第12話 ミズキの苦悩

『ミハルちゃんの婚約者がイケナイ事をしちゃうかもだよ?』


 宿屋で眠りながらあの言葉がリピートする。

 あの言葉が挑発であるのは間違いない。解っているのに苛立ちが止まらない。


 というか何だろう、このムラムラした気分は。



 リリアルト師匠との訓練は順調だった。ただ、ウラルバートン先生は最近来なくなった。緊急の討伐依頼があって遠征に出てしまったからだ。


 いつの間にか師匠に一撃入れる事もできるようになり、師匠の本気の攻撃も回避できるようになった。そして訓練後は、宿屋で回復魔法を掛けてくれる。


 そんなある日、うっかりストレートに聞いてしまった。


「(この世界の)避妊ってどうやるの?」


 師匠は目が点になっていたが、まじめに答えてくれた。


「そんなのは女性なら生活魔法教育の一環で覚えるものだよ」


 ミハルはちゃんと使っているだろうか。というかそんな教育受けてないんじゃないか?もし誰か関係を持ってしまったとしても避妊だけはしててほしい。もちろん持たないに越した事は無い。私だけのミハルで居てほしいのは切実な願いだ。

 ただ、その関係の事を考えるとムラムラするのは自分が元女性で女の体に詳しく、今は男性器を保持しているからかもしれない。といっても前世では男性との関係は持ったことが無かったのである程度は妄想になる。


「まぁわかるよ、うんうん、溜まってるんだねぇ。でも体裁としてミハルちゃん以外は抱きたくない、そうじゃないかな?」


「わかりますか」


「まぁね、だが童貞君、君は勘違いをしている。未経験同士で上手くいく例って少ないのだよ。どちらかがリードしてあげないといけない。つまり、とっととその貞操感を捨てて相手を気持ちよくさせる事を覚えろっ……て事だよ」


 なんか地球でも似た話を聞いたことがる気がした。

 つまり、男としての経験値を上げなくてはいけないと言う事か…。


「まぁ君の目の前には、それなりに経験済みな異性がいるのだ。そっちの方面でも頼っていいんだよ」



 誘われた。


 見た目は幼かったが、大人な先生の師匠なのだから年齢は察していた。


 貞操を捨てる許可をされた気がしてたがが外れてしまった。

 女性がどこに感じるかは熟知していたので私は師匠に相手として気に入られた。

 それからは獣の様に、何度も体を重ねた。もう何度も何度も…。


 師匠の体は慎まやかではあったが、十二分に気持ちよく安心感があった。話によると、避妊魔法をかけた状態で中に出すと精子は全て魔臓に吸収されていくそうだ。何というか男性からすれば連続で行為をするのに適した仕組みなのだと感心するばかりだ。女性から見れば連続でされるのはたまったもんじゃないが、この世界ではどうなのだろうか。

 さらには師匠の喘ぎ声が激しいので隣部屋に筒抜けではないかと心配したが、あらかじめ部屋に『静寂サイレントルーム』を掛けたので大丈夫だと言ってくれた。魔法にも興味があったので避妊魔法も含めて教えてもらった。


 それからというもの、この行為自体が日課になってしまったが将来的にミハルの為だと思うと不思議に問題ないと思えた。


 さらには魅了を試してみると、さらに激しい夜になってしまったので師匠に対して使うのは自粛する事にした。出会ってすぐの戦闘中に使ってみた時は全く効果が無かったのに、今は効果があるのは謎だ。



 それから数日後の夜。


 いつもの行為中に壁が揺らめくのを感じられた。なんというかヤり過ぎて脳震盪でも起こしているのかと思ったがその時、懐かしい声が聞こえた。


「えへへ、ミズキさんに会いに来…」


 その揺らぎの中心には茫然とするミハルの姿があった。


 次第に顔を真っ赤にして手で目を隠そうとしているが指の隙間から見られているのは明白だった。そしてミハルは大粒の涙を溢して泣いてしまった。


 私は固まって、何も言えないままだった。


 お互いの沈黙のまま暫くして揺らぎがなくなり、「ごめんなさい」の一言を残してミハルは居なくなった。


 そして自分は師匠と合体したままだ。


 シーツも被っていないのだから、言い訳のしようがない。



「あらら~、やっちゃったね。まさかこんなに早く移動系魔法を覚えてしまうなんて、ミハルちゃんの才能は凄いねぇ」


「………」


「で?追いかけないの?」


「というか、何処に居るか判らないのですが」


 師匠は知っているはずだが、聞いたところでその街を知らないし移動手段もない、お金もないという最低な状態だ。宿代は最初は好意で泊めてくれていたが、ミハルが居なくなってからは師匠が支払ってくれている。


 好きな子を追いかける事もできない自分が非力な存在だと痛感してしまった。


「仕方がないなぁ、連れて行ってあげるから凹まないで。明日の朝、馬を用意するからそれまで我慢してなさい」


 そういうと師匠は夜中なのに宿屋を出て行った。



翌朝─


 私はミミナミさんにお礼とお別れを告げて村を出た。

 大急ぎで馬を走らせたので昼食も抜きで走った。

 夕方になる前には領主の屋敷に到着したが、そこにミハルは居なかった。


「ミハルという方はこちらには居ませんよ?」


「13歳の女の子で、金髪ロングの青い瞳の背がこれくらいの子ですが」


 背丈は私の胸元あたりだと、手で示して表現した。身長を測る風習の無い世界はこれだから面倒だ。


「もしかしてアスティーナお嬢様の事でしょうか、お嬢様はいま外出しています。昨晩ショックを受けたとかで目を腫らしていましたが、以前から約束されていた婚約者の屋敷に行くと言っていましたよ」


「できたら、ここで待たせてもらう訳には…」


「どのような身分の方かは存じませんが、伯爵令嬢に対して突然の訪問をする事自体が非常識です。それに婚約者がいる身で男性が押しかけて来たとなると要らない噂も立ちかねません。私が穏便に対応している間にどうかお引き取りを」


 伯爵令嬢…?だとすると別人なのかもしれない、リリアルトがここに住んでると教えてくれたのは嘘だったのだろうか。リリアルトはここには来たくないらしく街の宿で待っていると言っていたので仕方なく私も宿に行った。


「あ~、タイミングが悪かったですねぇ、せめて屋敷に居たら会えたかもしれないのに、残念です、せめて貴族っぽい服装ならまだチャンスがあったかもですねぇ」


「どうすれば会えるだろうか」


「屋敷に行くのは良くないですね、一度目を付けられてしまったので二度目は大ごとになりかねないよ。冒険者訓練校にでも通って会えるのを待つのが一番確実じゃないかなぁ?それともどこかの貴族の養子に入って、改めて面会を求める?」


 答えはきまっている。両方だ!


 って、貴族の養子に入る事がそんな簡単にできる事なのだろうか。

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