第11話 呪文収集家

「伯爵!」


「娘よどうした。ちゃんと『お父様』と呼べ」


「お、お父様……魔法の師匠を紹介してください」


「テーブルマナーを覚える方が先ではないかね?」


 食卓についているのは3人。私と伯爵とイルティーナちゃんだ。

 イルティーナちゃんは凄くご機嫌だ。一体何が楽しいのか判らないけど、私と一緒にいるだけで嬉しいらしい。


 そんな食事時に言ったせいで注意されたという訳だ。というか2人きりの時以外は厳しい父親なのかもしれない。


「とりあえず、礼儀作法のレッスンと同じ時間だけ魔法の師匠に教わる事を許そう」


「いつからですか?」


「今日だ、食事後に私の私室に来なさい」


 手配してくれていたらしい。なんとも嬉しい話だ。





 ディープレア伯爵の私室─


「それで子爵の三男はどうだったかね」


「言われた通りに対処しました。私の事を転生者と信じています」


 余計な情報は言う必要はない、本名を喋った事や異世界の事なんかは知られると面倒かもしれない。


「そうか、それにしてもまだ気に入られているようだな、今度は相手の屋敷に招待が来ている」


「イキタクナイデス…」


 今朝の件よりも身の危険を感じる。

 いやらしい意味じゃなくて、魔王復活を企んでいるんだから最悪生贄にとか、ろくでもない結果が待っている気がする。


「まぁそう言うな、10日後だからそのつもりでいるように。それにその時に調査が終われば婚約破棄が早まるんだぞ」


 そういう考え方があるとは思わなかった。少しは頑張るべきかもしれない。

 婚約が続いている状態で先輩と再会したら軽蔑されて見捨てられそうな気がして怖い。だから婚約破棄は早い方がいい。



 そして少しディープレア家について教えてもらった。

 まず母親はイルティーナちゃんを産んだ後に体調を崩して、闘病の末に3年でお亡くなりになったらしい。イルティーナちゃんはそれから村長に預けられていたが、最近姉の死を知ったと言う話だった。ちなみに現在7歳。


 姉のアスティーナの方は今年13歳、奇遇にも同じ歳だ。婚約者のステイクはアスティーナが15歳の誕生日に結婚するつもりだったらしい。アスティーナは6歳の頃から人の心を掴むのが得意だったらしく、多く者から信者と呼んでも間違いではない慕われ方をしていた。婚約に至ったのはその信者の殆どが長男だったが、父親としては婿養子が欲しかったという理由で長男を排除。絞り込まれた人の中から爵位と経済的な面を考慮して父親が選んだらしい。


 亡くなったのは1週間前の話、馬車が崖から落ちてあっけなく逝ってしまった。

 死体は冷却保存されていると言う事。それをしているのは私の魔法の師匠になってくれる人だ。


 本当にそっくりなのか一度会ってみたい。



 伯爵の私室を出るといかにも魔法使いだという風貌の女性が立っていた。

 私はその人を魔法の師匠になってくれる人だと察し、それと同時に本物の魔法使いに出会えた事に、此れまでにない期待感で鼓動が早くなっていた。伯爵はなんだかんだ言いながらマナーよりも先に魔法の師匠を紹介してくれる優しい所があるのだ。少し評価を上方修正しようと思う。




 アスティーナの自室─


「レミーア師匠、魔法使いとか剣士とかの職業ってなにか儀式によって選択したりしますか?」


 酷い質問になっている気がする。何を聞きたいのか判らないかもしれないけど、脳内のゲームシステムを遠回しに確認しようとした結果がこの質問となっていた。


「そんなのはない、剣士になりたい奴は剣士に、魔法使いになりたい奴は魔法使いに自然となるものだよ。料理もできないヤツが何かの儀式をしたからって料理人になれるなんて可笑しな話だと思わないか?」


「成程。たしかにそうですね」


「そんな発想が出てくるのは面白いような妄想すぎるような、まぁいい。これから12の魔法を覚えてもらう、それをどれだけこなせるかで君の伸ばす方向が決まる」


「12!そんなにも教えてくれるのですか」


「ああ、これでも最低限だ、魔法の形態には大きな分類として、純魔法か精神魔法、近接か遠隔か、防御か攻撃か支援がある」


 これ、ステータスに出てくる表のとおりだ。

 ステータスを見れなくてもそういう分類になっているんだね。


「まずは『空接エリアコネクト』」


 先生の隣の空間が歪み、木々が無い山の中腹の様な場所が映し出された。


「行こうか、外の方が魔法を使うのに都合が良い」


「はい!」


 【スペル『空接エリアコネクト』を覚えました】


 そんなあっさり!?


 外に出ると空間が歪みが閉じられるのが分かった。

 そこで私も唱えてみた。


空接エリアコネクト


 空間が歪みさっきの自室に繋がった。暫くしてその空間は閉じたが、あっさり覚えてしまった事に師匠が唖然としている。


「その魔法は純魔法遠隔支援に該当する、結構高度な部類なんだがな…」


 それから、次々と魔法を教わった。


 純魔法、近接攻撃『舞刃ダンシングソード』、遠隔攻撃『駆剣フライングブレード』、近接防御『魔法盾マジックシールド』、遠隔防御『範囲盾エリアシールド』、近接支援『治療ヒール』、遠隔支援『範囲治療エリアヒール


 精神魔法、近接攻撃『思考停止ヴォイド』、遠隔攻撃『敵中孤立エリアコンフュージョン』、近接防御『無関心マインドシェル』、遠隔防御『一致団結ユニティ』、近接支援『士気高揚ハイテンション』、遠隔支援『全軍突撃レッツパーリィ


 結局13の魔法を覚えた。

 攻撃系はゴブリンの集団に、精神魔法の防御と支援は領内の兵に向かって使用して確認したが中々面白い事になっていた。


「なんか、全部覚えてしまったのか。しかも全部使いこなせているのは珍しい。純魔法で結構できそうだったから、精神魔法は軍隊でも使える中級クラスを教えたがなかなか狂暴な士官クラスの魔法使いになりそうだな」


 そしてステータスを確認すると変化が沢山あった。あ、嬉しさのあまり涎が…。


 ■ミハル 性別:女 年齢:13

  職業:スペルコレクター  レベル:21

  HP:40/40 MP:2053/2380

  【物理】近接攻撃:-900 遠隔攻撃:-900

      近接防御:+0   遠隔防御:+0

      近接支援:+0   遠隔支援:+0

  【魔法】近接攻撃:+50  遠隔攻撃:+400

      近接防御:+100 遠隔防御:+320

      近接支援:+100 遠隔支援:+900

  【精神】近接攻撃:+100 遠隔攻撃:+600

      近接防御:+150 遠隔防御:+500

      近接支援:+150 遠隔支援:+750

  【バシップ】なし

  【スキル】なし

  【スペル】空接I、舞刃I、駆剣I、魔法盾I、範囲盾I、治療I、範囲治療I、

       思考停止I、敵中孤立I、無関心I、一致団結I、士気高揚I、全軍突撃I

  【加 護】創造主(不老)

  【ギフト】好意



 職業、呪文収集家??ただのマニアかな?

 職業欄を触ると脳内にあのアナウンスが聞こえる。


 【スペルコレクターは魔法の得手不得手なく呪文を扱える。一つスペルを覚える度にそのスペルレベルに応じてMPが増える。ただし全体的な加算値が大幅に減る】


 大幅に減って500とか900加算しているんだけど、一般的にどれくらいの値なのだろうか?他人のステータスを覗けたら比較して多いか少ないのかが分かるのに。


 魔法の試射で群れを殲滅したのが効いたのかレベルが大幅に上がっていた。

 HPは1レベルにつき1上がっている。先輩が200くらいだと言っていたから、とんでもなくひ弱なメイジって事かもしれない。


 きっと私に冒険は厳しそうだ。


 こればかりはため息しか出なかった。

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