第345話あの心音淡雪が色んなお酒飲んでみた4

「それではお水を失礼……………………あれ? 今になって酔いが来たかも?」


 再び水を飲み次に備えていたのだが、なぜか水を飲んだこのタイミングで、アルコール酔い特有の体の火照りを感じてきた。


コメント

:え笑

:おそくね?

:もうダガーちゃん退場しちゃったよ


 私も困惑続きで、もう何が何だか分からない……日本酒に特別強いのかとも思ったけど、そうでもないのか?

 まぁ大丈夫なレベルの酔いだからいっか。

 次に登場してくれたのは四期生の有素ちゃん。注文の件の後、持ってきてくれたお酒はシャンパンだった。

 しかもそのシャンパンの中でも最高級品! ドンペリの呼び方で有名なあれだ。


「こんな高価なお酒、用意していただいてよかったのでしょうか……」

「何を言いますか! 淡雪殿が摂取するものは常に最高品質であるべきなのであります!」

「私が普段飲んでいるお酒知っていますよね?」

「ネタ界の最高品質なのであります」

「ネタで飲んでるわけじゃないですからね! ちなみにこれ、一本いくらなんですか?」

「3万円くらいだと聞いたのであります」

「185.185185ストゼロ!? 信じられません……」


コメント

:いいなぁ

:会社の金で飲むシャンパン最高やん

:30000÷162の計算速すぎない!?

:ストゼロ算してるじゃん

:端数出るんだったらストゼロで数える意味なくない?

:草

:確かにこれは酔ってるね

:3万でも夜のお店に比べたら格安なんやで


 丁寧な手つきで瓶を開け、グラスに注いでくれる有素ちゃん。


「こんな大事な日に参加させていただき、光栄であります」

「大事な日なんですかねこれ……ただお酒飲んでるだけですが……」

「最初は私も驚きましたが、歩みを止めない淡雪殿の姿勢を尊重するのであります。きっと将来的には歴史の教科書に載る事柄でありますな!」

「VTuberという存在が将来的に載ったとしても、多分私はハブられますよ……黒歴史の教科書になら既に載っている可能性ありますけどね……」


コメント

:その時、歴史が蠢いた

:偉人ではむりでも異人としてならいけんかな

:載ったらめっちゃ顔写真に落書きされてそう

:自虐すんなよ、162円札か220円札が発行されたら多分描かれるのお前だからな

:表があわ裏がシュワなんやろなぁw


「それでは、いただきます――」

「あぁ、淡雪殿の体にストゼロ以外のお酒が……とんでもなく背徳的なのであります……」

「ごくっ」


 謎の興奮をしている有素ちゃんを無視して、シャンパンを口に含む。

 ……なるほど……これは……。 


「高価な味なんだと思います!」

「この世で最も虚無なレビュー。流石ストゼロを愛する淡雪殿であります」

「だって! だってぇ! あまりにも縁が遠すぎる味でおいしいのかまずいのかすらよく分からなかったんですよぉ!!」


コメント

:草

:ストゼロからいきなりドンペリはギャップで味覚も風邪ひくのよ

:慣れないものって何にしろそうなるからな……

:これからはドンペリ飲みまくってドンちゃんになろうぜ

:待てその名前は結構危ない


 住む世界が違う味に戸惑いだらけの一口目だったが、その後何度か飲んでいると私にも段々と良さが分かってきた。

 最初は細やかな炭酸の気持ちよさ、次にフレッシュながらも奥深い果実感ある酸味、最後は飲む者を試すかのような鋭い辛み。飲み進めると共に、段々とその良さに気付いていく。

 あぁ……なんだか私もセレブになったような気分になってきたな……気持ちに余裕や自信が出てきて、体内のセレブが活性化している気がする。


「有素ちゃん、もっと隣おいで。一緒に飲みましょ?」

「あ、淡雪殿? なんだか段々雰囲気が変わって……あっ!」


 給仕する為に立っていた有素ちゃんの手を引き、隣に座らせる。

 そのまま腰に手を回して、お互いの太もも同士がくっつくまで体を寄せる。


「ああああああ淡雪殿!?」

「こら暴れないの」

「ひゃ!?」


 有素ちゃんとくっつけていた右足を上げ、今度は有素ちゃんの左足と組むように跨ぐことで動きを封じる。


「ほら、飲ませてあげる」


 空になっていたグラスに新しくシャンパンを注ぎ、有素ちゃんの口元へと近づける。


「だめ、だめであります淡雪殿ぉ!?」

「何がだめなの? おいしいよ?」

「そうじゃなくて、グラスっ、その向きだと淡雪殿が口を付けた場所が私にも……」

「いや?」

「嫌なわけないのであります! ただ、こんなことが私に許されてはいけないのでありますよぉ!!」

「そぉ? 残念」


 グラスを半回転させて差し出すと、有素ちゃんはホッと息を漏らし、でも少し残念そうな表情をする。かわいい。


「はいどうぞ」

「い、いただくのであります」


 グラスを口元まで運び、優しく傾けてあげる。


「ん……」

「どう? おいしい?」

「き、緊張し過ぎてて味が分からなかったのであります……」

「もう、さっきの私のこと言えないじゃない」

「ごめんなさいであります!」

「いい? 口の中でゆっくりと転がすように味わうの。見てて」


 お手本を見せるように、もう一度グラスを私の口元へ運ぶ。

 お酒の味が僅かでも変わらないよう丁寧に、ゆっくりと、向きすら変えずに――


「ぇ」

「ん……」

「淡雪殿? え? そこ、私が口を付けたところじゃ…………え?」


 聞こえてくる声を無視し、グラスへの口づけとお酒を楽しむ。

 ひとしきり楽しんだ後、瞬きも忘れ、呆然とした顔で私を見つめる有素ちゃんに、私はこう言った。


「この飲み方が一番おいしい」

「――――――――スパチャしないと」


 有素ちゃんは瞬きもしないまましばらく体を硬直させると、ただ一言そう呟いてスタジオから出て行った。


コメント

:えっど

:冗談抜きにセクシーで悔しい

:別人みたいだ……

:峰不〇子?

:セレブっぽい

:有素ちゃんが童貞みたいになってるwww

:ここまで酒の種類で酔い方変わる人いる?

:酔い方が変わったシュワちゃんとかじゃなくてまじでドンちゃんだな

:有素ちゃんどこ行くねーん!

<相馬有素>:¥50000

:ほんとにスパチャしてて草


 結論。心音淡雪がシャンパンを飲むと、セレブになる。




 これにてシャンパンも終わり。再び水で体をリフレッシュする。

 今のところアルコール酔いはまだ大丈夫なレベルだからいいんだけど……なんだかそれとは別で頭の中がふわふわする感覚が出てきたかもしれない。

 結構長丁場になってきたから、疲れが出てきたのかな? 次で最後のお酒だ、あと少し頑張ろう。

 最後のお酒を持ってくる為に登場してくれたのは、同期のましろんだった。


「ねぇあわちゃん」

「ましろん! 今日はわざわざ遠方から来てくださりありがとうございます!」 

「ううん、僕がどうしても参加したかっただけだから気にしないで」


 感謝の言葉と共に頭を下げる。

 ……あれ? 台本ではましろんもお酒を注文する件があったような? 普通に始めちゃったけど大丈夫かな? 台本スルーはましろんにしては珍しい。


「それよりもさ――」

「はい?」


 少し不思議に思いながらも、お礼と共に下げていた頭を上げる。

 すると――


「僕――とんでもないことに気付いてしまったかもしれない――」


 そこには、顔面蒼白状態になったましろんが、私を見つめていた――

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