第10話 魔術師ロベリア

 王城の入口たる城門の扉は無残にも打ち砕かれ、残骸をあたりにまき散らす。王城に至るまでの道のりに住民の姿はなく、それと同時にロベリアの先兵の姿もない。

 おそらく、ロベリアの率いる兵はこの王城で待ち構えているのだろう。

 招き入れるように玉座の間までの道中、二人の歩みを妨げるものはなかった。

 荘厳な扉を開くと真紅の絨毯の敷かれた玉座の間の豪奢な玉座には本来の主ではなく陰鬱な闇の魔力を纏った腰まである長い黒髪を携えた女が緋い唇をにっと吊り上げ、我が物顔で腰かけている。


「おやおやおや、誰かと思えば死にたがり勇者のアルレッキーノじゃないの」


 黒髪の女はアルレッキーノの方に顔を向けると口だけでなく目も三日月のように細め嗤いかける。


「こんな、嬉しい誤算はないわ。私の手でお前を殺せるんだからねぇぇぇぇ」


 顎が外れるほど口を開けて黒髪の女、ロベリアは喜びの声を上げるのをアルは殺気の籠った瞳で睨みつける。


『あの時、息の根を止めてやったはずだったんだがな』


 吐き捨てるようにつぶやくアルにロベリアは嬉しそうに唇の端を釣り上げた。


「ざぁんねぇん。ロベリアさんはそんな簡単には死なないわよぉ~」


 すっと、魔女の顔から笑みが消える。


「あの時のお礼、たっぷり返してあげるわ。今度はその右目も貰おうかしら」


 言い終えると同時に後方の扉からアルの身長の二倍ほどもある泥人形が数体、玉座の間に歩み入る。


「さあ、私の可愛い泥人形達、あの赤いブリキの人形を壊して頂戴」


 ロベリアの命で泥人形達はアルに向かって緩慢な足取りで近づき、丸太のような太い腕を振り下ろす。

 当たれば人など簡単に肉塊になる一撃をアルはこともなげに躱し、いつの間にか抜いた剣を右手に泥人形の腕を足を切り裂いていく。あっという間に手足を奪われた泥人形達は床に転がりゴロゴロと悶えた。


『この程度で俺を倒せると思ったか』


 アルの言葉にロベリアは目を伏せ首を左右に振った。


「ぜぇんぜぇん。それでこそアルレッキーノ、殺し甲斐があるわぁ」


 ケラケラと魔女は楽しそうに嗤うと背後から漆黒の髑髏を頂点にあしらった杖を取り出すと先端をアルに向かって指した。

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