第337話ワルクラ配信4-6
「ヘイシュワッチ! ラッシャーセーラッシャーセー!」
「あれ? 晴先輩?」
聞き覚えのある声に呼ばれた気がしたので、その方向に向かってみる。
「やっぱり晴先輩だ」
「ラッシャーセー!」
威勢のいい声を屋台の中から大きな声で届けてくれる。晴先輩は屋台組なんだな。
でもここはさっきやった射的みたいにゲームっぽくはない。
「なんの屋台をやってるんです?」
「食べ物とドリンクだよー! お腹が減ったらここが一番!」
「ほー? なんかちょっと意外かも?」
晴先輩のことだから、もっと意味不明な屋台とかやるかと思ってたが、今のところ普通だ。
「シュワッチ、腹が減っては戦はできぬ。飯の重要性をなめたらいけないよ。私はここでライブオンの腹を支えるのだ!」
「おお! そう聞くと、ちゃんと晴先輩らしい立派な志ですな! でも、たまには屋台から離れて祭りを楽しまないとだどー」
「あっちの方向にあまりに大当たりが出ないって評判のくじ屋があってさ、さっき不正を証明してやろうと有り金はたいて残り全部引いてやったら、ラストにちゃんと大当たりがあってね。恥ずかし過ぎて今引きこもってるんだよね」
「草、次のライブの自分語りはそれにしましょ」
「だからアレは掘り返すなって言ってるでしょーがー!」
「はいはいすいませんでしたー」
コメント
:ハレルンだー
:セルフワカラセしてるやん
:だっさ
:髪の毛半分だけ坊主にする謝罪動画作れ
:また擦ってるwww
「申し訳ないと思っているなら何か買ってくれ! じゃないと金がない!」
「へいへい、何があるんです?」
「ほら、シュワッチにはこの透明化のポーションとかおすすめですぜ!」
「すごそうだけど、なんでおすすめなんすか?」
「これを飲めばあら不思議! 透明だから女湯に入ってもバレない!」
「晴先輩」
「どう!? ほしいでしょ!?」
「私普通に女湯入れるど」
「…………ぁ」
コメント
:またやっちまったなハレルン
:間が完全にガチで忘れてたやつなんよ
:自分語りまた増えたな
:自分語りがライブ恒例の爆笑イベントになってしまうw
:でも正直確かにとは思っちゃったよ
しばらくの間空気が死んでしまったが、丁度いいタイミングで私の他にもう1人この屋台に近づいてくる人影があることに気付いた。
「お、あれ先生じゃね?」
「あ、ほんとだチュリ先じゃん!」
「うぇ……」
私達がその人影が誰かに気付き声をかけると、なぜかピタリと足が止まり、その後じりじりと後退を始めたチュリリ先生。
慌てて追いかけ引き留める。
「おい待て、なぜ逃げる?」
「いや、淡雪さんと晴さんが揃っていたので……」
「え、私と晴先輩って揃ったらダメなの? もしかして不仲説とか立ってる?」
「ごめんそれ多分さっきの私のノンデリ発言のせいだわ」
コメント
:信憑性出ちゃったね
:無言で気まずそうにしてたらそうもなるわ
:スタッフ間でスケジュールが合わないようにズラすことを晴れのち雪とか言われてそう
「不仲説は聞いたことないけど……貴方達ってほら、オーラがあるじゃない? 片方ならまだしも、揃うと先生でも若干緊張するのよ」
「オーラ? そんなもの私達にあるわけないど?」
「ナチュラルに私も巻き込んでんなーシュワッチ?」
「無自覚なのが尚更というかなんというか……まぁいいわ、ここは何をやっているの?」
晴先輩は、先生にも屋台の説明をした。
「へぇ、いいわね! どんなメニューがあるの?」
「焼きそばとかどうだい!」
「焼きそばいいわね!」
ほぉ? 祭りっぽくていいなぁって私も思ったけど、このゲームにそんなレシピあったっけな?
「そう! 熱々の鉄板の上に、まずは豚肉を投下!」
「あまりに強い刺激を強制的に与えられた豚肉は、極度の興奮状態に陥ってしまう」
ん?
「程よく焼き目が付いたところで、新鮮な野菜達の登場だ!」
「そこに何も知らずに連れられてきたみずみずしい野菜達は、肉汁垂らす豚肉の獲物にならないわけがなかった」
あ、これ始まってんな。
「最初は恐怖しつつも、徐々に豚肉と同じく鉄板の熱に浮かされていく野菜達」
「体から滴る水分に戸惑いを覚えながらも、その体は豚肉と交わりやすいよう力を抜いていく」
あ、あれ? 晴先輩?
「あと僅かで鉄板の上は欲望の坩堝となり、狂乱の宴の如き肉野菜炒めが出来上がるだろう」
「硬くなった豚肉、柔らかくなった野菜――一つになるべきだと本能が告げる。それは間違いなく――うまい」
晴先輩――まさか――付いて行こうというのか!?
「しかしここでまさか刺客! 全てを覆いつくすおびただしい量の麺が投下される!」
「焦らしに焦らされて放出された豚肉と野菜達の欲望を、これでもかと吸い込みながら蹂躙していく麺! 全てはこの為の前座に過ぎなかったのよ!」
先生の狂気を前にして逃げないなんて――やはり貴方はいつだってチャレンジャーだ!
「やがて麺がほぐれ始めた時、いよいよトドメのソースが」
「ここでこの私! チュリリを鉄板に投入!!」
「「!?!?」」
え!? 今なんつった!?
「あっつ!! あっつ!! あっつ!! あっつ!!」
「「……………………」」
「混ぜろおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」
「「……………………」」
「あっちゅ!! あっちゅ!! あっちゅ!! あっちゅ!!」
「「……………………」」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
「シュワッチ」
「はい」
「怖い」
「危ない人に付いていくからですよ」
人生時には逃げも大事だから、うん。
チュリリ先生が先輩の私達に緊張するのなら、私達は後輩の先生に恐怖するのだった。
「ふぅ、気持ちよかったわ」
「あ、チュリ先大丈夫?」
「ええ、ごめんなさい。少し妄想が盛り上がってしまったわ」
「焼きそば作りが盛り上がり過ぎて自分まで鉄板に投下しちゃったんだ」
「そうね」
「ねぇチュリ先。ほら、このポーションとか飲むと落ち着くかもよ? 飲んでみない?」
「あら、そんなものもあるのね。いいの?」
「勿論! はいどうぞ! 私も同じの飲んじゃおっかなー」
「ありがとう。いただきます」
「うん! ねぇチュリ先、いい機会だしさ、悩みとかあったらなんでも言ってね! たまには一期生として頼ってもらえるのも私嬉しいな!」
「え? 突然どうしたの?」
「晴先輩、カウンセリングの必要はないですよ。むしろ先生は悩みが消えてこうなりましたから」
「ああそっか! シュワッチのせいだったね!」
「それは違います」
「淡雪さん、貴方のせいで私は……私は普通だったのに……貴方のせいで今大変なんだから」
「先生!?」
「ふふっ、冗談よ」
コメント
:頭大丈夫?
:入り方にガチのカウンセリング感あるの草
:そりゃ心配にもなるわ……
:元気有り余ってるだけなんだよなぁ
:健康が一番に牙を剥いた女
:お願いだから現実でやるのはやめてね!
:元から先生は普通じゃなかったやろがい!
:先生は冗談でも本気で思ってるライバー結構いそう
:なんとかしてやれよ淡雪
全く、とんでもない人になったもんだ……。
その後、気になったので晴先輩に屋台のことを詳しく聞いてみると、焼きそば……は流石に無かったが、どうやらゲーム内で用意できる食べ物や飲み物を概ね揃えてあるようだった。
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