第336話ワルクラ配信4-5

 私が向かったのは、お祭り会場の中央だった。

 実は事前に、ここでイベントが開かれていることを知らされていた。

 今も誰かいるかなー。


「お! やってますな盆踊り!」


 そう、これがお目当てだ。

 音楽流す中央の櫓を囲むようにして、ライバー達が体を動かしているのが目に入ってくる。


コメント

:おお!

:装飾綺麗!

:風情があってええですな~


「あ、シュワちゃんだ! ねぇねぇ! 一緒に踊ろうよ!」

「やほー光ちゃん!」

 

 私に気付いた光ちゃんが、踊りを中断してこっちにやって来てくれる。

 流石はお祭り娘、今日はそのかわいらしさと元気さが一際輝いて見える。


「どうやって踊るん?」

「こっちの看板に振り付けが書いてあるよ!」


 看板前に案内してくれる。天使。

 ふむふむ……なるほど、ジャンプとかしゃがみとか、このゲームでも出来るアクションを使って踊るわけか。


「分からなかったら他の人の踊りを見ると分かりやすいよ!」

「そうさせてもらおうかな」

 

 既に踊っているライバー達を見学してみる。

 あの目立つ赤髪とそれ以上に目立つ全裸は聖様だな。

 ……………………。


「ねぇ光ちゃん。さっきの看板にあんな艶めかしくお尻振ったり、高速で腰を振る振り付け書いてあったっけ?」

「きっとテンションMAXで普通の振り付けじゃ満足出来なくなったんだよ! とっても情熱的だよね!」

「…………うん、そういうことにしておこうか」


 あながち間違いではないしな、うん。


「BAN踊り! BAN踊り!」

「ごめん、やっぱあいつしばいてくる」


 踊りだけじゃなく声でも害悪を振りまいていたので、一発どついてきたのだった。


コメント

:光ちゃんの視界に入るな!

:これはどつかれていいw

:床オナよりはましだとおっと記憶消したんだった


 さて、他は誰が踊っているかなー。


「あれはダガーちゃんかな?」

「うん! さっき光が振り付け教えたよ!」


 ほぉほぉ。

 ……………………。


「ねぇ光ちゃん。さっきの看板にあんなひたすらぴょんぴょん跳ねたり、急に走り回ったりする振り付けあったっけ?」

「振り付け忘れちゃったのかな……」

「PON踊りじゃねーか」


 この子はこの子で何やってるんだか……。


「あー↑! らんららーらんららー♪ トゥ!(キャッキャキャッキャ)」

「でもシュワちゃん見て! すっごい楽しそうだよ!」

「キャーーーー!! ダガーちゃんこっち向いてーーーー!!」


 こっちに気付いたのかジャンプしながら手を振ってくれるダガーちゃん。かわいい。

 櫓の周囲を楽しそうにはしゃぎまわる。ダガーちゃんはそれだけで天使だった。


コメント

:120点!

:かわいいは無罪

:あぁ^~親心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~


「光ちょっとダガーちゃんに振り付け教えてくるね!」

「あ、はーい」


 櫓を中心にしてくるくると回り、私の前を交互に通り過ぎていく聖様とダガーちゃん&光ちゃんペア。


「BAN踊り! BAN踊り!」

「……………………」

「あー? もう分かんねー!(ピョンピョン)」

「キャーーー!! ファンサしてー!!」

「ちょっと待とうか」


 それを見て楽しんでいると、突然聖様が踊りをやめてこっちに走ってきた。


「なんですか?」

「なんだかね、格差を感じるよ」

「汚物とダイヤが一緒に並ぶことはないんですよ」

「そんな夢のないこと言わないでくれたまえ。聖様も黄色い歓声が欲しいよ」

「はいはい、分かりましたよー」


 仕方ない、先輩を立ててやるとしよう。

 聖様が踊りに戻る。


「あ、こうか! 俺も出来たー! あー↑!(パチパチパチパチ)」

「キャーーーーー!!」

「BAN踊り!」

「ギャーーーーー!!」

「いやおかしいおかしいおかしい」

「文句言うんならまずBAN踊りをやめろよ」


 またもや突っかかってきた聖様。

 そのまましばらく2人でおバカな会話を楽しんでいたのだが、気になったのかダガーちゃんと光ちゃんがこちらにやってきた。

 ま、まずい!


「ど、どうしたのかな2人共?」

「あのね、2人が来ないからどうしたのかなーって思って!」

「師匠と聖様も一緒に踊ろうぜ!」

「う、うん、それじゃあ私も踊ろうかなー……」

「ねぇ淡雪君。どうしてこの2人から聖様を隠す位置取りをしているのかな?」

「だからそんなこと言うんだったら服着ろって!! 全裸の変態をこの天使達に近づけていい訳ないだろ!」


 前に出たがる聖様とせめぎ合いが始まる。

 そんな私達の姿を見て――――まずダガーちゃんが何かを思い付いたようで、いたずらする前の子供のような小さい笑いをこぼした後、こう言った。


「なぁなぁ師匠、聖様。――――SEX!!」


 ――――――――

 脳が思考速度を急速に低下させる。

 そしてじっくりと時間をかけ、何が起こったのか理解した後、今度は脳が暴走を始めた!


「ちょちょえまちょちょちょちょ!? 何言ってるのダガーちゃん!?」


 脳が動いているはずなのに、今度は情報が多すぎて全く考えが纏まらない。

 とりあえずこんなことを聞いた聖様がどんなセクハラを返すか分からない、なんとかダガーちゃんを守らねば、そう思ったのだが――


「だ、ダガー君? そ、そう言ったことはだね、軽率に言うのはあまり良くないというか、いや私が言うのもおかしな話なのだがね、君が言うのは~みたいなね? その、あのだね?」


 せ、聖様が真っ当なことを言っている!? さてはこっちも相当混乱しているな!?


「あー↑!(パチパチパチパチ)」


 そんな私達の姿を見て大喜びのダガーちゃん。全くこの子はこういう所があるんだから……。

 らしくない聖様の姿を見てたらなんだか冷静になってきた……そう思った時だった――


「SEX!!」


 光ちゃんが、ダガーちゃんに便乗して大きな声でそう言った。


「「ダメエエエエエェェェェーーーー!!!!」」


 思わず聖様と一緒に絶叫してしまう。

 それがダガーちゃんと光ちゃんにとっては楽しくてたまらないようで、逆に火を点けてしまったらしく――


「なぁなぁ聖様! その全裸スキン俺にもちょーだい!」

「だ、ダメだ! これは選ばれし変態にしか着ることは許されない服なんだよ! いや服着てないけど!」

「そっかぁ、じゃあ俺がもっと変態になればいいわけだな!」

「ゑ?」

「てなわけで、俺歌います。くるみ☆ぽ〇ちお」

「分かった! 分かったあげるから! でも皆の前で着たらダメだからね! いいね!」


 聖様にはダガーちゃん、私には光ちゃんの魔の手が襲い掛かる。


「ねぇシュワちゃん、SMプレイって興味ある?」

「そんなこと言っちゃいけません!」

「ねぇシュワちゃん。光ね、もう分かっちゃうんだよ?」

「な、何が?」

「エッチはSMプレイだってこと///」

「今度はなんか盛大な勘違いしてない!?」


コメント

:!?!?!?!?!?

:まじでビビった……

:こっちも叫んじゃったよ!

:誰か! ダガーちゃんの声を逆再生しようとしている俺を止めてくれ!

:ダガーちゃんその曲も知ってるのか……

:聖様がこの前歌ってたからじゃね?

:キョドキョド聖様ええやん、もっとやってやれ

:ダガーちゃん、聖様まで浄化してしまった模様

:もうライブオン浄化装置だろこれ

:光ちゃんがすごく色っぽく見えてアカン

:やっぱ分かってないからセーフ

:あぁ^~雄心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~

:皆かわいい ¥500


 こうして目がグルグルになりそうな程戸惑ったりもしたが、その後は皆で振り付けを練習し、真剣にワルクラ版盆踊りを楽しんだ(たまにミスしたのは酔ってるせいであって私までPONなわけではないと信じたい)。

 盆踊り会場を後にする。


「ネコマ先輩。宮内はな、こんな感動的な経緯でライブオン五期生となったのである」

「原型なくなるほど誇張と美化されてなかったか? とても自分が所属しているライブオンの話とは思えなかったんだが……神話みたいになってて聞くだけで頭が疲れたんたぞ……」

「ノンフィクションである! 本当にライブオンは素晴らしい……そうだ、ネコマ先輩が入った経緯も聞きたいのである!」

「やべぇ、似た名前のクソゲーがあるからノリで応募したなんて言えないぞ(小声)」


 次はどこに行こうかなー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る