第九話 実験結果(後編)

「(・・・なんだ?何がどうなった?なんかやけに視界が広い?赤い?ん?鎧、こいつらは確かあの部屋にいた?)」


急に意識が戻ったかと思うと、視界が全体的に赤く染まっており、その視界に映るのは、鎧の兵士達3人が自分を取り囲んで剣を振り上げようとしている場面であった。


「(おい待て!せっかく戻ってこられたのに、今度こそ本当に死んでしまう!おい!止めてくれ!止めろ!!止めろおおおおぉぉぉぉ!!!!!)」


自身の身の変化など気にする暇もなく、途端に殺されかけている場面で体も満足に動かず、声も出せない状態でとにかくそれでも叫び続けた。


そして・・・ドラゴンの咆哮が轟いた。


その直後『カっ!!』と閃光が走り、すぐに轟音と大爆発。


圧倒的な熱量により周辺の建物が半壊、崩壊を逃れたものもドロドロに溶けて、元あった室内の大半は消し飛んでいた。


「くっ!これ・・・は・・・・」


あまりの眩しさに顔の前を腕で守り、その光に耐えた後、辺りが落ち着いたのを確認して周囲を見回したアミーラは思わず言葉を失ってしまった。


研究室側は三重の防壁によって何とか耐えきったようだが、それ以外の部分は完全に半壊してしまっていた。


「クックックックック・・・素晴らしい・・・素晴らしい!スバラシイ!!スバラシイ!!!!スバラシイィィィィィ!!!!」


だが建物の崩壊は気にせず、むしろその結果を喜ぶかのようにウルベは狂気の孕んだ表情で、恍惚とした様子でそう叫んでいた。


「う・・・ウルベ様?」


その上司の姿はこれまででもほとんど見たことがないほどの状態であり、思わず声をかけていいものかと、呟くようにしか言葉を発することはできなかった。


「くっくっくっくっく、くひゃっはっはっはっは!!!!!いひゃっはっはっは!!!!いひゃーっはっはっはっは!!!いひ!!いひ!!いひゃーっはっはっはっは!!!!!!!!!」


「ウルベ様・・・」


「素晴らしい熱量と破壊力!まだ魂と肉体の同調率がおよそ15%程度にもかかわらずここまでの火力が出るなど!地面の魔方陣と周囲の魔力!それらを自らの体内に取り入れることでそのエネルギーを熱量に作り変えて一気に放出!!なんと美しい・・・」


「は、はい。かなりの質量を持った熱源体でした。その最高数値は・・・3000度以上にまで達しておりました」


動揺しつつも自身の仕事をこなすアミーラ。


そのアミーラの戸惑いの様子すらウルベの視界には入らず、ただただ実験体となった男とそのデータを眺めていた。


「い~いですねぇ!いいですよぉ!!今後同調率を上げていけばもっと・・もっと素晴らしいことに・・・くっくっく!くひゃっはっはっは!!」


「・・・・・・・・・・・・」


半ば崩壊した室内と瓦礫が散らばる周囲にあって唯一人型で倒れている男。


男の周囲のみ瓦礫も何もなく、この惨状を引き起こしたのが彼だと分かるかのようであった。


「くっくっくっくっく。さっそく「彼」を伴って次の実験に進まねばなりませんねぇ。何と充実した日でしょうかぁ、くっくっく」


「・・・・・はい。さっそく回収に・・・・」


アミーラがそう宣言し、回収に向かおうとしたその矢先、室内の扉が急に開き、一人の男が入室してきた。


「ウルベ様!緊急のご報告に!」


男の乱入にウルベのテンションは一気に下降していく。


「・・・・・せ~っかくぃ~い気持ちでいたというのに、水を差すとは、一体何事でしょうかぁ?」


あまりのウルベの不機嫌さに乱入してきた男は怯えてしまうが、ここで何も言わなければ死すらあり得ると思い至ったのか、自身の職務を思い出し即座に発言する。


「ひっ!申し訳ありません!!しかし!たった今本国より先ほどの爆発の原因についての調査ということで六将軍のアークウェル様がこちらにお見えになるとのことでして!」


「ちっ、何とも素早い、しかし他の有象無象共ならアミーラにお任せしたのですが、よりにもよってあのアークウェルですかぁ、これは私が対処するしかありませんねぇ」


その報告を聞いたウルベは苦々しい表情でそう呟く。


「ではウルベ様。私が「彼」を地下研究所に?」


ウルベが動けないとなると、自身が彼の仕事を継ぐべきと考えて発言する。


しかしウルベからは肯定ではなく否定の発言が出る。


「いえ、貴女も私の近くにいないとアークウェルは疑いを持つでしょうからねぇ、それにぃ、地下研究所では少々不安ですねぇ、私の実験の為にも「彼」の存在は絶対に見つかる訳にはいきませんしぃ」


忌々しいという表情をしつつも、どうしたものかと思案の表情を浮かべるウルベ。


その様子に一つ案が浮かんだという表情で、ウルベに提案するアミーラ。


「・・・でしたら本国の地下牢に一時的に幽閉するのは如何でしょうか?そうすればひとまず本国の目は誤魔化すことが出来るのではないかと」


「なるほどなるほどぉ、人を隠すなら人の中ですかぁ、ですが「彼」が他の人間と接触するのは避けるべきですねぇ、何かの拍子に暴走でもすれば・・・・・・・・それも面白いかもしれませんねぇ!くっくっくっくっく」


「・・・ウルベ様」


「ジョークですよぉ、くっくっく。ひとまず時間もありませんし、アミーラの方法で「彼」は地下牢に連れて行って下さいねぇ」


「かしこまりました。おい!お前!あの男を地下の緊急転送陣から本国の地下牢に移すんだ!ただし、誰もいない牢に入れることを忘れるな!もし何かあればウルベ様の研究を遅延させることになる。わかっているだろうな?」


そこまでの発言をして、すぐに部下に指示を出すアミーラ。


そして咄嗟に命じられてビクッとしつつもすぐに肯定する部下の男。


「は・・・はっ!かしこまりました!!(ぶるぶる)」


「一人では流石に不安ですねぇ、貴方も手伝ってあげて下さいねぇ、「彼」の身に何かあれば・・・・」


報告に来た男と周囲にいた部下にも指示を出す。


するとビクッとしつつも即座に返事をする部下。


「は・・・はい!お任せ下さい!!(ぶるぶる)」


そこまで命令をするとアミーラはすぐに別の準備に入る。


「急げ!・・・ではウルベ様。私はアークウェル殿を迎え入れる準備を致します。こちらが先ほどの研究データです」


「えぇ、お願いしますねぇ、少しでも長く時間を作ってくださいねぇ。データは新鮮なうちに私の脳内に入れておきたいですのでねぇ。脳が・・・疼きますねぇ。くっくっくっくっく」

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