第9話 ユートとアル

 心地よい揺れとまではいかないが、気遣いのある揺れにユーストマは目を覚まし、自分の置かれている状況に気づき小さな悲鳴を上げる。

 なにせ、目が覚めたら鋼鉄の腕に片手で横抱き、所謂お姫様抱っこをされているのだから。人に抱き上げられるなど、もっと幼いころに父親である国王に数度してもらったくらいもの。ユーストマが驚くのも無理なかった。


「ア、アル様これは」


 恥ずかしさから顔を赤らめながらユーストマが尋ねるとアルは特段気にした様子もなく軽く首を傾げながら


『ん?目が覚めたか。よく考えたら、俺は寝なくて済むからユートが寝ている間に抱いて俺が走れば早く着けるから良いと思ったんだが』


「それは……合理的なのですが、恥ずかしいものは恥ずかしいのです」


 徐々に小さくなるユーストマの声にアルは少しばかり申し訳なさげな声で


『非常事態だ。そこは我慢してくれ』


 と返した。「はい」と小さくユーストマは頷き、暫く顔を伏せていたが、何かを思い出したのかパッと顔をあげアルに尋ねる。


「アル様、先ほどユートと呼びませんでしたか?」


『あぁ、ユーストマは良い名だとは思が、少しばかり呼びずらかたんでな、勝手にユートと呼んだが嫌なら……』


 止めるとアルが言う前にユーストマは嬉し気ににっこり微笑んだ。


「嫌じゃありません。誰かに愛称で呼ばれるなんて、お友達が出来たみたいで嬉しいです」


『それなら良かった。友人だと思うなら俺のこともアル様じゃなくてアルって呼んでくれないか?』


 笑うようなアルの声にユートは少しばかり悩んだ末に


「分かりました、アル」


 と笑顔で返した。

 二人がそんな話をしているうちに木々の間から王城がその姿をのぞかせていた。

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