第三話 理不尽な異世界

数ヵ月後


太陽の光は届かず薄暗い、だがうっすらと明りの灯る地下の部屋で、一人の男の悲鳴が響いている。その悲鳴に合わせて様々な異音も聞こえてくる。


何かを殴りつける音や叩きつける音、小さな音であるはずだが、周囲が静かなこの空間にはとても大きく響くようだ。当然、男の悲鳴も非常に大きく聞こえてくる。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!っあぐっ!!!あ・・・あ・・・っあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


男の悲鳴を聞いていると一人の学者風の男ウルベが声を出す。


その目は男を心配しているのではなく、何かに期待しているかのように燦々と目が輝いているかのように見える。


「ん~、そろそろ体の方の準備は出来てきましたかねぇ。早く例の実験をしたくてウズウズしてしまいますよぉ!くっくっく」


ウルベとその隣で同じように悲鳴を上げている男を、何の表情もなくみている女アミーラがウルベに向かって語り出す。


「はい、この男を拾って数カ月、当初は随分と貧弱な様相でしたが、ウルベ様の試験薬の効果により実験に耐えうる位にはなってきました。」


「くっくっく。なるほどなるほどぉ。ではいよいよ実験を行うとしましょうかぁ。明日は大事な日になりますねぇ、そうなると本日はそろそろ休ませてあげましょうかねぇくっくっくっくっく」


ウルベはそう話すと随分と楽しそうな表情をして笑みを深くする。


その目はまさにこれから起こるであろう事に心から楽しみにしているような表情であった。


「かしこまりました。おい!今日はそこまでだ。さっさとその男を例の部屋へ連れて行け!」


アミーラがそう声をかけると周囲にいた二人の男たちがすぐに返事をして動き出す。


「はっ!心得ました!」


「おら!ついてこい!」


ガスッドカッ。


男たちは悲鳴を上げていた男に対して指示された通り連れだそうとするがその扱いは非常に悪く、男を殴ったり腕を引っ張ったりして無理やり歩かせようとしていた。


「うぐっ!ぐはっ!」


だが男は即座に動く事は出来ない。当然であろう。先程まで悲鳴を上げる程にきつくまさに拷問のごとく痛めつけられていたのだから。


「・・・あまりやり過ぎないでくださいねぇ、彼に死なれでもしたら貴方達の命程度では到底まかないきれませんからねぇ」


ウルベが少し表情を変えてそう声をかけると、先程まで無理やり男を動かそうとしていた男たちが急に怯えたような表情をしてウルベに頭を下げる。


「「!はっ。も、申し訳ありません!ウルベ様!」」


ウルベはそう声をかけた後、二人の自身の部下たちが男を連れて行ったのを確認した後に再び表情を緩めて大きな笑みを零す。


ただその笑みは決して友好的な笑みではなく、裏があるような腹黒く思わず警戒したくなるような深い笑みであった。


「明日は遂に私の実験も佳境に入りますねぇ。今から楽しみでしかたないですよぉ、くっくっくっくっく」


「はっ!明日は大事無きよう万全の状態を準備しておきます!」


「えぇえぇ、期待していますよぉ。くっくっく、くひゃっはっはっは!!」


明日を思ってか、堪え切れないといった様子で大きく笑い声を出すウルベを隣にいる女アミーラはその表情を全く変化させる事なくウルベについて行った。


その後、先程連れ去られた男はこの数カ月ずっと入れられている部屋へと放り込まれる。


部屋はかなり薄暗く、光はほとんどなく、部屋の中には木で出来たベッドと布が一枚あるだけでそれ以外には殆ど何もない様な部屋であった。


そこでこの男は数ヶ月間入れられ続けて毎日こんな拷問の日々を繰り返している。


部屋に放り込まれた男はベッドではなく地面に横たわっていた。もうベッドに行くことすら出来ない程、体は痛めつけられていたのだ。


男がふと小声でつぶやく。だがその声は周囲にいる誰にも届く事のないとても小さな声だった。


「・・・わけ・・・わかん・・・ねぇ・・・俺が・・・何をしたっていうんだ・・・くそ・・・マジでもう・・・帰してくれ・・・元の・・・場所に・・帰りたい・・・ぐすっ」

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