第二十六話 脱出、別れ(後編)

「いいわ!なら私だけで行くからアグスティナは先に脱出して!」


などととてつもない提案をしてきた。


どうやら随分と慌てているのか混乱しているのか。


「な!なりません!そうおっしゃるのでしたらせめて私が降ります!ですので姫様だけでも先に脱出してください!」


アグスティナが流石にそんなことを許可できず、それを認めるくらいなら自分が下りた方が速い上に、何かあっても対処がしやすいと考える。


「ジュナスの無事を確認するまでは、私はここから動かないわ!」


だが自身の意思は固い!と言わんばかりにオフィーリアも動かない。


この辺りの頭の固さは誰に似たのやら、高潔なのはよいことだが時と場所と場合による、と思わず考える。


それでも発言を認めるわけにはいかない。


「確かに彼は命の恩人ではありますが、その彼が救ってくださった命をここで無為に散らすことは彼の苦労を無にするに等しい!」


何とか説得しようとするが、動かないだろうなとも思う。


「でも彼は生きているかもしれない!命の恩人を見捨ててまで、今後自らの生き方を誇っていくことなど私には出来ないわ!」


「ですので私が!!」


おっと!上が何やらすごい危ない会話になっているな・・・というか早くしないとマジで振動が酷くなってきたな。


「ならここでの選択肢は二人とは別れて、俺はこのままここから。二人は当初の脱出予定の道で脱出がいいってことだな?」


(お主の望みが最も叶う方法としては、それが最良といえよう)


「・・・・・・よし!」


そういうとジュナスは上に向けて声を張り上げて語りかける。


「オフィーリア!アグスティナさん!!」


その声が下から聞こえたことで、言い争っていた二人の動きが止まり、すぐに穴の中に顔を覗かせる。


「ジュナス!!無事だったのね!待っていて!すぐにそっちに行くから!・・・アグスティナ!」


とても嬉しそうな、弾んだ声が聞こえて、すぐに自身の従者に声をかける。


それを聞いてアグスティナも一つ頷き、決意の表情をする。


「わかりました。彼が無事だという事がわかったのであれば、行く意味もありましょう、私が行きます」


「私も行くわ!彼が怪我をしていたら私じゃないと治せないもの!」


そう言いあう二人にジュナスは更に声をかける。


「二人とも!降りてこなくてもいいです!俺は何とか動けますし、どうやらここから別の道があるみたいだから、そっちからなんとか脱出してみます!」


そう声が聞こえて、二人はお互いに顔を驚かせて、穴の方に視線を向ける。


「あれ!?ジュナス!?貴方、言葉が!?」


驚きの声と疑問が頭上から降ってくる。


それに対してジュナスもそういやそうだよな、と思いつつも簡単に話す。


「あ~、時間がないので詳しくは話せませんが、落ちた穴の中に剣があって、そいつのお陰か言葉がわかるようになりました!ですのでこっちは気にせずそちらも急いで脱出してください!」


その言葉を聞いて驚きの声を上げたのはアグスティナだ。


「剣・・・だと!?それは聖剣か!?それとも・・・魔剣か?」


アグスティナの表情が少し緊張した面持ちになりながら語り掛ける。


「魔剣?よくわかりません、こいつ自身に記憶がないみたいです。ですが俺は少なくとも俺の意思でこいつを手にしましたので乗っ取られたりとかそんなのはないです!」


魔剣という話はネームレスからも特に聞いたことはないが、アグスティナの声の感じからして多分あんまりいいものではないのだろう。


聖剣に対して魔剣だしな、大体の作品ではいいもの扱いされてないしな。


「本当に・・・抜け道があるの?」


それに対して別の事が気になり、心配そうな声色で語りかけるオフィーリア


「ええ、こいつの元の持ち主が辿ってきた道があるらしいんで、俺もそっちから脱出します。ですので二人も早く脱出してください!」


そう語り掛けるとしばらく沈黙が流れる。


「・・・・・ジュナス・・・・・」


「姫様。行きましょう」


心配そうな表情をしてどうしようかと悩んでいるオフィーリアに対して、決意をしたアグスティナはそう話しかける。


「アグスティナ!?でも・・・・」


まだジュナスの言っていることが本当なのか、それともこちらを心配させない為の嘘なのかの判断が付かないからなのか離れる決心がつかないオフィーリア。


だがアグスティナは自分の考えを言う。


「彼がああ言っていますし、実際に言葉を喋れるようになっています。剣の話は本当でしょう。それに、私達には・・・いえ、姫様にはやらなければならないことがおありでしょう。ここで潰える訳にはいきません」


「そう・・・ね。わかったわ、行きましょう」


そう含むように話すと、オフィーリアも少しの間沈黙したが納得をしたのか、一つ頷く。


「・・・・・ジュナス!」


オフィーリアがここを離れる決意をするとアグスティナが穴の底に向かって語り掛ける。


「!?アグスティナさん?」


それに対してジュナスはアグスティナが自分に話しかけてくるとは思ってもみなかった為、少し驚きつつも返事を返す。


「必ずここを脱出して姫様と私の元に来い!貴様は体力だけはあるようだが、動きが全くなっていない!ここを出た後で私がみっちりと鍛え上げてやる!いいか!必ず私達の元に来るんだぞ!」


そういうアグスティナの声が少し弾んでおり、どうやら本当に認めて貰えていたのだと態度ではなく言葉で聞くことが出来て嬉しくなるジュナス。


「・・・・・アグスティナさん。はい!必ず!」


ジュナスからそう返事を受け取ると、満足そうに頷くアグスティナ。


「ジュナス!フィーリッツ王国よ!ここから北にあるわ!待っているから!!助けてもらったお礼もしたいんだから!絶対にきて!約束よ!!」


オフィーリアが自分の居場所を説明するために声を張り上げる。


だがこの辺りで大分長く話していたこともあり、いい加減崩落が激しくなってきた。


「・・・わかりました。お約束します!では急いでください!こちらもそろそろ行きます!オフィーリア!気をつけて!アグスティナさん!ご武運を!」


それだけ声をかけると上を見るのを止めて、自身が向かうべき脱出口へと体を向ける。


「あぁ、貴様も武運を」


「貴方も気をつけてね、ジュナス・・・」


二人の頭上からの声が聞こえてそれを最後に、後は崩落の音のみとなってきた。


さっきから随分と上から小石やらなんやらが落ちてきていて、いい加減ヤバい感じだ。


そして自身の持つ剣、ネームレスの生前の持ち主が通ったとされる穴を剣で叩き、道を広げ出した。


(・・・・・もう少し丁寧に扱え・・・・・)


ネームレスから苦情が入るが正直崩落が激しくなってきてそれどころではない。


結構焦っているのだ。


「知るか!剣なんて使ったことないんだ!しかも今は緊急事態だ!大目に見ろ!」


そんなやり取りをしつつ穴の方に力を注ぐと、人一人分くらいは通れるくらいの大きさに広がった通路が出てきた。


それを見るやジュナスは通路に向かって体をねじ込ませる。


そこから先は見たところ暗闇だが、何故かある程度の視界が確保できている。


どうやらこれもネームレスの力のようだ。


(我の力ならこの程度の事、造作もない)


ネームレスの自慢を聞き流しつつ、体を完全に暗闇へと傾けて行くジュナスであった。

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