第14話 防衛線 衝突前

 ドルトニア子爵領はディープレア伯爵領に隣接していた為、魔物が押し寄せてくる事が確実視されていた。


 魔物が進軍すると思われるルートは3つあり、それぞれディープレア伯爵領側に砦があるので、その砦を中心に防衛線が定められた。各砦に冒険者と領兵が均等に割り振られ、それぞれ2000人前後の戦力が集結となった。


 戦線はそれぞれノース、セントラル、サウスと名付けられ、作戦本部はセントラルに設置される事となり、表向きは領主自ら指揮を執る事になった。実態としては血の気の多い領主は最前線で戦う気で、何故か周りもその事に納得している。


 事前にワイバーンライダーにより偵察したところ、各砦に向かってきたのは北から順に5千、1万、4千という数でどこも分が悪い戦闘だと思われたが、レミーアという魔法使いによる大魔法によってセントラルに向かっていた1万の内3千が消滅する、これに士気は大いに向上したがまだ圧倒的な差があるのは変わりなかった。


 ドルトニア子爵領は他の領地とも隣接しているため、状況はここよりも悪い事が想像できた。そして王国軍はその状況が悪い戦線の方に向かっているので当てにはできない。だが、ディープレア伯爵領は先代より兵士と冒険者の育成に力を入れていたので軍務においては一目置かれている存在だった。その事が今回の事態を少しマシにしていたと言える。


 その中、リリアルトとミズキはサウスで参加、ウラルバートンとメリナアルトはノースで参加していた。


 ただ、ミハルの姿はどの砦にも居なかった。




サウス戦線・ミズキ視点─


 夜明け間近だった。

 そこに集まった人は、歴戦の戦士とも思える人や高度な魔法を使いそうな魔法使いがひしめき合っていた。教会から派遣された、ヒーラーも何人も集まっており体制は万全かと思われた。


 一緒に来たリリアルトは不安そうな表情をしていた。過去にこのような戦闘があった時は、2千対2千の戦いで、生き残ったのは半数程だったと言う。


 今回の敵はその倍で、セントラルに至っては5倍となっている。仮にサウスで勝利できたとしても、その次はセントラルの魔物が攻めてくるのは明白なのだから不安になるなんて次元ではなかった。



 私はこの戦いの前に、総合ギルドに立ち寄り、冒険者登録を済ませた。

 その時に貰った冒険者プレートは額に吸い込まれて消えた。冒険者プレートはギルドでのみ取り出しが可能な魔道具だと言う。ギルド内には対になるプレートが保存され、本人の生死と戦果が記録されるようになっている。額に入れた方は本人確認に使うらしい。


 そして総合ギルドでは今回のクエストとして、砦の防衛クエストと魔物討伐クエストが用意していた。


 防衛に成功した場合にそれぞれに支払われる額は戦果に応じた物になるが失敗した場合は誰にも支払われない。そのような事態になれば領内に魔物が流れ込んでくるから、それどころではないというのが実情となるだろう。


 魔物討伐については魔物にクラス分けがされているので、それに応じたものとなる。魔物個別に対しての討伐貢献比率も考慮されるので大物なら、少しでも参加した方が得だと言う話だった。それにアシストできればその分も貢献とみなされる。


 一体だれが判断するのかと思うが、実際にだれも判らないらしい。


 私はリリアルトに武器と防具のプレゼントを貰った。彼女には貰ってばかりだった。いつか恩返しをしたいと考えているとリリアルトの口が私の口に重なった。少しディープなキスはすぐに終わり、リリアルトは寂しそうに言った。


「本当はミハルちゃんのキスが欲しいんでしょうけど、ここは私で我慢してください」


 本当に貰ってばかりだ。

 そして、訓練はもう終わりで卒業だと言われた。


 それは永遠のさよならを意味していると、後から知る事になる。





ノース戦線・メリナアルト視点─


 メリナアルトは困惑していた。私はドルトニア子爵家のメイドでステイク様の婚約者であるアスティーナ様の世話役として派遣されていた。実態としては監視も含んでいたが、そんな監視は程ほどにアスティーナ様との日々を満喫していた。


 子爵当主との関係を知ってからはアスティーナ様に対してどう接していいか判らなくなっていた。だが、記憶喪失になったアスティーナ様は何故か自分に懐いていたので、可愛くて仕方が無かった。いっその事、記憶が戻らなくても良いと思う程だ。


 先日、屋敷に行った時も結局肉体関係はなかったと言う事を聞いて安堵したが、アスティーナ様は帰りの馬車で寝入ってしまい全く起きる気配が無かった。時折すすり泣いているその姿はあの実験のせいだと思い腹を立てていたが、私は文句を言える立場にはなかった。そして今も屋敷で寝入っている。昨晩は眠れなったという事も考えると今は起こすべきではないと考えた。


 自分には姉のリリアルト程ではないが、剣技に精通している。この戦いに生き残って、またアスティーナ様のお世話がしたい。雇ってくれるかという問題はあったが、そんな事は後から考えればいいと思った。


 アスティーナ様が目が覚めた時に、私が最初におはようの挨拶をするんだ。





セントラル戦線・サミアル・ディープレア伯爵視点─


 現状7千対2千という全く勝ち目の見えない前線だ。頼みの綱のレミーアは魔力切れで休憩している。いざとなったら無理をしてでももう一度出るつもりだと言っている。


 いくら昔の冒険仲間だと言っても、これ以上無理をさせるわけにはいかない。今回は、俺もどうなるか判らない。せめて、アスティーナの代わりをしてくれているミハルが生き残ってくれれば良いと思っていた。


 私にはもう、家族と呼べる人はミハルだけなのだから。

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