第四話 実験開始
翌日、いつもと同じように自分のいた部屋から無理やり連れられて男が歩いていく。
辿りついた部屋に着くといつもなら台の上に寝かせられて拷問が始まるのだが、男はいつもと違う部屋の雰囲気に気が付いた。
自分と同じ部屋に複数の鎧を着た男が待機しているのである。
「(な、なんだ?いつもと少し違う?魔方陣?まさか帰してくれるとかか!?いやそんな都合のいい話がある訳が、でもなんとなくあの時の魔方陣と似てるような気が・・・頼む!神様!!)」
いつもと違い、自分が寝かせられている足元に明らかにこの世界に来て初めて見た時の線と円で繋げられた光が見えた。
それは明らかに今日まで与えられた拷問の日々と違う風景で、男は心の中に小さな希望を抱いてしまうのも当然のように思えた。
「ウルベ様、ご準備が整いました。いつでも可能です。」
「そうですかぁ、遂に来ましたねぇ。さっそく始めましょう!くっくっく」
いつも自分を遠目に見ている学者風の男と女がこちらを見て何事か呟く。
その後はいつものように手足を金属の枷で縛りつけられて身動きが取れなくなる。
やっぱりいつもと同じなのかと少し絶望がまた心を支配してくるのを感じていたが、いつもと違いいつまで経っても拷問するための男たちが近づいてこない。
やはりいつもと違う雰囲気に男の中の希望はどんどん大きくなっていく。
「(・・・いつもみたいに殴られたりしない、ほんとに帰してくれるのか!?魔方陣が光ってる!!ほんとに?ほんとに帰れるのか!?)」
しばらくすると先程見たであろう魔方陣らしきものが光っていき、光はどんどん大きくなっていく。
男の期待も魔方陣の光が大きくなるに従って同じように大きくなっていく。
「くっくっく、魔力の準備も整いましたねぇ、ではそろそろアレを・・」
「はっ!おい!こいつを奴に射せ!」
ウルベが何事か呟き、それをアミーラが聞いて頷くと一つ大きな声で叫ぶ。
そうすると同じく近くにいた男達がそれを聞きつけ、恭しく頭を下げた後、一つの扉に向かって走っていく。
「かしこまりました!すぐに!おい!扉を開けろ!」
「おう!」
扉を開けると別の男達が現れ、その男達に何かを渡してすぐにまた戻っていく。
何かを受け取った男達が縛り付けられている男の元へとやってくるのが見えた。
「俺がやるからお前はこいつを押さえておいてくれ」
「わかった、逆側から押さえておく」
その男たちが声をかけると縛られた男を挟むような形になり左右に立つ。すると突如片方の男が縛られた男を更に体や頭を無理やり力ずくで押さえつけてくる。
「(なんだ!帰れるんじゃないのか!?くそっ!押さえつけられる!何をされるんだ!!?こいつ!手に何か持ってる、俺に何かする気か!?止めろ!止めろ!!)」
そんな状態にされた男はようやく自分が元の居場所に帰れるのではないという物々しい雰囲気に気付き、何をされるのかわからない恐怖から何とか逃れようと力いっぱいに体を動かす。
「うお!こいつ!!暴れるんじゃねぇ!往生際の悪い!おい!一気にやっちまってくれ!」
「ああ!押さえててくれ!やるぞ!!」
押さえつけていた男が何かを持っているであろう男に向かって叫ぶと、同じように物を持っていた男が男に近付いて行く。
良く見るとその手には大きな注射器のような物があり、中には黒い液体が入っている。
それを見た縛られた男はよりいっそ恐怖から激しく暴れようとするが、元々手足を金属で縛りつけられているのだからそれほどの抵抗が出来るはずもなく、遂には男の首筋に注射器のようなもので黒い液体を流し込まれる。
すると、液体が男の体内に入ってきた瞬間にその部分からとてつもない熱を帯びて行く。
まるで液体そのものがとんでもない熱を持っているかのような感覚で、それがどんどんと自身の体を巡っていくかの如く、全身が熱を帯びて熱くなっていく。
「ぐあ!?熱っ!?熱い!!熱い!!!首が!!首が!!!あ・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
もはや意味のある言葉を発する事もできず、訳も分からず、視界すら薄れていき、まともに前も見えなくなり、ただただ首から流れてくる熱い感覚のみが全身を支配していき、遂には何がなんなのかわ訳がわからなくなる。
体も自身の意思とは関係なく暴れまわり、手足を押さえている金属の鎖がガチャガチャと大きな音を立てている。
「うお!!何だこいつ!?」
「もうやることはやったんだ!離れていろ!」
男を押さえつけていた者と男に液体を流した男はその様子を間近で見ていたが、あまりの変貌に思わず手を離して大きく離れて行く。
その様子を遠目からずっと見ていたウルベがまた黒い笑みを浮かべて声を出す。
「くっくっくっくっく。来る、来ますよ、遂に来ますよぉ!!!!」
「・・・・・・・」
その様子を隣にいるアミーラはやはり何の表情も感情も出すことなく見ていた。
「ぐああああああああああああああああああああああ!!!!!!!うぐっ!!!!!あがあああああああああああああああ!!!!!!!!ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「(焼ける・・・・体が・・・内から焼ける・・・・・・焼けてる・・・死ぬ・・・マジで・・・・死ぬ・・・・死んじまう・・・・死にたくない・・・・しに・・・た・・・く・・・)」
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