第344話あの心音淡雪が色んなお酒飲んでみた3

 口の中のリフレッシュと、酔い覚ましの為に一杯の水を飲み干す。

 一度に多種類のお酒を飲むと悪酔いしやすいって話も聞いたことがあるから、休憩時間と飲み過ぎ防止は大事にしていかないとな。

 ふぅ、とりあえずあの変な口調は戻ったかな……企画を進めよう。


「さて! 次のお酒とゲストの方に登場していただきましょう! すみませーん!」

「――お前が俺を呼んだ依頼人か? 手短に済まそう。望みのブツを言え」

「次はどうしましょうかね~」

「日本酒だな、承知した」

「うんうん! 台本にないセリフ言っちゃってごめんね! さっき必死になって台本覚えてたもんね! あれだけ読んでたらアドリブの対応なんて出来なくなっちゃうよね!」

「え? あっ!? ご、ごめんなさーーーーい!!!!」


 私だけじゃなくスタジオ全体に大声で謝り倒し、爆笑をかっさらった幼女らしき生き物。

 次のゲストはダガーちゃん、そしてお酒は日本酒だった。


コメント

:出オチならぬ出カワ

:これは淡雪が悪い

:配信者ってあんま台本重視しないイメージあるから……

:何度も何度も読んだから一連の流れで覚えちゃったんやろなぁw

:台本では「次は」の所は「日本酒でお願いします!」って書いてあったのかな

:記憶喪失なのにこんな時は覚えいいのか……

:やはりPON、ダガカワイイ

:スタジオを笑顔にするのカッコいいよ!

:日本酒って言ったよな!? 


 ワタワタし始めてしまったダガーちゃんを落ち着かせ、企画の進行に戻る。ここからは台本なしだから安心!(?)


「ダガーちゃん、その持ってきてくれた日本酒って、ただの日本酒じゃないですよね?」

「そう! 師匠と同じ名前が付けられてるやつ!」

「ありがとうございます! これ配信でたまに名前が出ていたお酒なので、ぜひ飲んでみたいと思っていたんですよ~!」


コメント

:例のヤツじゃん!?

:これはナイス酒選

:自分を飲むのか

:淡雪の酒の方すこ

:どっちだ?

:淡雪の清楚な方すこ

:はいはい日本酒の方ね


 配信画面にもお酒の画像が表示され、盛り上がり始めるコメント欄。やっぱリスナーさんも待ってたんだね!


「いつもお世話になってるから、今日は俺がお酌してあげるぜ!」

「ダガーちゃんお酌出来るの?」

「今日の為にいっぱい練習した!」

「不安になってきました!」

「流石にこれくらいは俺も出来るからー!」

「はいはい、それじゃあお願いします」


 瓶を開けて、私の持つ盃に丁寧にお酒を注いでくれるダガーちゃん。

 さっきの事例があるので、決して邪魔はせず、手も僅かな震えも許さない厳戒態勢で私も挑む。


「ッ! 出来た!」

「キャー上手だね~!!」

「えへへ、練習の成果」


 完璧に注がれた盃。なんか師匠泣いちゃいそうです……。


コメント

:微笑ましいw

:師弟っていうか親子なんだよなぁw

:このダガーって子かわいすぎて名前合ってなくない?

:ダガーちゃんのダガーはプラスチック製だから


「それでは、いただきます」


 日本酒を飲むのもこれが初めてだ。しかも私の中で日本酒は、お酒の中でも特に味の想像が出来ない印象があった。

 未知の惑星に足を踏み込むような緊張と共に、盃に口を付けた。


「あぇ? 甘い?」


 気合いを入れてお酒を口に入れたのだが、予想外に幸せな味が口に広がって、なんとも気の抜けたリアクションになってしまった。


「え、こんなに日本酒って甘いものなんですか? なんだか癖も少ないし、炭酸が入ってるのもあってジュースみたいに飲めてしまうのですが……」

「あー? マジ?」


コメント

:それ確か日本酒の中でもかなり飲みやすい方のはず

:盃よりグラスの方が似合うくらいだしな

:日本酒はどぎついのからジュースみたいなのまである

:普段ストゼロばっか飲んでたらそうもなるわw

:持ってきたダガーちゃんも分かってないの子供っぽくておもろい笑


「なるほど、同じ日本酒でも全然変わってくるんですね」

「おいしい?」

「お酒感が全くないわけではありませんが、率直においしいですよ。ダガーちゃんも飲んでみますか?」

「いいの!?」

「はいどーぞ」

「やた! いただきます!」


 ダガーちゃんに盃を渡す。これならダガーちゃんも問題なく飲めるんじゃないかな。


コメント

:え、この子飲んでいいの!?

<ライブオン公式>:※彼女は成人しています

:公式からの注意書きで草


「ごくっ……!?」

「どう?」

「うまーーーー!?」


 前に渡したストゼロより反応がいいのは複雑だが、ダガーちゃんはかなりお気に召したようだ。

 その後も、ワイワイと感想を言い合いながら、飲みやすさも相まってどんどん瓶を空にしていく。


コメント

:度数も低めとはいえペース速くね?

:後で後悔するぞ……

:飲みやすいは酔いにくいに=しないぞ!

:とんでもないことになりそう……

:飲みやすい酒はリボ払いみたいなものだから


 その様子を見て、コメント欄も段々と少し心配の様相を呈し始める。

 さっき飲む量には気を付けなければと考えていたように、飲み干さないといけないなんて危ないルールはこの企画に設けていない。初めて飲む日本酒でこれは調子に乗り過ぎてしまっただろうか? 

 けど、ここまで飲み進めたのにも理由がある。どうもなかなか酔いが来ないんだよね……もしかして後から来る感じか?

 少し不安になってしまう。面白く酔えるならまだいいのだが、企画の進行に影響が出る酔い方したらまずいかも……それは配信者として避けたい……。

 とはいえ、今その不安を滲ませることもしたくない。楽し気な空気は維持したまま、私と余程気に入ったのかグイグイ飲もうとするダガーちゃんの飲酒量を自然に抑えるよう立ち回る。

 だが、既に体に入ってしまっているものは誤魔化せないのも事実。

 流れていく時間と共に体に溶けていく慣れないお酒のアルコール。

 その結果、どうなってしまったかというと――


「あの……これ本当にアルコール入ってるんですよね?」


 いつまで経っても、私は酔っていなかった。

 …………なぜ?


「盃を頭に乗せて~盃マン!  あー↑!(パチパチパチパチ) ……今度ママとパパにもお酌してあげよ~(にぱー)」


 こんなことを言いつつも、私もあれがお酒だったことは理解している。なぜならダガーちゃんはべろんべろんに酔っぱらっているからだ。

 でも、いやだからこそ、言わずにはいられなかった。同じお酒を飲んでいたはずなのに、なぜ私には全く酔いが来ないのだろう?

 酔い過ぎたら問題だが、全く酔わないのもそれはそれで困る……。


コメント

:どゆこと?

:マジで素面のままっぽいな

:全く酔わないなんてことある?

:ダガーちゃんまた記憶取り戻してて草

:体内の免疫細胞がストゼロ以外のアルコールを駆逐したのか? いやビールでは酔ってたから違うか……

:まさか酒によって……


「しーしょーおー」

「なんでしょう?」

「ぎゅー」

「あらあら」


 上機嫌で遊んでいたのに、急にもたれかかるように抱き着いてきて、そのまま私の胸元に顔をうずめてしまうダガーちゃん。


「どうしたんですか?」

「ねむくなっちゃった」

「あーお酒沢山飲みましたもんね。じゃあレビューも終わったのでちょっと寝ちゃいましょうか。今日はありがとうございました。よしよし、ねーんねーんこーろりー♪」

「ぐがー……」


コメント

:世界平和のアート作品

:ライブオンとは思えない光景

:シュワるどころかなんかいつもより清楚じゃね?

:ダガーちゃんに抱き着かれても興奮しないどころか寝かしつけただと!?

:本当に何が起こってるんだ?


 むしろ酔うどころか、邪念みたいなものが綺麗さっぱり消えて思考がクリアになり、体内の清楚が活性化している感覚がある。今なら清楚キャラでやり直せるんじゃないかとすら思う清らかさだ。

 不思議なことが起こっているが、とりあえず日本酒のレビューは終わりかな。眠ってしまったダガーちゃんをスタッフさんに預け、まとめに入る。

 結論。心音淡雪が日本酒を飲むと、清楚になる。

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