が厳しくなるから先生と先輩の言うことはしっかり聞きなさいって言われたけどきつい……でも社会人になったらこれくらい当たり前なんだから頑張らなきゃ……
「ねえ、しずーウチら吹奏楽部なのになんで運動部みたいな練習させられてんの」
「基礎トレだからしっかりやらないと音出せないでしょ」
「流石に筋トレばっかだとやってやれないやん……ねえ、カラオケ行こうー」
「部員多いし1人や2人抜けたところでバレないって。」
「いやいや流石にまずいよ」
「真面目やねー。えりかー今からサボってカラオケ行こうー」
それからあの2人は顧問、先輩、親に怒られて部活を辞めた。やっぱりちゃんとしていないと酷いことになるのは自明の理。しかもあんなに仲良かった友達ですら手のひらを返すように批判していた。親の言うことは当たってたんだ。年上の言うことはよく聞き、空気を読んで行動することが真理なんだと。
〜数年後〜
いい大学に入って、人脈を作って、ホワイト企業に入って周りが認める理想の男性と結婚する。いかにこのレールから外れず、幸せなレールを送れるかが重要なポイントなんだって親に言われた。だから大学入って単位を落とさず、バイトやって社会経験を積んできたのに、就活に失敗した。両親の冷めた視線、親戚の腫れ物扱いする空気、友人にも気を遣われ、心をすり減らす毎日だったけど、父が定年退職間際にコネで入社させてもらった。レールから少しでもはみ出るとここまで惨めになるのかと本当に痛感した。
「おはようございます!」
「おう、金木ーあの申請どうなってる?」
「〇〇会社の申請の件ですよね。納期が明後日なので間に合います。」
「金木さーん、ちょっと申し訳ないんだけど、この件任せてもいい?今すぐ取り掛からないいけない案件が出来ちゃって。」
「(あんまり余裕ないけど……)はい、分かりました。」
「おい、金木ー部長から内線来てるぞー」
「はい、すみませんお待たせしました。」
「ちょっと悪いが月曜の会議資料朝イチ使えるよう準備しといてくれ。」
「(通常業務があるのに3つも頼まれごとあったら自宅残業確定だけど……)はい、わかりました。」
「よろしく頼むよ。」
先輩の案件は隙間時間見つけてやるとして〇〇会社休憩時間にやれるけど、会議資料は……嘘でしょ、データ処理されてない。もうほぼゼロから作らないと……あ、先輩のマグカップほとんど空になってる。コーヒー注ぎに行かなきゃ。あ、愛染さん何か探してるっぽい、手伝った方がいいかな。どうしよう全然集中できない。作業が捗らない。。。
〜帰宅〜
あー、ご飯作りたくない。今日もコンビニでいいか。明日6時に起きないといけないから4時間は睡眠確保して、お風呂は明日でいいか……早速手書きメモのデータを入力して統計とって分析してまとめて……毎日毎日時間と心が消費されていく。社会人になって全うな人生を歩んでるはずなのに全然満たされない。幼少期から楽しい時間を犠牲にして将来幸せになるために頑張ったのに一向に報われない。。。何を間違ったのかな。。。どこで間違ったのかな。。。
〜翌朝〜
「おい、金木ー、朝イチ資料用意しとけって言ったよな。なんで用意してないんだ。」
怒号が市役所全体に響いた。
「申し訳ございません。資料作成する時間が足りなかったので作れませんでした。」
「お前毎日やらかして全然進歩してないよな。反省してるのか。」
「はい、今回の件はもっと早く愛染さんに進捗状況を報告すべきでした。」
「いや、違うだろお前がもっと効率よく仕事をすればこんな事にならなかったんじゃないのか。効率よく仕事するために普段からどう工夫すればいいか考えながら仕事してるか?」
「申し訳ございません。」
「申し訳ございませんじゃないだろ。はいかいいえで答えろよ。ったく、全然考えてないからこうゆう事が起きるんだよ。」
「申し訳ございません。」
「ほんとそればっかだな。あれだな、優先順位出来なかったり、アドリブで仕事ができないからお前発達障害だな。一回病院に行った方がいいよ。」
「申し訳ございません。」
「もう通常業務に戻っていいよ。今度から別のやつに任せるから。」
ほんと、どこで間違ったんだろう。親に言われて真面目に生きてきたのに。年上の言うことはしっかり聞いて、空気も読んで、気を遣って生きてきたのになんでこんなに苦しいんだろう。そもそもなんで生きてるんだろう。本当に息苦しい。あぁ誰か私を見つけてここから救い出してくれたら……。
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