第二十四話 剣との舌戦(後編)

「ふっ・・・・ふっふっふっふっふ、はっはっはっはっはっは!!!」


ビクッ!?


「何だよいきなりビビらせんなよ」


いきなり大きな笑い声が聞こえだしてビビる男ジュナス。


やはり小者臭がした。


「面白い!実に面白い男だ!!この様な男は何時ぶりであろうな!!!」


心底楽しそうに語り掛けてくる剣。


宙に浮いているその見た目もフラフラクルクルと奇怪な動きを見せている。


「そりゃどうも。この手の展開は過去に良く妄想していて、色々と考えてたルートの一つがそれっぽくて当たっただけなんだけどな」


自分の妄想癖を披露していく辺り、大分疲れているのかちょっと心を許しているのか。


黒歴史となるのは何年後なのだろうか。


「ほう!このような状況をあらかじめ予測していたと!?それは面白いことを言う!」


だがそんな発言にも剣は興味深いと言わんばかりに声を張り上げる。


さっきから面白いとしか言っていない気がする。


「伊達に自称ゲーマーで異世界小説を何十、何百冊と読んじゃいねぇぜ」


別に胸を張れるようなことでもないのに、さも自信満々に言い放つ。


それを特に気にすることもなく、剣もそのまま会話を楽しむように語ってくる。


「よかろう!ならば貴様に条件を与えようではないか!!」


「条件?つか上から目線変わらんのな。ま、別にどうでもいいけど」


かなり相手からの悪意も威圧もなくなったからか、ジュナス自身も落ち着いて相手の話に乗っていた。


正確には面倒くさがっているともいえるかもしれないが。


「左様!貴様の言うように我には我の望みがある。それが叶えられればそれで良い。故に貴様が我の願いを叶えよ!」


「・・・(何言ってんだこいつ・・・頭おかしいんじゃね?)」


剣のいう事の意味があまりよくわからなくて、しかもこの展開は数ある小説でもあったかな?と記憶をたどるが流石にすぐには思いつかない。


「その代わり貴様も一つ、我に願いを言うが良い!その願いを我が叶えてやろうではないか!何が良い?力か?地位か?名誉か?金か?女か?」


「(急に展開変わったな、いやこれもこいつの策の一つか?願い叶えるけど体は貰う的な?それじゃ意味ないな・・・でもどちらかというとこいつに気に入られた感がなくもないような・・・う~ん・・・)」


急に目の前の剣の反応が変わったが、正直こっちは今のこの状況にもそんなについていけている訳ではないので、どうしたものかと思案する。


「どうした?願いはないのか?我が叶えるのだ!殆どの事を我は叶えてやれるぞ!」


ジュナスがあまり何も発しなくなったので願いを催促するように語り掛ける。


「・・・・・その前に確認だ。お前の願いを先に聞く。お前の願いは一体何だ?」


それに対して、そもそも相手の願いを聞いておかなければ、自分の体がこの後どうなるのかわからないという思考にたどり着き、ひとまずそれを聞いておく。


「ふむ、我の願いか。我の望みはただ一つ、真の我に戻ることだ」


「どういうことだよ?」


相手の言っていることの意味が今ひとつわからなくて再度問いかける。


「我の今の姿は真の我ではない。我は今、四つに力を分かたれてしまっておる」


「四つ・・つまりお前以外の後三つがこの世界のどこかにあるとそういうことか?」


「その通りだ!我はその残りを自らの元に戻すことで真の我に戻ることが出来るのだ!」


まぁそれなりによくある展開の一つではあるよな。


封印されたとか、殺されそうになって力を分けて難を逃れたとか・・


「真の自分ねぇ、まぁつまりは世界を旅して自分を探すのを手伝えってことか。それで最初は俺の体を奪おうとしたり、奴隷みたいに手足になれなんて言ってきたのか」


「当然の事、しかし貴様が思った以上に面白い存在である為、願いを一つ叶えてやることにした」


何やら思ったよりは気に入られているようだが、結局のところ体は奪われるんじゃね?それって願叶える意味あんの?最後に楽しめ的な?


もしくは意識だけは常に持ってるとかそんな奴?あるいはここからは消えて夢の世界とか別世界で楽しむ的な?うーんわからん!ってそもそもここが別世界だったな。


「相変わらずの上から目線だこと(しかしこいつの真の姿ってどんななんだ?なんか魔王的なのだったらすげぇ困る気がするんだが。でも現状を変えるにはこれに縋るしかない・・・か。そうなると、この願いって結構重要かもしんねぇな)」


もし相手が世界に悪さをするタイプだったらとか思ったりもしたが、そもそも現実の自分が死にかけている状態ではこの剣に頼るしかないという事になる。


この真っ白い世界からの脱出も、あの暗闇の世界と違って目を閉じてもいまいち起きられそうにないし。


「さぁ!我の願いは伝えたぞ!次は貴様の番だ!願いは何だ!?」


願いを考えているとふと思ったことがあったので先にそれも確認する。


「追加で確認だ!俺はお前の願いを叶えることを誓ってやる!だがお前が俺の願いを聞いてそれを反故にしたらどうするつもりだ?」


毒を食らわば皿までということわざがある。


もうこうなったらこいつの願いとやらは何とか叶えてやろうとは思うが、そもそもそんなこと出来る相手なら後で手の平を返す可能性もある。


何せいきなり変な世界に連れてきて人体実験するような奴らがいるくらいだからな。


「・・・ふっ、疑り深い男だ、だがそれも良かろう、我の気に入るところよ。ならば我と貴様で『契約』を交わしてやろう」


「契約?」


何やら聞いたことのない言葉が出てきた。


あまり無知なのを披露するのもよろしくはないのだろうが思わず呟いてしまった。


「ほう?この世界にいて契約を知らんとな。契約とはその者同士の魂に刻む条約よ。お互いに契約を反故にすれば、その命を落とすこともあろう。それほど深い魂の繋がりよ」


という事は約束のもっと強力な奴・・・契約書とかそっち系?死ぬってことは指切りげんまんの針千本絶対に飲ませる奴版か?などと若干下らないことを考える。


「それなら・・・いや待て!俺は弱いから反故にする事なんてありえないだろうが、お前は俺の願いを叶えようとすることすら出来るほど力があるんだろ?ならお前だけ反故にする事だって出来るんじゃないのか!?」


危うくそのまま言われた通りに鵜呑みするところだったが、そもそもこいつ自身願いを叶える力があるんならそんな契約知らないと簡単に潰す力だって持っているんじゃないのか?それこそ願いを叶える力で契約を破棄するとか。


「ふっ。本当に知らんとはな。契約はお互いが自身の力を使って魂に刻むもの。故に我は我の力で魂に刻まれる為、自身の力を反故にしては我とて生きてはおれぬ」


「・・・・・嘘じゃないだろうな?」


ここでいくら問いかけたとしても答えがわかる訳じゃないから、嘘だったとしてもどうしようもないのだが、それでもそう言いたくなった。


「無論だ。疑うなれば今のこの話の内容が真実であることも契約として交わしてもよい」


だが剣はそれに気を悪くする様子もなく、今話した内容もその契約とやらで縛って真実だと証明するという。


「よし、それも一緒にやるならいいだろう、なら俺の決めた願いを言おう」


色々考えつつもこの手の展開が、自分の事を奪う相手との交渉のパターンを妄想していた時のことを思い出して願いを決める。


「何でも叶えてやろう!さぁ言うが良い!我は何でも叶えよう!契約に誓って!!」


俺の・・・俺の願いは・・・・


「・・・・・力・・・だな・・・・(本当は元の世界に帰りたいが、こいつに付き合う時点でしばらくは帰れないだろうし、何より・・・オフィーリア。二度も命を救ってくれた彼女をこのままにしておけないよな)」


体だけ渡して自分の意思は元の世界に。


それでも良かったかもしれないが、オフィーリア。


この世界で初めて自分に優しくしてくれた少女を思い出すと、そんな無責任なことも出来ない。


何より俺の体を使ったこいつがオフィーリアに何かするかもしれないしな。


さっきまでの現実の戦いを思い出して見ても、この世界は多分戦いが当たり前のようにある世界なんだろう。


それなら戦う力がないと話にならない。


どんな時も力のない者には選択肢すら与えられないのだから。


この世界に来た時の俺のように・・・。


「ふっ・・・・力か!よかろう!どの程度の力がほしいのだ!?オークを殺すほどか?ドラゴンを殺すほどか!?それとも国を滅ぼせるほどの力か!?」


ようやく願いを聞けて嬉しそうな声音で力をやるという、その力も、どの程度がいいかなど意外と細かい部分まで調整が可能みたいだ。


性格は意外とマメな奴なのかね?


「俺が護りたいと思ったものを護れるだけの力だな」


それに対して俺は何とも曖昧な回答をする。


「護りたいもの・・・だと?」


案の定、剣からは困惑の声が聞こえてきた。当然だ。


力といったくせに具体的に何が出来る力かを示していないのだから。


だが・・・これでいい。


「そうだ。俺が護りたいものだ。俺がそれを護りたいと願えば、それを護る事の出来るだけの力だ。相手がどんな力を持っていようと・・・とかな」


つまり欲する力の内容に制限がないという事になる。


それこそその気になれば、この星を守りたいから星を守る力をくれといってもいいかもしれない。


出来るかどうかは知らないけど。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


剣は俺の意図に少なからず気が付いたのか、何も言葉を発することが出来ない。


もし人だったら唖然とした表情をしているかもしれないな。


「とりあえず今のところ護りたいものは「俺の体とその意思」だな。当然叶えてくれるんだろ?なんせ、契約だからな。反故には出来まい?」


力といったくせに自分の体と意思は渡さないと言い張った。


ただの子供の駄々みたいな言い分だ。


「・・・ふっふっふ・・・ふはっはっはっはっは!これは面白い!本当に面白い男だお前は!そんな曖昧で適当な言を良く思いつくものだ!言葉遊びもいい所だ!と言いたいところだが、いいだろう!貴様の体を守り、意思を奪わぬ事を誓おうではないか!はっはっは!!」


もう何度目になるかわからない大きな笑い声に、何とか自分を無くさずに戦うための力を手に入れることが出来たとほっと一息つく。


「良し!ならこれからお前とは長い付き合いになりそうだ。よろしく頼むぞ」


それだけ言うと何度目になるだろうか、瞼に光を感じる、目覚めの時だ。

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