第十話 幽閉
帝国城城内地下牢
犯罪者や敵対していた者達の捕虜などが幽閉される場所。
その地下牢内に二人の男に連れられた男がきた。その様子を確認した牢番が訝しげな表情をしつつも二人を止める。
「待て!お前たちは何者だ!その男は何だ?何をやらかした?」
通常牢に人を入れる場合事前に連絡があるのだが、今回はそういった連絡がなかったため、二人の目的がわからずに二人の動きを止め、目的を聞いた。
「わ・・私はウルベ様直属の部下だ!これが証拠だ!」
ウルベの部下は咄嗟に部隊章を牢番へと見せる。
その部隊章を見た牢番たちの顔色が途端に恐怖に代わる。
「う・・・ウルベ!?あの狂人の?」
思わず出た言葉にウルベの部下は慌てた様子で言葉を遮る。
「おい!言葉を控えろ!!今の言葉がウルベ様に伝わりでもしたらお前なんてあっという間に実験台にされるぞ!!」
そう言われ牢番の一人が表情を青ざめている中、もう一人の牢番が要件を聞くことにする。
「そのウルベの部隊の者が一体こんな場所に何の用だ?あの部隊は戦争には出ていないから捕虜なんて連れてこないだろうし、あんな場所に犯罪者もやってくるまい」
「そ・・・それがその・・・ウルベ様のご命令でこの男を一時的にこの地下牢に入れておくようにと・・・」
それを聞いた牢番は驚きの表情で発言する。
「おいお前ら!今緊急の勅命が出ているのを知らないのか!?」
「勅命って皇帝陛下からか?」
「そうだ!何でも城内に侵入者が入ったらしく、その間誰もこの地下牢には入れるな!とのご命令だ!悪いがその男を入れてやる訳にはいかないぞ!」
現在帝国は戦争中であり、地下牢には当然敵対勢力の者たちが大勢いる。
そしてウルベの研究室は帝国の端にあるため、戦争にも行っていないので当然捕虜を連れてくるようなことはなかった。
更にタイミングの悪いことに侵入者が現れたらしく、それが何故地下牢を立ち入り禁止にするのかはわからないがそういう命令が出たのであれば、彼らはそれに従うしかなかったのだ。
だがウルベの部下たちはそういう訳にはいかない。
「ま、待ってくれ!では私達はどうすればよいのだ!?」
「そ、そうだ!ウルベ様になんと言えばいいのだ、もしこの男のことで何かあれば我々などあっという間に・・・・」
「そうはいっても俺達も陛下からの勅命とあっては背く訳にはいかん」
「頼む!私達の命がかかっているんだ!いや、私達だけじゃない!もしこのことがウルベ様に知られでもすれば、お、お前たちだって!」
自身が命令を遂行できないことの恐怖と、それを邪魔した者たちという事になると、ウルベならば十分にあり得る。
そういう評価をされるのがウルベという男であった。
「お、脅かすんじゃねぇよ!我々はただ命令に従っているだけで」
「何とか内密に頼む!そう時間もかからんらしい!少しの間だけでいいんだ!我々とお前達とで秘密にすればお互いに助かるんだ!」
「だ、だが勅命を背くことは・・・」
皇帝陛下の勅命とウルベ、どちらに背いても地獄というとんでもない事態に流石の牢番たちも迷いを見せるがウルベの部下たちは身近でウルベという人間を見ている分、ウルベの方に恐怖の天秤は傾いていた。
「この男を牢に入れておかないとこのままじゃ我々全員が実験台になってしまう!お前達だってウルベ様の事はご存じだろう!?」
その発言にウルベの噂を思い出すが、本当に実験台にされる可能性がある事態に思わず言葉を失ってしまう牢番たち。
「「・・・・・・・・・・・」」
「「頼む!!!!」」
「・・・・・・いいだろう」
ここで牢番の一人が牢に置くことに了承を出す。
それを聞いてもう一人の牢番は驚き声を荒げて問いかける。
「!?おい!いいのか!?」
「仕方ないだろう!お前だってあの狂人の事は知っているだろう!こいつらの言っていることはもしかしたらほんとに実行されてしまうかも・・そうなったら俺達だって!」
そこまで言われてもう一人の牢番も十分に想像が出来たのか覚悟を決める。
「た、確かにそうだが・・・よし!お前達!絶対にこのことは誰にも喋るんじゃないぞ!」
「わかっている。私達だって陛下の勅命に背くことになっているんだ、喋ったりなんてしないさ」
「じゃあさっさとこいつを頼む!我々はウルベ様に無事に地下牢に入れたことを報告しないと!」
そこまで行って後は任せて去ろうとしたウルベの部下たちを引き留める。
「待て!こいつを入れることは我々だけの秘密だ。だがそうなるとこの男が万が一意識を取り戻した時に他の捕虜や犯罪者共といるとそのことがどこかから漏れてしまうかもしれない」
「確かにウルベ様からもこの男は誰とも接触させるなとおっしゃられていた。誰も入っていない牢はないのか?」
「さっき言った通り戦争中だから捕虜や犯罪者に事欠かなくてな・・・空いている牢がないんだ」
「じゃ、じゃあどうするんだ?このままでは・・・・」
入れられる牢がないと言われてまたも命令を実行できないことの恐怖を感じ出す部下たち。
そこに牢番の一人が思い出したかのようにもう一人の牢番に一つの発言をする。
「おい。あの部屋なら誰も入っていないんじゃないのか?」
「あの部屋?」
「ほらあの片隅の・・・一つだけ離れて作られてる」
「あの部屋か!いやだがあの部屋はそもそも勅命以前から誰も入れるなと言われているじゃないか!」
「確かにそうだが、あの部屋以外にないじゃないか!それに長いこと牢番をしているがあの部屋で何かあったことも誰かが入れられた事も一度もないんだ、一時的に入れるくらいならバレないだろう?」
何故なのか理由は解らないが、彼らには牢番をしている時からたった一つだけ、絶対に捕虜や犯罪者を入れない謎の牢があることを知っていた。
だが入れない理由は当然の如く聞いておらず、長い間牢番をしていたが誰かが入ったことは勿論一度たりともなかった。
「そうかもしれないが・・・いや、どうせ勅命を破っているんだ!今更平時に言われていることくらいどうってことないか!?」
牢番二人が話しているがウルベの部下たちには何の話か分からず、この男を入れることが出来るのか否か、それだけが気がかりであった。
「結局どうなんだ!?いけるのかいけないのか!!?」
「よし、その男を預かろう・・・少しの間でいいんだよな?」
「ああ、ウルベ様達も一時的にとおっしゃっておられた、そう長くはかからないはずだ!」
「出来るだけ早く頼むぞ!それと引き取りに来るときは必ず俺達だけに伝えてくれ。他の牢番にも知られないようにするから」
「わかった!恩にきる!では頼むぞ!」
「よし!急いで戻ろう!あまりに遅いとウルベ様に何かされてしまう!(ぶるぶる)」
それだけ言うと部下たちは男を引き渡して逃げるように地下牢を去っていく。
「よ、よし!我々も急いでこの男を連れていこう。お前はあの牢の鍵を!」
「わかった!!急いで取ってくる!!」
そう言って即座に牢番の一人が控室の方へと駆け出して行った。
「よし、何とか誰にも見つからずに連れてこられたな」
「ああ、とはいえさっさと入れて戻らないと何かあったら殺されちまう!」
「おら!さっさと入れ!」
ドカッ
物を投げるかのように男を牢屋の中に放り込む。
その際に背中に蹴りを入れる
「ぐおっ!うっ・・・・・」
「ちくしょう!こいつのせいで俺達はこんな危ない目に合ってんだ!!こいつ!!こいつ!!!」
ドカッ バキッ ガスッ
牢番が男を乱暴に牢へと入れて更に危ない目にあっている腹いせに蹴りを入れる。
どうせこんなところに入れられる男なのだ。
偉い人間という事はあるまいという判断でもあった。
「おい!それくらいにしておけ、あまり長いこと番を離れる訳にいかないし、何よりこいつに何かあれば・・・」
この男に何かあった際の恐怖を思い、相方の牢番を止める。
「こいつ元々ボロボロなんだ、多少殴ったってバレやしないさ。それに普段から誰も入れないように命令されてるだけあってこの牢に近付く奴もいないしな」
「それでもだ。これ以上危ない目には合いたくない。さっさと戻っていつもの仕事に戻ろうぜ」
「はぁはぁはぁ、ああ、そうだ・・・な!!」バキッ
「ぐふっ・・・・・・・・・・・」
ガシャン・・・・・コツコツコツ・・・・・
最後にそれだけ言うと一撃を加えた後に牢番たちは去っていった。
幾度となく痛めつけられて流石に目が覚めた男であったが、しばらくまともに動けるような状態ではなかった。
「はぁはぁはぁ・・・うっ(ちくしょう・・・何でこんなことになってんだ。ここはどこだ?そもそも一体何があった・・ん・・・だ・・・)」
ドサッ
再び意識が暗闇に飲まれていった。
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