第24話 君の名前を

二十四君の名前を



見つめ合う俺達は、涙を流していた。


その少女に触れたい、一緒に喋りたい。そう思ってしまう俺がいた。初対面なのにな。


その少女は、ハッとして涙を拭い、俺に向かってお辞儀する。

それにつられて、俺も慌ててお辞儀を返した。


少女は、周りをキョロキョロと見回した。

そして、その瞳は俺のいる橋の上へと続く階段を捉えた。


きっとその少女は俺のところへ来ようとしている。


少女は、階段へ向かおうとするが、人混みが行く手を阻む。


俺は、少女に会うために最短ルートを探す。


ダメだ。どの道も混んでる。いや待てよ、俺が橋の上からジャンプすればいいじゃないか。


そう思って橋を飛び降りようとした時、


ドッカーン!!!


俺の右側にある建物三棟が吹き飛ばされた。

衝撃波があらゆるものを壊し、轟音が鼓膜を襲う。


一体何が起きた!?


瓦礫に紛れて人も飛んでくる。


俺は、近くにいる人よりも、さっきの少女の心配を優先していた。


「おい! まだ近くにいるはずだ。さっさと探せ!」


黒装束の大男が三人、橋の下にいた。


誰だあいつら? いかにも悪役っぽいけど、誰を探してるんだ?


俺は目を凝らして少女を探すが、何処にもいない。

爆発によってうまれた炎は、俺のすぐ側まで迫っていた。


ここは危ない。さっきの少女を探しながら避難しよう。


海が近いこともあって、火はすぐに鎮火されたようだ。

爆発の原因は正直どうでもいいので、俺はずっと少女を探して走り続けていた。


「はぁ、はぁ、何処消えたんだよ。マジで」


疲れてしまったので、俺は道脇で足を止めた。

やっべ。元の世界ではずっと引きこもってたから日光に弱いんだったぜ。

そんな事を考えていると、


「やっと見つけたぜ。個人的な恨みはねぇけど死んでくれや」


裏路地の方から、男の低い声が聞こえてきた。

こっそりと声の持ち主のいる所に近ずいて行く。近くにあった木箱に身を隠す。誰がいるのか覗いてみて驚く。

そこには、先程の大男達と、俺の探している少女がいた。大男達は少女を囲むようにして、ゆっくりと距離を詰めている。

少女は落ち着いていた。大男相手に少しも怖がる様子が感じられない。


少女が負ける気はしないが、俺の体は動きだしてしまった。


ええい。こうなったらかっこよく登場してやるぜ!


「そこまでだ! 俺が来たからにはこれ以上の悪事は許さない!」


決まったぁぁぁ!! かっこいいはずだ。


俺が一人で喜んでんでいると、


「隊長、俺がこの変な奴片付けます」


ムッキムキゴリラ君が、俺に剣を向けて近ずいてくる。

正直、勝てる気がしない。


ムッキムキゴリラ君が剣を振り上げた瞬間、視界が真っ白になった。俺は驚いて尻もちをついていた。

なんだ? 何が起きたんだ?

混乱している俺を、優しい声が包み込む。


「大丈夫ですか? お怪我はございませんか?」


天使のような声にドキッとしてしまう。

声の持ち主は、さっきまでゴリラ君の仲間達に囲まれていたはずの少女だった。


「あっ、大丈夫だけど・・・・・・へ?」


俺の方へ近ずいてくる少女の足元には、ゴリラ君達が倒れていた。


一瞬のうちに何が起きた? 誰が奴らを倒した? この美少女が・・・・・・まさかな。


「あの〜、聞こえてますか? 耳が聞こえないのですか!? え〜と、どう伝えましょう」


慌ててる少女は、線が細く、胸は控えめで、とても可愛らしい。


おっと、このまま見とれてる場合ではない!


「俺は大丈夫だけど、怪我とかしてない?」


俺は、立ち上がりながらそう言った。


「怪我するような事してないですけど・・・・・・」


首を傾げる少女に、


「いやいやいや。さっき男達に囲まれてたよね? 」


「・・・・・・・・・倒しちゃいました」


少女は俯いてそう言った。


「ほへぇ!? まじか・・・・・・ってか、それよりも」


俺は、俯いている少女の顔を見るためしゃがみ込んだ。

俺より一回り小さな体は、少しだけ肩を震わせている。


なんで少女は震えているのか、俺には分からないが、優しい笑顔をつくり、ずっと気になってた事を尋ねた。



「君の名前を教えてくれないかな?」



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