第352話切り抜き視聴配信1

 シュワちゃんから元気を貰ってから一週間が経過した。

 調子は取り戻しつつあるけど、禁酒期間はあと一週間も残っている。

 ここが踏ん張りどころだ。ヤラカシへの反省と、今後に向けての体調管理、そして初心を思い出す為の研鑽をして、有意義に完全復帰までの時間を過ごしたい。

 シュワちゃんとの会話から得たものは大きかった。そこで、次に私が目を向けたのは、過去の自分だった。

 とはいえ、過去の自分のAIを更に作るのでは、有素ちゃんが過労で倒れてしまう。だけど、ありがたいことに今はアーカイブ等の記録が充実している時代で、私もほとんどの配信が何らかの形で残っている。

 その中で今回私が目を付けたのは『切り抜き動画』だ。

 私達のようなライバーの配信の注目シーンを切り抜いて作られた切り抜き動画は、手軽に観られることや編集を付けることが出来るなどの利点から、世間で大きな人気を集めている。

 私も、切り抜き動画全部纏めたら元の配信が完成するんじゃないかってくらい滅多切りにしてくれている切り抜き師さんには、日々感謝しています♡

 そんなわけで切り抜き師さん達にはお世話になってきたわけなんだけど、ここ最近、VTuber達の間でこの切り抜きを視聴するという配信がよく見られるようになってきた。

 今後について模索している今の私にとってこれは、ブームに乗れる上に、色んな時期の自分を振り返ることが出来る一石二鳥の企画というわけだ。

 AIシュワちゃんから自分を知ったように、過去の自分からも学びを得たい。


「振り返りやすいように、各切り抜きの元配信はキャリアの節目節目から選んできました。勿論どれも再生数が伸びていて人気がある前提なので、楽しみですね!」


コメント

:さっき「いいストゼロが降ってる」って言いそうになった件の説明はまだですか?

:自然なようで実は峠来てそう

:さては過去の自分からストゼロ摂取するつもりだな?

:草

:まさかAIシュワちゃんもそれが狙いで!?

:だめだ! これ以上禁酒したら肉体を保てなくなる!

:この物語の最終回はストゼロになった淡雪をライバーの皆が飲んで終わりだぞ


「はいはい早速最初の切り抜きを発表しまーす」


 日に日に私以上にストゼロを欲し始めている気がするコメント欄を無視して、動画タイトルを発表する。


「最初はこれ! 『シュワちゃん、マ〇カ大会で暴走族になる【ライブオン/切り抜き/心音淡雪】』」


コメント

:うわなっつ

:見たことあるやーつ

:超伸びてるやつかw

:タイトルでもう草

:淡雪ちゃんの場合昨日の配信を見るだけでも苦痛だろうに……


「この大会は五期生が入る前くらいに、ライバー総出で開催された企画ですね。振り返りも兼ねているので、記憶が怪しいこの辺りから順に時系列を遡っていこうと思います」


 知り合い大人数でマ〇カやりたかったから、開催が決まって嬉しかったのを覚えてるな~。


「私のキャリアで特に脂が乗っていたと言ってもいい時期ですからね! きっと参考になることでしょう! それじゃあ再生しまーす」


 それじゃあ――ポチっとな。


『オラオラオラオラァ!! そこの四期生!! 先輩だぞ道を開けろーー!!』


 さて、まず目に入って来たのはクラクションを鳴らしながら後輩にイキる私の姿。


『聖様アアアアアァァァァァーー!!!! 死ねえええええええええぇぇぇーー!!!!』


 続いて目に入って来たのは、先輩に攻撃アイテムを投げると同時に暴言を吐く私の姿。


『あ、晴先輩! そういえばサインって貰ったことなかったですよね! サインください! あ、色紙ない! そうだ、じゃあ私の股間に! 股間に描いてください! 私の股間にサインインしてくださーーーーーい!!!!』


 更に続いて目に入って来たのは、並走する大先輩にセクハラをする私の姿。


「……………………」


コメント

:なんか言えよ

:言葉を失うとはこのことよ

:地味にエーライちゃんやり返しに来てて草

:聖様はタンクの才能あるからな

:サインイン?


 一旦動画を止める。

 ふむふむ……。


「え、私これを参考にしようとしているんですか?」


 ようやく絞り出せた言葉は、心からの困惑だった。


コメント

:w草w草w

:君どこ目指してんの?

:脂が乗ってる×脂でギトギトしてる〇


 まぁ、まだ動画は序盤の為、とりあえず視聴を再開する。

 次のシーンはこのレースの最終盤、晴先輩との1位を争う大接戦だ。

 流石の操縦で一歩前に出る晴先輩に、背後からガシガシとタックル上等でくらいついていく。


『あん♡! あぁん♡ 晴先輩のお尻気持ちいい! ああぁん♡! 抜いちゃう! 晴先輩抜いちゃう! 晴先輩で抜いちゃうううううぅぅぅぅーーーー!!!!』


 ……………………。


『イッグぅぅぅぅううううううううーーーー!!!!』


 ……………………。


『抜けなかったわ(コントローラーぽい)』


「は?」


 普通に負けて一瞬で激萎えした画面の中の私。


「なにこれ? 膣から出たう〇こじゃん」


 彼女に掛ける言葉は、悪口の理論値しか残されていなかった。


コメント

:これは酷過ぎる……

:※彼女達は仲良しです

:喘ぎ声がなんか汚い

:イグはアウトなのよ

:使えない

:今日はこれじゃなくていいや

:晴先輩『で』って言ったよな?

:結論。晴先輩は抜けない

:もう全部失礼で草

:また自分への怒りがwww

:もうちょっと清楚な悪口にしよ……

:清楚は酒で死にました


 その後も、このノリが途絶えることはなく――


『はぁ~いましろーん! ましろんって丸くて生地にあんこが入ってる焼き菓子なんて呼んでる? 今川焼きとか言われてるやつ! 私の地方はね、ストゼロ焼き! 丸いから!』


 全く前振りのない突然のストゼロネタをぶち込むやら――


『最下位……仕方ない、重りを外して本気を出すか――責任という重りをね」


 ベテランになりつつあるライバーとして、一番外してはいけないものを外すやら――


『ヤベ挟まれた!! はっ!? ちょっと待ってこれ三連結じゃね!? 三連結の真ん中はヤバイ!! 前後同時はクラッシュしちゃううううぅぅぅぅーー!!!!』


 ライバーなのに耳が腐りそうになる実況をする有様で――


「YOUは何しにこの世へ?」


 最後まで視聴を終えた時、私は理論値を更新することしか出来なかった。


コメント

:wwwwwwwww

:走る人工芝

:清楚とは思えない程悪口のバリエーションが豊富

:あわシュワコラボの最後どこ行った!!

:重りのやつ絶対言うと思ったわwww

:ストゼロサンドイッチ見たくない

:インコースではなくアウトコースギリギリを攻める女

:掟破りの地元(ライブオン)走り

:これは暴走族ですわ

:こんなのが蔓延ってた昔の日本やべぇな

:シュワの国

:暴走族になってないライバーの方がこの大会珍しかったけどね……


 ちなみにこの大会の結果は、私が9位で、ライバー一の猛特訓を積んできた光ちゃんが晴先輩やエーライちゃんなどの強豪を倒して優勝となった。

 順位は振るわなかったものの、念願のマリカ大会に参加できて大満足で終わったのは今でも覚えている。

 まぁ……それを今振り返ってみた感想としては……。


「まぁあの、楽しそうだとは思います……」


コメント

:そうだねw

:間違いない

:他には?


「あとは……自信と充実感を感じますかね。マナちゃんとのコラボの後なので、私は無敵だと思っていた時期かもしれません……」


コメント

:あーそんくらいか

:イキイキしてたもんなぁ

:イグイグもしてたよ

:実際無敵だっただろ


「まぁあの、いい時期だったと思います、はい。悩みがない時っていうのは目に見えて活力に溢れて見えるんだなって参考になりましたね、はい」


コメント

:歯切れが悪い感じ草

:元気が一番!

:ちゃんと見習ってどうぞ

:一本目からそんなんで大丈夫か?笑


「はぁ!? お酒なんて飲んでませんが!? あ、一本目の動画ってことか、ごめんなさい……」


コメント

:草草

:離脱症状出ちゃってんじゃん

:ピリピリしないでもろて

:初めてあわちゃんにセンシティブって思った

:繊細の方の意味で草

:あの日(禁酒)だからね

:ごめんね、俺の言い方が悪かったね


「お願いだから謝らないでください……もうだめだ、次行きまーす……」

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