第37話ライブスタート1

♪――――♪(スマホの着信音)


「はいもしもし!」

「あ、こんにちは雪さん。鈴木ですけど今時間大丈夫です?」

「こんにちは、全然大丈夫ですよ」

「企画についての話になるんですけど」

「あ、もしかして例の歌コラボですか?」

「あ、そうですそうです。知ってたんですか?」

「ましろんから企画が動きだしそうとだけ……もしかして聞いたらまずかったですか?」

「いえいえ! ライバー間でしたら問題ありませんよ! 多分ましろさんの方が収録が少しだけ早いので企画説明の連絡も早かったんだと思います」

「え、収録って別々なんですか?」

「はい。スタジオで収録するので流石に一度に全員はむりでした。少数に分けて収録ですね」

「なるほど、了解です」


ましろんとのコラボ配信の翌日、話の通り午後に鈴木さんから企画説明の電話が来た。

実は最初に企画を聞いた時からまだかまだかとうずうずしていたので、とうとうこの時が来たかといった心持ちだ。

ライブオンのライバー全員が集まる大規模コラボはこれが初めてだ、楽しみなのは勿論だがなにかへましないように気を引き締めないと。


「収録日程なんですけど、今週の金曜日午後3時からでどうでしょう?」

「全然大丈夫ですよ!」


うっかり今は収入があるのに「NEETなんで時間の融通だけは完璧です」とか言ってしまいそうになったのは内緒。

自分で言うのもなんだが成長したなぁ……。足掻き苦しんでいたあの頃も今では良い思い出になったなと言える。

うん、私には辛い過去を乗り越えた自信が確かに存在している、だから今回のコラボもこの自信を忘れずに挑もう!


「それではその日時に事務所の方に向かってください、そこから車でスタジオまで送ります。私スタジオの方で仕事があるのでちょっと運転手は誰になるか現状分からないですけど、社員のだれかが対応してくれるはずなので」

「はーい」

「あ、曲のデモ音源も送っておくので聞いてみてください」

「一日中リピートします!」

「ははっ、それでは当日はよろしくお願いしますね」


連絡事項も終わったのでこれにて電話は終了となった。

うん、二日酔いして歌えなかったりしたら最悪だから今日はお酒飲まないでおこう!



◇金曜日◇


「あ、田中さんですね! すぐに担当の者を呼びますので少々お待ちください」


外で昼食を食べた後、約束通り事務所に到着した。しっかり予定の時間十分前だ。

今は受付のお姉さんに言われた通りちょっと緊張しながら運転手さんを待っていたのだが……


「お待たせ、こんにちは淡雪ちゃん!」

「え?」


受付のお姉さんが連れてきたのはきたのは小さな女の子だった。


「え、あの……」

「運転を担当する『最上もがみ日向ひなた』だよ、よろしくぅ!』

「えええ!?」


運転って、この子が!?

目の前の彼女の外見は身長も多分145cmくらいだし、なにより顔だちが幼い。シオン先輩もかなり幼く感じたがその比にならないくらい童顔だ。

どう見ても中学生くらいにしか見えないのだが……

戸惑いやら驚きやら色々な感情に襲われ、助けを求めて受付のお姉さんに視線を向けたのだが……


「あはは、心配しなくても最上さんはちゃんと弊社の社員ですよ」

「ま、まじですか?」

「ちなみに雪さんよりも年上です」

「ええ!?」

「えっへん!」


胸を張っているつもりなのだろうが、あまりにも平らな胸のせいで未だに本当のことか信じられない……

だが社員さんが言うのなら間違いないはずなので、とりあえず車へ案内すべく先を歩く最上さんについていった。


「普通の軽の車でごめんね、もっとかっちょいいの用意できたなら良かったんだけど」

「い、いえいえ」

「タンクローリーとかね」

「私の思ってたかっちょいいと方向性が違う!?」


さっきから翻弄されっぱなしの私とは正反対に、最上さんは楽しそうにしながらも手際よく出発の準備を始める。

私も助手席に座りいざ出発したのだが、本当にこの人が運転しているという事実に頭の理解が未だ及ばず、じっと運転姿を凝視してしまう。


「私ね、こんななりだからたまにおまわりさんに本当に免許持ってるのか疑われて車止められることがあるの」

「は、はぁ」

「だからもういっそのこと私の免許証をバカでかくプリントして車全体に貼り付けてやろうって思ったことあったんだけど流石にやめたよね」

「免許証の痛車!? 個人情報駄々洩れじゃないですか!!」

「あとねー、もう免許取ってから結構経つから初心者マークいらないんだけど、まぁ同じ理由で疑われるのね」

「あぁー、ありそうですね」

「だから一面に初心者マーク頑丈に貼り付けた痛車作っちゃったよ!」

「本当に作ったんですか!? そんな狂気じみたものを!?」

「意外とかっちょよくて気に入ってたんだけど、これも乗った時あまりにも注目集めるし、そもそも私初心者じゃないのになんで全力で初心者アピールしてるんだろ? ってなったから自重してやめちゃった」

「しかも気に入ってる上に実際に運転してる!?!?」


な、なんなんだこの人!? ライブオンのライバーの中にもここまで思考がぶっ飛んでる人はいるかわからないぞ!

その後もたまに出てくる奇人エピソードに困惑させられながらも、運転自体は安全運転なうえに慣れている様子であっという間に目的地のスタジオまでたどり着いた。

助手席に座ってただけのはずなんだけど、なんかすごく疲れたな……

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