6限目 金木君死に給うことなかれ。

 5/1 p.m19:28 現実世界にて大池通りにある居酒屋にゴルゴと落ち合うことになったのだが、約束の19時半にギリ間に合いそうにない。遅刻しそうな原因として篠宮がギリギリまで研究していたからである。どんだけ研究したいんだよ。

「走れば間に合いそう。行こう。」

走り出そうとした瞬間、彼女から怪訝そうな声が聞こえた。

「物理的に考えて間に合わないんじゃない?とうせならゆっくり行きましょう♪」

「いやいや先方に迷惑かけちゃうから、せめて申し訳程度に走ろう。」

「いやむしろ、走って申し訳ない感じで下手に出たら相手に舐められる。むこうもいろいろ交渉するために準備してると思うから、相手の出鼻を挫けさせるためにあえて堂々と遅刻しましょう♪もう戦いは始まっているのよ♪」

相手が手段を問わない冷酷な策略家なら通用するかもしれないが、もし……

「すみません、ヤンさんと四宮さんでお間違いないですか。」

もの凄い柔らかく、落ち着いた声が聞こえた。目を移すと、そこにはスーツを着た25、26歳くらいのOLがそこにいた。

「あ、はいそうです。あのー、ゴルゴさんの関係者の方ですか。」

「いえ、ゴルゴを操作してます金木と申します。立ち話もあれなんで中に入りましょうか。」

正直むさいおっさんを想像してたので、いい意味でショックだった。隣の篠宮も唖然としていた。我々は店内に入り、個室に案内された。一通り注文を済ませ、3人はよそよそしく乾杯した。

「すみません、急に呼び出して。」

「いえいえ、まさかそちらからお声をかけてもらえるなんて思いもしませんでした。」

お店の外にいた時も思ったがすごい感じのいいお姉さんだな。あとこのご時世にスーツ姿が見られるなんて思わなかったなんて思っていたら、四宮から突然

「ねえ、さっきからおっぱいばかり見すぎですよ♪」

「いやいやいや見てないよ。ス、スーツ着てるから珍しいなと思って。」

「すいません、着替える時間がなくて直接来ました。」

「このご時世に仕事してるんですか?もうベーシックインカム導入して生活費稼ぐ必要がないし、IoTとかAIが台頭してからほぼほぼ人のやる事ないのに何してるの?」

篠宮はズケズケと質問した。

「親のコネで市役所に働いてるの。」

「市役所ってもう人働いてないもんだと思ってました。窓口も人いないし。」

「うん、主に裏方の仕事してて、それだけはどうしても人の手がいるみたい。まあ実際は責任を取らされるだけのような形だけの仕事ですよ。あ、すいませーんビール1つお願いします。」

はやっ。お姉さん見かけによらず、すごい飲みっぷり……まだ席着いて3分も経ってないのに……


それから自分たちの経歴を話して、なんとなくお互いの人となりが分かったような気がした。意外と金木さんは優しそうに見えて辛口なことを言う。最近の生徒会のやり方とか現実世界の政府のやり方とかそういう裏方の立場から見る情勢も聞けて面白かった。ただ彼女かなりお酒を飲んでらっしゃる。ビール5杯に焼酎4杯、ワイン2杯飲んで、さっき熱燗を頼んでた。かれこれ1時間近く経った頃、金木が例の事で口火を切った。

「ほんとにお二方には感謝します。あのまま2人に助けてもらえなかったら今ごろゾンビにされていました。なのにお二方は展望台の襲撃犯として冤罪を被され、その事実を知っている私はそれを告発していない状況。本当に申し訳ありません。」

先程の楽しそうに話してた声とはうってかわって罪悪感に満ちたか細い声で言った。

「そんな謝らなくても勝手に突っ込んだ我々に問題がありますし、捕まったら死んだり、生活が苦しくなったりしませんから。たかがゲームですし。」

実際、天下統一までの道のりが少し遠のいただけであって、特に自分も篠宮もそこまで気にしていなかった。ただ金木は罪悪感いっぱいで申し訳ない気持ちがよく伝わった。ただ篠宮は一連の流れで合理的で当たり前な質問をした。

「あのー、なんで生徒会長とか風紀委員長とかに愛染がやったてバラさないんですか?」

少しだけ間が空いた。その後少し息を吸って金木は答えた。

「違うんです。今回の件もそうなんですけど私が無能だからご指導していただいた時にいろいろことが大きくなってしまったんです……本当は誰にも迷惑かけたくないのにお二人に迷惑をかけて、そして告発したら冤罪が晴れるのに本当に申し訳ありません。もうどうしたらいいか分かりません。」

「いや僕達のことは本当にいいんです。ただあれは指導とかいうレベルじゃないですよ。あれは行き過ぎてる。早くあのグループから抜け出した方がいいですよ。」

続いて篠宮も言った。

「そうです。席替えとかAIのダミーシステムとかある訳だし、そこのグループから抜け出そうと思えば抜けれると思うけど。」

そう言うと金木はおそるおそる言った。

「実はあの人仕事の上司でもあるの。」

「なるほどね♪グループ抜けても現実世界であの人に仕返しの可能性もあるってことね。じゃあ自分の能力以上の仕事をして物理的に無理であればケジメつけて辞めればいいじゃない?」

至極全うな解答だと思う。でも……

「それをやってしまうとコネで入社したから親の顔を潰すことになる。」

ヤンはそっと口添えをしたところ慌てて金木は言った。

「ち、違います。私がもっと上手くやれば全て解決するんです。無責任に仕事を辞めたり、グループから抜けるのは嫌なことから逃げてるのと一緒です。社会人である以上、業務に全うするのが本来あるべき姿だと思う。」

力強く言った言葉はどこか彼女自身に言い聞かせるように聞こえた。

「理解できないわ。親の顔を気にして、前時代の常識に縛られ、挙げ句の果てに上司の心配をして、一番気にかけないといけないあなた自身を蔑ろにしてどうするの。」

知っている。彼女もこの現状を望んでないことを。そして知っている。彼女が一番望んでるものを。嫌われ者ヒールの自分だからこそ出来ることを

「もしよろしければ僕達と一緒に来ませんか?」

「それは愛染さんや両親を裏切れというの?」

「言葉は悪いがそういうことになります。」

「それは無理よ。あの人たちを裏切れない。私が上手くやれば全部解決するし、上手くなるまで我慢した方が穏便に済むわ……」

四宮は変わらず合理的に話を進める。

「あなたはさっきから自分のこと無能って言って、その無能さが原因で両親や上司に迷惑をかけてる口調だけど、その後何も反省せずにずっといるってこと?」

「そんなことはしてない。間違ったことがあればすぐに謝罪して修正します。あの人たちに迷惑にならないよう必死に努力してきました。でも私が無能だから、いつも罪悪感でいっぱいなんです」

目に涙を浮かばせながら言った言葉だからきっと胸に刺さったのだと思う。嫌われ者の自分だからこそがんじがらめ囚われてる彼女を自由に解放するできると確信した。だからこそ彼女に気付いて欲しくてこう言った。

「きっとあなたは他の誰よりも優しいから他人が傷つくより自分が傷ついた方がいいと思っているけど本当は自分の優しさが傷つくことを恐れてる。」

続けてヤンは言った。

「嫌われ者の自分から言わせてもらうと君の場合は無能な自分を責めて苦しんでるんじゃない。嫌われて孤独になる・・のが怖いだけ、別に悪いことしてないのにコミュニティから外れると後ろ指刺されるのを恐れているだけだ。ずっと他人の目を気にしてる。今までのあなたのその実直な優しさは他の人に否定される筋合いはないし、その気持ちは消えない。」

20秒間沈黙が続いた。そして彼女はそっと考えさせて下さいと言った。

僕達は彼女にお代と手記を残してお店を後にした。

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