第10話 砂漠の街 オアシンバ
目の前には大きな街が広がっていた。
よく思い出してほしい、ここは穴の中、つまり地下だ。
粘土作りの建物がたくさん並んでいる。とにかく人が多い。冒険者や旅行者がよく来るのか、道が商店街みたいになっている。
「なぁ皆んな、せっかく砂漠の街 オアシンバに来たんだぜ! 何日か観光していこーぜ! 」
ゼクサスは皆んなにそう提案する。
「オイラ、ゼクサスに賛成〜」
「私も〜」
「嬉しい! ヒナ、じゃなくて私も〜」
「大賛成! 」
案の定、皆んな大賛成だ。
ゼクサスが皆んなの意見をまとめ、四日間だけ観光していくことになった。
「ヒナ〜、私達は別で服でも見に行かない? 」
「ローズさんは服選び上手ですもんね! 」
ローズとヒナは別行動をとる。
うっわァぁぁぁ! せっかくの観光なのに男だけかよ!
「俺らは武器と宿探しだな! 」
ゼクサスは親指を立てて、ニコッとする。
人混みはあまり好きじゃないが、色んな種族がいるのでこの街の人混みは案外悪くないものだ。
色んな種族と言ったが、獣人、人の割合多め、獣の割合多め。ドワーフ、筋肉質な小さい種族。そしてここにはいないがエルフもいるらしい。あと悪魔も。
「へぇー。色んな形や色の剣があるんだな」
刃まで赤い剣など、ザ・異世界みたいな剣が沢山並べられている。
「おっちゃんこれおいくらだい? 」
「銅貨五百八十だよ」
「よし買った! ハーツの剣ボロボロだからな! 」
銅貨一枚で百円相当だ。銀貨一枚は銅貨千枚、金貨は銀貨千枚。そういう感じの金額設定の世界だ。
俺はラッキーだと思う。何故なら、この世界と元の世界の言葉が同じこと、食べ物が似ていること、文字が多少似ていること。運が良いのかな? そんなことを考えているとゼクサスが急に話を振ってきた。
「シュウは剣に興味無いって言ってたよな? 」
「そんな事はない。エクスカリバーとか伝説の剣なら興味あるぜ! 」
かっこつけて決め顔をして親指を立てる。
「ね〜、ゼクサス。シュウはなんで剣への興味うすいのかな? 」
「ん〜・・・。そうだ! 魔剣と聖剣のこと教えたっけ? 」
何だそれ。魔剣と聖剣って異世界かっこいい武器あるあるじゃん。興味津々!
「教えてくれてねぇーよ!」
ゼクサスが急に周りに視線を向ける。そして、
「その話は後だ。先に宿を探そう!」
何だ? 周りに刺客でもいるのだろうと察し、俺たち男チームは宿を探し始めた。
「ここもダメだ。空いてる部屋がねぇ。よし! 次だ!」
もうあれこれ八件の宿をまわっている。全部満室だった。ハーツと俺はやる気無し。
九件目に砂漠の月という宿屋に入った。
「すみません。部屋空いてますか?」
「二部屋なら空いてますよ。一泊のみですか?」
「三泊です!」
「かしこまりました。それでは案内します」
この宿屋は一階がレストランになっており、上の階は全て宿になっている。外見は少しボロかったが建物の中は綺麗だし、しっかり整備されていた。
「ふい〜。やっと休憩出来るよ〜」
ハーツは部屋に入ると真っ先にベッドにダイブする。俺たちは荷物を片付けた後、剣の話の続きをした。
「ゼクサス。さっきの魔剣と聖剣の話だけどさ、途中でやめたろ? 刺客でも来ているのか?」
「お前何言ってんだ? 話をやめたのは剣に詳しくない奴をパーティーに入れてるとか悪い噂がつかねぇためだ。誰もお前が異世界から来たなんて信じねぇからな。」
「かえって恥ずかしいだろバカ! 変な勘違いしたじゃねぇか!」
俺は頭の中で切腹した。恥ずかしかったから。
「まぁ落ち着けや。今から剣の説明するからちゃんと聞けよ!」
ヲタクはそういう話ならしっかり覚えられるんだぜ。
「まず、聖剣は持ち主の持てる力を最大限に引き出すことが出来る。その聖剣が選んだ人しか持つことさえできない。そして持ち主の身体能力と精神力を少しづつ底上げする。次は魔剣だ。魔剣は持ち主を飲み込み、絶大な力を与える。魔剣の力に呑み込まれる奴は精神が狂う。だが、魔剣の力を自らの力として持てるものはより強くなっていく。だいたい分かったか? 」
「なるほど、魔剣も聖剣も半端な奴じゃ使えねぇってことか」
「その通りだ! どうだ? 興味湧いてきたか?」
「当たり前じゃないか!」
「よし! 明日魔剣と聖剣見に行こーぜ!」
「えっ。魔剣とかってその辺で売ってんの?」
落ち着け、まさか魔剣や聖剣がその辺の店に売っているわけがねぇ。だって伝説の武器だろ?
「売ってるよ〜ん」
急にハーツが会話に入ってきた。
寝てんじゃねぇのかよ!
「えーと、伝説の武器じゃないのか? そんな簡単に手に入るもんなんだ」
俺は、ガッカリして声のトーンを下げる。
「魔剣でも聖剣でも特に強い剣は武器商人でもギルドでもとれないから店じゃ売ってないよ。それに持ち主が強ければ魔剣も聖剣も強くなる。剣は成長するんだよ」
「なるほど。そういう感じか〜」
うんうんと頷いていたゼクサスが急に顔色を変えて言った。
「おい! そういえばヒナ達に宿の場所教えてねぇぞ!」
やらかした〜。通信魔法みたいな魔法無いしこの世界。こんな大きな街でどうやって探すんだよ!
「あの〜すみません。声拡張魔道具でヒナとローズって人をこの宿に呼んでください」
ハーツが宿屋の従業員にヒナ達をここに呼ぶように頼んだ。その数分後、
《ヒナ様、ローズ様パーティーの方々が砂漠の月という宿屋でお待ちしております。》
すっげぇ大きな声がこの街に響いた。不思議と大きな声なのに耳が痛くない。魔法の効果だろう。
しばらくしてヒナとローズが合流した。
「おぉ! 遅かったじゃねぇかよ! 男しかいなくて退屈だったんだぜ!」
ゼクサスが寂しかったアピールをしていたのを無視して、
「そんなことよりも、魔聖おばばいたのよ! ねぇ〜ヒナちゃん♪」
「良いでしょ〜」
? ヒナとローズよ、俺にはさっぱり分からぬぞ。
「本当か!?この街にいるのか! 」
「よし。明日皆んなで行こ〜」
待て待て。魔聖おばばって誰やねん。
俺が話についていけてないのをスキルで理解したヒナが、
「魔聖おばばはね、この世に数人しかいない魔剣と聖剣の双剣使いなの! 運命の人を呼び出したり出来る人なの。気分上がってきちゃった♪」
ヒナが可愛くジャンプする。だが、今はそれどころではない! 運命の人を呼び出すだと!? という事はヒナが俺を運命の相手だと分かる日が来るのか!
嬉しすぎて俺は両手でガッツポーズをする。
「ねぇゼクサス。シュウに魔剣見せた? 」
ハーツが急にゼクサスに話を振る。
? ゼクサスの野郎魔剣持ってんのか?
「悪ぃなシュウ。見せるの忘れてたぜ!」
そう言ってゼクサスは右手を前に伸ばす。
「こい! 魔剣 イシェルヒィード!」
するとゼクサスの影が動き出し、その影から真っ黒い剣が現れた。その魔剣を右手で抜くと、黒いオーラがゼクサスの右腕を覆った。
「これが俺の魔剣 イシェルヒィードだ!」
ゼクサスが普段使っている剣とは違い、見るからに強そうな剣だった。
「良いだろ! イシェルヒィードの特性は俺が怒れば怒るほど俺の力を上昇させ、イシェルヒードは炎を纏う 」
「なんてかっこいいんだろう」
羨ましくて目から血が出るかと思った。
ゼクサスが魔剣を見せてくれた後、ヒナとローズは自分達の部屋に行き、俺達も寝ることにした。
「なぁゼクサス。お前のスキル、人と仲良くなれる。だったよな、そのスキルなら商売とかしてた方が楽じゃないのか?」
俺は天井を見ながら言った。
俺は、この時はまだ知らなかった。
何を知らなかったのかって? 何かをだよ。
⚠ 手前の一文はゼクサスに関係ねぇぞ。
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