第14話 聖剣会?
今日の俺は、買い物を純粋に楽しめなかった。ヒナが、ゼクサスと二人きりで今も一緒に過ごしていると考えると、変な気持ちになる。
少し暗くなってきたので、俺達は砂漠の月に戻ることにした。
ローズは別室なので宿の廊下で別れを告げる。
「ふぅ〜。色々買っちゃったね〜」
ハーツはそう言うとベットにダイブする。
「そんなにヒナが気になるの〜」
おちょくった口調で尋ねるハーツ。
「そんなに気になる訳じゃないけど、二人きりで何をして、何を見て笑いあっているのかなって思うんだ」
「まぁ、オイラもすっごく気になるんだけどね」
地上からもれてくる光はオレンジ色から、夜空の色に変わっていく。まだ二人は帰ってこない。
「あっ! そういえばゼクサスの野郎、俺の剣探しに行くって言ったよな! な〜にヒナとデートしてやがるぅぅぅぅ!」
諸君は覚えているかな? ゼクサスは昨日の夜、明日俺の剣を探してくれる的なことを言ったのを。
俺が暴れていると、
「いえーい! ただいま! 今日はなんて良い日だろうか! 」
ゼクサスがキラキラした目で帰ってきた。
「ゼクサス。さぞかし楽しかったんだねぇ〜」
ハーツは手に剣を握る。
「幸せそうな顔じゃねぇか。なぁ、ゼクサス」
俺は手に分厚い本を持つ。
「二人とも待ってくれ! なんで殺気立ってんだよ!」
「三分間だけ待ってやる」
俺は人生に一度は言いたかった言葉を一つ使う。
「ヒナと二人きりでいた事が羨ましいのか?」
ゼクサスは言ってはいけないことを言ってしまった。この一言で俺とハーツは攻撃態勢にはいる。
さらば友よ。と心の中でゼクサスに別れを告げる。
「ご飯食べよ」
俺がゼクサスを本で殴ろうとした瞬間、部屋の扉からヒナの声が聞こえた。
「命拾いしたね〜。ゼクサス」
俺とハーツは、ゼクサスに対する嫉妬を隠す気は無い。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺達は一階のレストランでディナータイムにはいった。店員さんが運んできたのはハンバーグと何の野菜か分からないサラダ。なんて美味しそうなんだろうか。
「いっただきまーす! 」
最初は腹が減っていたので、目の前の料理にガッツいていた。ふと視線を上げると、
「ふふっ」
ヒナが可愛らしく微笑んでいる。
ヒナの視線の先にはゼクサスがいる。
「二人きりで何してたんだ? 」
俺はそう言いながらハンバーグを口に頬張る。
普通のトーンで喋っているが、本当はもっと詳しく聞きたい。だがしかし、俺はヲタクであり、陰キャという事実を忘れてはならない。
諸君もこんなことがあるのではないか、コミケとかアニメのストアなどに行ったときに、同じ小説、同じアニメのファンを見つけたとき、声をかけたいけどかけられない。そういったことが!
「剣聖会の会場とかの見学だよ」
ヒナがコロッと答える。
「何それ? 剣聖会って何かの集まりか?」
俺がヒナにそう尋ねると、
「剣の腕を競う大会が各地であってな、それを見ていた人達が剣聖会って名ずけたんだ。別に意味は無い!」
お呼びでもないのに、ゼクサスが答えた。
「優勝したら何が貰えるんだ?」
「王国の騎士団に入れるんだ。騎士団に入るには試験を受けなきゃいけないんだがな、その試験は年に一回しかない。それに比べ、剣聖会は年に四回もある。それに、自分の剣の腕を証明することが出来る!」
ゼクサスはハイテンションボーイになっている。つまり、興奮状態である。
「ところでゼクサス。なんで皆んな騎士団に入りたがるんだ?」
「そりゃ、給料高いし、そして何より!」
ゼクサスが腕を突き上げ、言葉を続けようとするが、
「かっこいいの!」
ヒナの大きな声にさえぎられてしまった。
俺はヒナの声に驚いて、食べていたサラダが気管に入ってむせた。
「騎士団ってね、強いし、経済力もあってかっこいいの! 結婚するなら騎士団の人が良いよねぇ」
「なるほど。かっこいい・・・か・・・・・・」
ヒナがこれほどまでに目を輝かせているのだ。もし、俺が剣聖会で優勝したら・・・・・・。
「やめて。変な妄想しないで、シュウの変態!」
結婚した後の事まで想像したのがバレたか! 厄介なスキルだ。
「このチートスキルが! 俺だって年頃の男の子だ! 妄想ぐらいしたって良いじゃないか!」
俺が己の無実を証明していると、
「ところでさぁ〜、剣聖会って明後日じゃない? 出場する人いるならさっさと練習した方がいいんじゃないかな〜」
ハーツはハンバーグを頬張りながらそう言う。
「よし! 俺は出場するぜ!」
ゼクサスは当たり前のようにそう言った。
「何を言ってるだゼクサス君! 優勝するのはこの私なのだよ! お前にだけかっこいいところをとらせる訳にはいかないからね」
そんな事で俺とゼクサスは剣聖会に出場する事にした。ちなみにハーツはボコボコされるのが嫌だということで出場しない。
「うおりゃぁぁぁ!」
「あまい!」
俺が全力で振り下ろした木刀をゼクサスは受け流し、俺が体勢を崩した瞬間、ゼクサスを体勢を低くして、俺の腹めがけて木刀を振るう。
「ぐはっ」
剣聖会で優勝するためにゼクサスと剣術の練習をしていた。
最初は木刀だからさほど痛くないと思っていたが、実際はめちゃくちゃ痛い。腹は青くなってしまう。
「大丈夫か? 休憩しようぜ」
「おう。そうさせてもらうよ」
倒れた俺に差し出されたゼクサスの手を握る。
「なぁ、剣聖会は木刀で戦うのか? 」
「そうだ。でも魔剣、聖剣の所持は許可されている」
「ふざけんなよ! 剣の腕を披露すんのになんで魔剣と聖剣ありなんだよ! 」
「魔剣、聖剣の特性は剣技の一部だからだ」
「納得いかねぇけど理解はした」
「今のシュウは魔剣も聖剣も無い。でも心に宿した剣がある。だから大丈夫だ! 」
「いや、心に剣宿してねぇよ。とりま、練習再開しよーぜ」
俺達はぶっ倒れるまで練習をし続けた。
練習に夢中で気づけば夜だった。買い物に行っていたハーツ、ローズ、ヒナが帰ってきたのでディナータイムにはいる。
「「飯じゃあぁぁぁ! 」」
俺とゼクサスは目の前に運ばれてきたステーキ、サラダ、スープにがっつく。
「大変だったんだねぇ〜」
「バカよね♪ 」
俺とゼクサスの耳にはハーツとローズの声は届かない。昼飯を食べずに練習していたのだ。
飯を食べ終わると、明日に備えて早めに寝ることにした。
「ねぇ、入っても良い? 」
ヒナが男子部屋の扉をノックする。
「どうしたんだ? 」
「ゼクサスもシュウも明日頑張ってね。私は二人とも応援するからね」
そう言い残すと、ささくさと部屋を出ていった。
部屋の明かりに照らされたヒナの顔はとても綺麗だった。
「よし! 明日お互い頑張ろうな! おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
このときの俺はまだ知らなかった。
魔聖おばばにより大きく運命が傾いたことを。そして、二人の神を滅ぼした少年と少女が引き付けあっていることを。
その二人の運命を祝福しない神々がいることを。
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