第二十五話 脱出、別れ(前編)
目を開くと目の前にあったはずの剣が自分の手に収まっている。
どうやら契約とやらは無事に終わったみたいだ。
剣の力のおかげか、一度意識を取り戻した時に感じた体の痛みはどうやらなくなっているようだ。
剣曰く「傷が治ったではなく、傷に耐えられる体になった」らしい。
つまり怪我が治った訳じゃないじゃねぇか、痛みに耐えられるだけの話だろ・・・あれ?これ詐欺じゃね?
まぁとにかく現状を確認すると、あの光の収束があってから、どうやら俺は元々こいつ(剣)がいた地面の穴に落ちたということだろう。
あの光の収束で魔力による暴発とやらが発動して、この穴と繋がった的な感じらしい。
ということは上に登れば戻れるんだが・・・・結構高いな、つか俺良く無事だったなおい!
剣が言うには俺の体は既にかなり人間離れしているとか何とか・・・あの数カ月の変な実験的なので人間止めさせられていたとか気付くか!!痛かっただけだったわ!
「ジュナス~!!!!!無事なの~!!!?」
お、この声はオフィーリアか。
そうそう、遂に俺も異世界の言語がわかるようになったんだぜ!といってもこの剣、ネームレスのお陰だがな。
こいつどうやら自分が四つに分かれているからか、実は記憶が殆どないとか・・・基礎的な知識とか言語とかそんなのは知っているらしいが、自分の事は殆どわからんらしい。
それでも自分を取り戻す的な自我だけが、強く残っているらしくて俺を脅したり、体奪おうとしたってわけだ。はた迷惑な話だなおい!
まぁそんなこんなで名前すら分からないらしいから、好きに呼べと言われたんでネームレス(名前を失った)と呼んでいるわけだ。
「ジュナスー!アグスティナ!ここよ!ここにジュナスが!!」
言われてすぐにアグスティナが近くまでやってくる。
アグスティナもオフィーリアもマナロスト状態なのでほとんど魔力のない状態だが。
「これは・・・深い。流石にこれは・・・・・」
穴の深さを確認したアグスティナ。そこの深さがこの場所からでも見えず暗闇になっている。
「まだわからないわ!私、降りてみる!!」
オフィーリアがそう言って降りようとする。
周囲が土で出来ているため、わずかな魔力を手や足に纏わらせることが出来れば、梯子を下りるように降りれなくはないが、そもそもマナロスト状態なので、自然回復に任せてはいつまでかかるかわからない。
「お、お待ちください!!いくら何でもこの穴を降りるなど自殺行為です!」
「でも彼がこの中にいるのよ!もしかしたら助けを求めているかも!」
アグスティナも流石に、生きているかどうかわからない相手に時間をかけるわけにもいかない。
ただでさえこの地下は少しずつ崩れてきているのだから。
「ですがこれを降りれば戻ってくるのも時間がかかります!その間にここは崩れ落ちてしまい、生き埋めになってしまうかもしれません!」
「でも・・・・でも!!!」
オフィーリア自身も自分が無理を言っていることは理解しているが、それでも言葉もわからないのに自分を助けてくれた相手をこのまま放っておく訳にもいかなかった。
その時のジュナスはというと
「おお、言葉がわかる!しかしあれだな・・・オフィーリアのセリフが予想通り過ぎるな。お人好しすぎるだろ。自分達だって追われてるみたいなのに、俺みたいに得体の知れない奴を相手にそこまでしてくれるなんて」
そう感想を述べてうんうんと頷いていた。
とはいえこのままじゃほんとに下りてきそうだな・・・
「おい、ネームレス!ここ登れるか?」
ネームレスに話しかける。
本当は頭の中で話しかければいいんだがまだ慣れなくて言葉に出してしまう。
(出来なくはないが今の貴様の肉体では時間がかかる。それよりもそちらの抜け道から移動する方がよほど手間がかからなくて済むな。お主の肉体にも負担がかからぬし、何より我もまだ目覚めて間もない、魔力が足りぬ)
ネームレスの答えに疑問が浮かぶ。
抜け道?というか魔力足りないって大丈夫なのか?
「む?なら一体どうやってここから脱出するんだ?お前はどうやって脱出するつもりだった?」
元々は自分の体を奪って動くつもりだっただろうから、何かしら脱出の方法を考えてはいるとは思っているが確認をしてみた。
(後ろの壁を見てみよ。そこに我のかつての持ち主が入ってきた抜け穴があるはずだ)
よく見ると確かに土で大分埋まっているが、わずかに奥に続きそうな道があった。
「かつての持ち主・・・こんなところで何してたんだよ。いや、今はそれどころじゃないな。なら今度は彼女たちをこっちに連れてきてそこから抜けるのはどうだ?」
そこまで考えて上が崩れ出していることを思い出すと、逆に全員でこの道を突き進むのもありなんじゃないかと考えて聞いてみる。
(先程も言ったであろうが我の魔力が足りぬ。あの人間共があの場所からここまでの落下に耐えられるなら構わぬが、我の記憶にある時代より随分と時が経っているだろう。この先の道も残っておるかは定かではない)
微妙に不安になりそうな答えが返ってきて、まず思ったことを聞く。
「時が経ってるって・・・どれくらいだよ?」
(わからぬ。我が最後に目覚めていたのは、この城以外は魔物に攻め落とされておったな)
などと何とも不安な回答が返ってきた。
「おい!それかなり危なくね!?そんな時代あったのかよ!?いや、それ今も続いてないだろうな!?つか俺自身がこの世界の事わかんねぇし、結局のところお前もこの先の道がまともかどうかもわからんってことだな」
(その通りだ)
ほぼ開き直りのような回答が返ってきたことで、どうしようもないと気づく。
まぁ後ろの道が土で埋まりかけていることを考えるとそれなりの時間が経っているだろうから今もそんな時代ではないとは思いたいけど。
「くっそ、そうなるとオフィーリアとアグスティナさんはここに連れてくるべきじゃないな、リスクが高すぎる!となると・・・」
どうしたものかと考えているとネームレスから別の案を提示してきた。
(あの二人の人間を生贄にすれば我の魔力も多少は戻ろうが?)
「却下だ!!つかなんだよ生贄って!馬鹿か!ついでだ!あの二人も俺の護りたい人物認定だ!なんとかしろ!お前!」
とんでもない方法を提示してきた相棒の提案を即座に否定する。
更にはそのままの勢いで契約に二人を入れてついでにこいつに守らせようとする。
(ふむ・・・それは構わぬが・・・身の安全については我が手を出す必要はないな)
だがそれに否定の声が聞こえて困惑する。
「どういうことだよ?契約が違うんじゃないのか?」
慌てて早速話が違うんだがと聞くとネームレスからは落ち着いた声が聞こえた。
(そう慌てるな。あの二人の人間の内の一人は「聖剣」持ちであろう。なれば今のお主よりもよほど強い。今のままではお主の方が足手まといであろう。)
「あ、そう・・・(そりゃそうか。アグスティナさんえらい強かったしな。てか聖剣ってああいうのか。剣が持ち主を選ぶ・・・ね、てことはあの剣もこいつみたいに意識あるのか)」
ちなみに何故俺がこいつの記憶がないとか、聖剣とか知っているかというと、あの後こいつとある程度、話してこいつの知りえる常識を話したからだ。
勿論俺の事もな。
だからこいつは俺が異世界から来た事も把握している。
そのせいで余計気に入られたが・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます