第343話あの心音淡雪が色んなお酒飲んでみた2

「すみませーん!」


 私がそう呼んだのを合図に、待機していたライバーが、その赤髪を靡かせながら登場する。


「お客様、ご注文がお決まりですか?」

「はい。とりあえず生お願いします」

「とりあえずで生……お盛んですね」

「何か勘違いしてません?」

「まさか。ご注文の方、承りました。少々お待ちください」


 怪しい部分がありつつも注文を受けてくれたライバーが、一旦私の席を離れ、画面外へと消えていく。


「オーダー入ります! 生一発!」

「ごめんなさい訂正! 生ビールをください!」

「なんだそっちか」


 この相変わらずの下ネタ具合。もうお分かりの通り最初のゲストは、赤髪のノーサンクスこと二期生の聖様だ。


コメント

:聖様じゃんwww

:訂正しなかったら何が出てきたんだろう……

:少なくとも生ビールで一発とは言わんわな

:何も出てこないんじゃないですかね、生だし

:絶対これがやりたくて聖様ビール役になっただろw

:最初はやっぱりビールだよな!


「お待たせしました。こちら、ご注文の生ビールになります」

「どうも……」


 目の前にある机にビールが入ったジョッキが置かれる。泡とビールの比率まで完璧で、人によっては見るだけで喉が鳴る代物だろう。

 寸劇も程々に、企画の主旨に入る。

 

「見た目はおいしそうに見えるんですけど……匂いで不安になるなぁ……」

「淡雪君はビールも飲んだことないんだよね」

「はい。ブラック企業戦士だった時も、飲まされる時間があるなら働かされるタイプの会社にいたので」

「なるほどねぇ。ビールは慣れれば美味しいんだけど、初めては苦手って思う人が多いのは事実だと思うよ」

「ですよねぇ……なんというか、私の好きな果物系とはかけ離れた匂いがするんですよ……」


コメント

:定番になってるけど、酒の中でも結構癖が強い方だよな

:俺は最初ゲロった

:でも慣れるとうまいというか癖になるんですよこれが


「では……いただきます」


 躊躇していては企画にならない。早速重たいジョッキを口元に運び、まずは一口だけ……。


「ごくっ」


コメント

:飲んだ!? 飲んだぞ!?

:あのシュワちゃんが……遂にストゼロ以外を……

:おお

:見ちゃいけないものを見てる気分

:それはいつもでしょ


「ん!?」

「淡雪君!?」


 だが、ほんの少し口を付けたところで、私はジョッキをバン!と机に戻し、顔を両手で覆ってしまった。


「だ、大丈夫かい!? そんなにまずいなら無理しなくても」

「いえ、違うんです…………あの……あの人の顔が浮かんじゃって……」

「あぁ、浮気シチュに興奮しちゃったんだねこのエロ女が!」

「ボケがツッコミをやるとダメになるいい例」


コメント

:割り切れてないやん笑

:あの人って顔どこなの? 全体? それとも商品名?

:そもそも人じゃない定期

:聖様、ツッコミがなっちゃいないよ……

:VTuberが清楚をやるとダメになるいい例が何を言っているのか


 一瞬動揺してしまったが、真面目なレビューに移る。

 一口だけ飲んでみた段階の感想だけど……はっきり言ってとても美味しいとは思えないものだった。

 味というか、匂いがね……飲んだ後鼻を抜けていく匂いが苦手で、オエってなりそうになってしまうのがきつい。


「これ、本当に慣れればおいしいんですか?」

「楽しむコツがあるんだよ。初心者の間は味と言うより、喉を通る感触を意識するといい」

「ああ、のど越しってやつですよね」

「そうそう。他の炭酸飲料にはない気持ちよさがあるんだよ」

「ほんとかなぁ?」


 言われた通り、今度は一口ではなく少し勢いを付けて口に流し込み、その勢いのまま喉を鳴らす。

 ……お? 


「プハァ!」

「どうだい?」

「まずいけど嫌いではない!」

「精液のレビューか!」

「お前もうツッコミやめた方がいいよ」


 でも確かにこの飲み方なら、まだおいしいとまではいかないけど、普通に飲むことは出来るかも。

 味のレビューだけじゃなく、酔い方も気になるだろうから、各お酒につきそこそこの尺を用意してもらっている。

 飲み方を試行錯誤し、時には飲み会のような雑談も交えながら、ビールを体に馴染ませていく。

 やがて、完全に馴染んだ頃には――私はこうなっていた。


「聖サマ、今日は来てくれてありがとう(^з^)-☆ もし私1人で飲んでたら寂しい企画になっちゃってたと思うナ(^^;; 今日食べ物は用意してないけど、来てくれる女の子達が最高のおつまみだヨ(^_−)−☆ ナンチャッテ!」

「うーん、趣があるねぇ」


コメント

:酔っ払い来たー!!!!

:シュワちゃんじゃねーか!

:いや、シュワちゃんではなくないか?

:なんか急に歳とったな……

:おじさんになっちゃった!

:喋ってるのに構文が見えてくるのやばい


「聖サマは~最近活動の方、順調ですカ? 貴方は繊細なところがありますから、私生活も大切にネ! ちゃんとお日様☀の光を浴びることが重要ですヨ! これからも一緒に頑張りましょうネ(^O^)/」

「おーーそっちもいけるとは……両立している人は初めて見たね」


コメント

:おばさんの方までwww

:絶対おかしいだろ!!

:ここも台本があると言ってくれ

:やっぱビールだと酔い方が少し変わってくるんだな

:両立は呪物過ぎる……


「ほら、淡雪君はそんなキャラじゃなかっただろう? いつもみたいに『シュワちゃんだどー!!』って言ってくれたまえよ」

「シュワちゃんだど~!(^^ゞ 」

「やっぱり違和感あるな……そうだ、『どちゃシコ』は?」

「ど❤ちゃ❤シ❤コ❤」

「ここまでくると犯罪的だね」

「ネェ性サマ、この後予定あるカナ? よかったら私と二次会しませんカ( *´艸`) 企画に来てくれたお礼に奢っちゃうゾ\(^o^)/ カラオケで朝☀ドラの曲とか歌いたいです~❤」

「流石に遠慮しておこうかな」


コメント

:混ぜるな危険

:あの聖様でもお構いなく狙ってるところに中年になっちまったんだな感ある

:おじおば構文はきつ過ぎるって

:付いて行ったらお持ち帰りされて手料理振舞われそう

:草

:ビールを飲んでた世界線のシュワちゃんはこういうキャラになってたんかな

:聖様も性欲萎えてツッコミ出来るようになっちゃったよ

 

 結論。心音淡雪がビールを飲むと、20年後の姿になる。

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