第9話 落とし穴
俺達の目の前には砂漠が広がっていた。
不思議な光景だった。何が不思議かというと、森が段々と枯れて砂漠になっているのではなく、急に砂漠が広がっているのだ。
まぁ異世界だもんな。
「てかゼクサス、さっきのお前のセリフ王都についた時に言うやつじゃねーか!」
何が、やっと着いたぜ。だよ! ふざけんな。
広い砂漠をしばらく歩いていたゆくと、
「なんだこれ・・・・・・」
俺達の目の前の地面には大型トラック三台ほどの大きな穴があり、そのまわりに人一人分の穴が沢山あいていた。砂漠にしてはおかしな光景だった。
「シュウは異世界人だもんねぇ〜」
ハーツがそう言いながら大きな穴に近ずいていく。そして振り返って俺に手招きをする。
「俺は高所恐怖症だから近ずかねぇよ! 穴がデカすぎて深いのがすぐ分かるんだよ!」
俺が断固拒否って顔をしていると、
「シュウ、高いところ嫌い? それじゃあ一緒に冒険出来ないね」
ヒナにそう言われてしまっては行くしかない! だってヒロインと冒険しないとか、カス主人公やんけ!
覚悟を決めてハーツの隣まで歩いく。
「オイラに怒んないでね〜」
ハーツはそう言い終わると俺の背中を思いっきり両手で押して、俺を穴の中へ突き落とした。
「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
俺は誓った今度ハーツと会う時は俺はお前を殺すと。
落ちる感覚は不思議で意外と面白いものだ。パラシュート背負ってたらの話だけどね!
段々と下に落ちていくにつれ明るくなっていく、下に何かいる。その何かを見ようと怖い中必死で目に意識を集中していると、あともう少しで地面だった。
「いぃぃぃやぁぁぁぁ! 俺せっかく異世界来れたのに女の子とイチャイチャ出来ずに死ぬのかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! クソがぁぁぁ! ・・・・・・って、あれ? 俺なんで浮いてんの? 」
地面から1メートルくらいの高さのところで俺の身体、光の粒子を纏い、しばらくの間、宙に浮いていた。そしてゆっくりと地面に降ろされていく。
「ようこそ。ここがオアシンバでございます」
「うあっ、びっくりしたぁ〜。こんにちは〜」
急に赤髪のお婆さんが声をかけてきた。
人見知りでもある俺は、陰キャ特有の消えそうな挨拶を発揮する。
ちなみに、このお婆さんは八百屋さんの優しい婆さんみたいな印象だ。
「ところでなんで俺は浮いてたんですか? 浮遊魔法なんて存在しないはずですが」
俺は浮遊魔法なんて教えて貰ってねぇけど?
「あら、お客さんはフライストーンという魔法石を聞いた事がないのかい?」
やべぇ、めっちゃ怪しまれてる。
「すみません。えーと、記憶喪失になっちゃいまして魔法とかの事は覚えてないんです」
異世界から来たとか言ったら間違いなく変な目で見られてしまう。それに、主人公は異世界人だと仲間以外には話さないからね。
「それはまた可哀想にねぇ、こんな婆さんでも良かったら説明しましょうかい? 」
「お願いします」
婆さんが優しい顔で聞くもんだから嘘ついた罪悪感しかねぇじゃねぇか。諸君は分かってくれるだろ、俺は悪い嘘をついた訳ではない事を。
「魔法石は、人が使えないような魔法の力を秘めている不思議な石でねぇ、人が魔力を少し送ると魔法石は発動する。ちなみに、魔法石を埋め込んだ道具は魔法具と呼ばれとるんだよ。フライストーンはソナタがちょうど立っておるところに埋め込んでいて、あたしが魔力を送って落ちてきたものを浮かせていたんです。だいたい分かったかねぇ?」
「はい。分かりました。ありがとうございます!」
俺がそう言い終わると、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! 死なないとしても怖ぇぇぇぇ!」
ゼクサスが泣きながら降ってきた。
それに続いてハーツとローズ、ヒナが落ちてくる。ヒナだけスカートなので、俺とゼクサスは必死でパンツを見ようとするが、もちろん中が見えないように両手でしっかりスカートを閉じていた。
ゼクサスがパンツ見れねぇと諦めた瞬間、ヒナがフライストーンによりふわっと浮いた瞬間にヒナの手がスカートから離れ、純白の生地が見えた。
「うぉぉっしゃぁぁぁぁぁぁあ!!女神が俺に微笑んだぁぁぁ!」
俺が嬉しすぎて両手でガッツポーズを決めていたら、ゆっくりと降りてきたヒナがこちらに小走りしてきておもいっきりビンタを決める。
「グハァッ!」
俺は穴の壁まで吹っ飛んでいく。
「ヒナのパンツ見たでしょ! 最低! 変態! 大っ嫌い!」
ヒナは目に涙を浮かべて、真っ赤になって怒っている。俺が必死になってヒナに謝っていると、
「シュウ! てめぇ、なんで一人でパンツ見てんだよ! 俺も見たかったじゃねぇか!」
ゼクサスがそう言って俺とヒナに近ずいてきた。
そして当たり前のようにゼクサスもビンタされる。
「ところでさぁ〜。いつから一人称ヒナ、にしたの〜? 」
ハーツが弱みにつけ込むするようにニヤニヤしながらヒナに尋ねる。
確かにヒナは今まで一人称は私だったはず。
「うっ、そんなこと今関係ないもん! ヒナは私って言うもん!」
察した。なんだろう、何かを察した。多分ヒナは怒ったり、本気で感情的になると一人称がヒナになるようだ。とりま可愛い。
諸君の中にぶりっ子みたいで嫌いと言う奴が一人でもいるなら俺は聞きたい。本当の自分を隠している子が、本当の姿を見せたとき諸君らは可愛いと思えないのか? 仮にぶりっ子だとして、それを隠していたらぶりっ子じゃない! 異論がある奴はヲタク達でぶっ倒す!
「実はねぇ、ヒナちゃんは〜」
ローズがヒナの頭を撫でながら続ける。
「大人の女性って感じを出したくてヒナって言うのを隠してたのよねぇ〜♪ 」
「なっ、ローズさん! それは言わない約束でしょ! 」
男チームは何を思ったのか固まっていた。
俺には分かる。多分ハーツとゼクサスも同じ事を考えている、ヒナ可愛いと。
「ヒナ、好きだ・・・・・・」
皆んながゼクサスに驚きの視線を向ける。
今なんと? ゼクサスの野郎今なんて言った!
「・・・・・・・・・ゼクサス、やっちまったね〜」
ハーツが頭に手を当てる。
「ごらぁ! 先に言うんじゃねぇぇぇぇ! 」
俺は両手で頭を抱えて叫ぶ。
諸君は知っているか? 先に好きだって伝えた奴がその女子と付き合うというこの世のルールを、あとから好きだと言った奴は所詮、勇気の無い奴にしか見えないのだ。さらに、え〜後から言われても嬉しさ半減〜。みたいなことになっちゃうよぉ!
クソッ! 先に言われてしまった。
「えと、その、なんて言うか・・・ゼクサス本気だよね。なんで今なの? 」
ヒナは顔を真っ赤に染めて混乱している。その慌て方は嬉しかった時の反応じゃん!
「あ、あれだ! 仲間として好きって事だ! スキルは使うなよ! 別に嘘じゃないから! ははっはははは! 」
ダメだこいつ壊れた。流石に嘘やんけ。
「あの〜、お客さん。早くここからどいてもらっても良いですか? 次の冒険者が来てしまうので」
先程のお婆さんが申し訳なさそうに頼んできた。
「申し訳ない! よし! 皆んな先に進むぞ! 」
ゼクサスはさっさと歩いていく。相当気まずかったのだろう。
しばらく穴の中を歩いて行くと賑やかな声が聞こえはじめた。
「うぉー」
俺は驚嘆の声をもらす。
俺達の前に広がっていた景色とは・・・・・・。
あっ、俺を穴の中に突き落とした犯人を殺すの忘れてた。
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