第38話ライブスタート2

「お、やほやほー!」

「ん?」


いざスタジオに着き車から降りた私たちを、一人の女性が出迎えてくれた。

青色に髪を染めて、私もそこまで詳しくはないが所謂原宿系と思わしきファッションに身を包んでいる。

だれだろう? ここまで特徴的な人は一度会ったら簡単には忘れられないだろうから私とは初対面だと思うけど。

首を傾げる私とは対照的に、隣に居た最上さんは嬉しそうな様子で女性に駆け寄っていった。


「リンリン! まだ残ってたの?」

「うん、せっかくだから他の人の収録も傍から聞かせて貰おうと思ってね。だけど予定があるから残念だけどもう帰るよ」

「そかそか」

「ねえもがもが、そっちの女の子が例の?」

「そう! ライブオンのデ〇オ・ブランドーこと淡雪ちゃんだよ!」

「酒! 飲まずにはいられないッ!」

「誰がデ〇オですか!」


なんか清楚モードだといじられキャラが定着してきたなーとか思いながらも、なんとなく今の二人の会話からこの女性の正体に察しがついた。

おそらくこの方もライブオンのライバーであり、もう収録が終わったので帰るところなのだろう。

そしてライバー名は――


「ほらリンリン、まずは自己紹介しないと」

「おっと失礼! にゃにゃーん! 昼寝ネコマこと『鈴鳴すずなりりん』でーす!」

「初めまして、心音淡雪こと田中雪です。やっぱりネコマ先輩でしたか。あ、スタジオでライバー名出すとまずいですか?」

「ううん、スタジオ周辺はライブオン関係者だけで厳重に固めてるから大丈夫だよ! でも一応お外では小さめの声でね」

「了解です」


うん、この跳ねるような独特のイントネーションの喋り方、まごうことなきネコマ先輩だ。

なんというか、聖様やシオン先輩の時も思ったけど、今までも雲の上の存在だった人が目の前にいるのって現実味がなくてすごく不思議な気分だ。

いずれは私も先輩側になる時が来たりするんだろうなぁ……


「今ましろちゃんと光ちゃんの収録が丁度終わったところだよ」

「あ、そうなんですね」

「んじゃねー」


つまりこの後同期二人にも実際に会うことになるのか。

二人とも結構な回数コラボしてるけどオフで会うのは初めてだからたじたじになっちゃわないか心配だな……

ネコマ先輩は結構急いでる様子だったので、ここでお別れとなった。


「よし、じゃあ淡雪ちゃん行くよ」

「はい!」


さて、とうとう最上さんの後ろにつき、スタジオの中に入る。

中では慌ただしく様々な人たちが機材や書類と向き合っていた。

ちゃんと鈴木さんの姿もあり、忙しそうにしながらも入ってきた私達に気づいて会釈してくれた。

その中でも私の注意を最も惹いたのは、周囲と違い一仕事終えたリラックスモードで帰宅の準備をしながら談笑している二人だ。


「おつかれ~! 緊張したね!」

「おつかれ様。堂々と歌ってたように見えたけど本当に緊張してたの?」

「本当だよ! ましろちゃんはそつなくこなしてたねぇ」

「そう? よかった、そう見えたなら安心したよ」


うん、あの二人がましろんと光ちゃんで間違いないようだ。おそらく私の前の収録がこの二人だったのだろう。


「ほら、行ってきなよ!」

「うわっ!?」


どうしようか少し迷っていたところを最上さんに背中を強く押され、強制的に二人の前に立たされた。


「お? どなた?」

「……もしかしてあわちゃん?」

「うん、初めまして……」

「おお! リアル淡雪ちゃんだ!」


うおおおぉぉなんだかむず痒い! 

実際に会ったましろんは身長はアバター通り低いけどスレンダーなどこか儚げな女性といった感じだった。

対して光ちゃんはもう一言でいえば『陽キャ』これしかでてこない。醸し出すオーラからしてすごくキラキラしている。


「ふっ、どうしたのあわちゃん? そんな縮こまって?」

「いやぁ、二度目の初めましてって感じだからどんなテンションで話したらいいかわからなくて」

「ああ、確かにね。せっかくこうして実際に会ったんだから自己紹介でもしようか。ましろんこと『桜火さくらびはく』だよ」

「祭屋光こと『佐々木ささき夏海なつみ』です!」

「心音淡雪こと田中雪です」


…………


「「「ぷっ、あはははははっ!!」」」


自己紹介の後、お互いをよく知ってる仲で自己紹介するというなんとも変な状況に三人揃って吹き出してしまった。

うん、実際に声を聴いたらだいぶ違和感もなくなってきた気がする。もう大丈夫だ。


「せっかくだし話し合いたいけど、スタッフさんを待たせたらダメだからあわちゃん行っておいで」

「うん、そうだね」

「今度三人で話そうねー!」


二人とはそこで別れ、いよいよ私のパートの収録となる。

最初は鈴木さんと作曲家の人との三人で歌う箇所や歌い方などの指導から入った。

今回曲を作ってくれたのはアニソン界の超大御所の作曲家さんだ、ライブオン力入りすぎだろ……

どうやら私が歌うのは1番のサビ前のようだ。

曲は何度も聞いてるからもう完全に頭に入っている、いざゆくぞ!



―――――――――



「ふぅ」


最初は緊張から声が震えてしまったが、なんとか収録を終えることができた。

『淡雪さんは』清楚な感じで歌ってねと指導の時に言われていたので、パワフルさは抑えて雰囲気重視の歌い方だったから新鮮だったな。

あ~、無事に終えた安心から体の力が抜ける抜ける、今の私はまるで軟体生物のように椅子にもたれかかっていた。

さて、そろそろ帰る準備するかな。

そういえば私の番は収録ソロだったな、なんでだろ?


「よし! 淡雪ちゃんの収録は終わったから次は私と一緒にシュワッチの収録いくよ!」

「は?」


耳を疑うような言葉が聞こえ、思わず猛スピードで声の方向に顔を向ける。

そこにはなぜか運転手のはずの最上さんが2つならべられた収録用マイクの片方の前に立ち、私を呼ぶ姿があった――

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