第11話 魔女の最後
杖の先端の髑髏の口が開くとボオと音が鳴り、10体の鎌を手にした黒いフードを被った死神が現れ、アルに向かって飛び掛かる。
10の振り下ろされる鎌をアルはほとんどを体捌きで躱し、時には剣で捌き、時にはその鋼鉄の身体の曲面で受け流す。
勇者の称号は伊達ではない。躱しながらもアルはすれ違い様に一刀のもとに死神を切り裂いていく。あっという間に死神はその半数を失った。
ロベリアの顔から笑みが消え、怒りに両目の端がキュッと上がる。
「よくも、私の可愛い死神たちを!」
怒りに髪を振り乱したロベリアであったが、その目がユートを捕えるとふっと笑みが戻る。
「あの、子猫をやっておしまい」
死神の一体がユ-トに向かい鎌を振り下ろす。ギンと金属同士がぶつかり合う音が広間に響く。
ユートは咄嗟に瞑った目を開くと眼前には真紅の鎧の背中があった。
「アル!」
『間に合ったみたいだな』
顔は死神の方を見たままだったが、アルのユートに掛ける言葉は優しかった。
ほんの僅かな二人のやり取り。それでも戦場においてはその僅かな時間も命取りになる。
1体の鎌を受けた直後、残りの4体の鎌が間髪入れずにアルの胴を貫いた。
「また死ねて良かったわね、アルレッキーノ」
ロベリアの浮かべた笑みは瞬時に消える。
『人だったら死ねたんだろうがな』
そう、零すと同時にアルは握る剣に黒い炎を纏わせ一振りすると炎にあぶられた死神たちは一瞬で塵と化した。
死神たちに穿たれた穴は鎧の向こう側の景色を映す。恐怖に顔を引きつらせながらもロベリアは尚も嗤う。
「あらあら、まあまあ。あんなに死にたがっていたアルレッキーノが
ロベリアとアルの間を遮るものは何もない。ゆっくりと炎を纏った剣を握り歩み寄るアルを前にロベリアは逃げるそぶりも見せない。
互いに手を伸ばせば届く距離でアルが冷めた声でロベリアに尋ねた。
『逃げないのか?』
「この状況で逃げたって無駄でしょ」
『そうだな』
言ってアルは剣を上段に構えロベリアに振り下ろした。ばたりと床に伏したロベリアの身体を黒い炎が包み始め、足先から徐々に塵へと変わっていく。
『これで終わりだ。ユート、もう大丈夫……ユート!?』
剣を収め振り返ったアルが見たのは床に倒れ苦し気に喘ぐユートの姿だった。
『しっかりしろ』
アルが抱き上げ声をかけてもユートは苦し気に息を吐くばかり。
(ロベリアは絶命したはずだ。なんで呪いが解けない?)
ロベリアの方を振り返れば絶命したはずのロベリアの顔が楽し気に笑みを浮かべながらアルを見つめていた。
「あらあら、ざぁんねん。子猫ちゃんの呪いは私を殺しても解けないわよ。だって元から皆殺しにするつもりだったんですもの。良い撒き餌にはなってくれたわ。悔しがる貴方を見ながら死ぬのは悪くないものね」
ケタケタと笑い声を上げながらロベリアは炎に包まれ塵となった。
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