第6話 強制連行

 私達は無言のまま、朝食を食べ始めた。

 今更ながらに口の中に苦みを感じた。その事に動揺しながらも苦みをスープで飲むことで解消した。この私達のよそよそしい雰囲気はまるで初体験を済ませた男女の様に見えたかもしれない。ある意味お互い初体験だったけど、たぶん周りの感想はもっと激しい方だ。


 そんなことを頬を染めながら考えていると、ミミナミさんが背後から私の肩を叩いて頷きだした。

  ※ミミナミさんは激しい方だと思っています。


 ハッとして周りのお客を見ると、何故か優しい顔で私を見ている。

  ※ただの自意識過剰です。


 先輩をみると、やはり顔を赤くしてそっぽを向いた。

  ※まだ照れているだけです。


 すべてを悟られた気がして居た堪れなくなり、ついには食事も終っていないのに駆け足で部屋に戻ってしまった。



 暫くして、先輩が食事の残りをもって部屋に戻って来た。


「ごめん、早いうちに宿を出た方が良いかもしれないね」


 その提案に同意した。この部屋にいる限りどうしても思い出しそうだと思った。

 ミミナミさんの伝手の訓練はどうしよかと悩んだけど、それだけは受ける事にした。それはこれから必要な事だからだ。先輩が午前中に訓練を受けて、その後で私に紹介するという流れに決まると先輩はミミナミさんに会いに行った。



 そして、朝食を食べ終わった頃には食堂からの声が聞こえなくなった。人が居ないのを確認して宿屋を抜け出すと、私の足は村長さんの屋敷に向かっていた。


 話でもしていれば気がまぎれると思ったからだ。


 私が屋敷の前に到着すると同時に、玄関が開いた。

 待ち伏せされたのかと思うようなタイミングだったが、イルティーナちゃんが屋敷に向かう私を発見していたらしい。


「あの、昨日はごめんなさい」


「え?昨日?何か謝るような事があったかな?」


「アスティーナお姉様ではなかったのですね、村長から聞きました」


「あ、はい。聞いちゃったんだね」


 これで、あの採点式の豪華景品は無くなってしまったのかと思うと少し残念だった。これから街に行く費用や冒険者訓練校に入る資金が必要になるのだから、あって困らないと思っていた。


「まさか死んだ後に生まれ変わったせいで、過去の記憶を無くしてしまうなんて思いも寄りませんでした」


 んんんんん???

 なにか変な設定じみた言い訳を吹き込んでないかな?

 生まれ変わったアスティーナお姉様が、イルティーナちゃんよりも年上という矛盾に気づいてほしい!そこで、村長さんの顔を見るとすごく喜んでいる。間違いなく確信犯でこの状況を楽しんでいる。


「それでですね、改めてお姉様になって頂けないでしょうか」


「どういう意味?」


「実は、アスティーナお姉様とは面識が無くて思い出が無いのです。そこでこれから、姉妹として一緒に暮らして思い出を作らせて頂けないかと思うのです。どうですかミハルお姉様?」


 なんという無邪気な瞳で期待を押し付けてくるの。いつの間にか名前までバレているのは村長が調べて教えたと思う。押し切られそうになる気持ちをぐっと堪えて、はっきり断る事にした。


「あのね、私はこれから街に出て冒険者訓練校に通う事にしています。

 ですから、残「まぁ!それは良いタイミングですね!」


「え?」


「冒険者訓練校って父の経営しているんですよ。ですから父の屋敷から十分通えますわ」


 もしかして、その屋敷で一緒に暮らすって言いたいの?つまり貴族の屋敷に住み込み…窮屈そう。そうだ先輩の事を引き合いに出して諦めさせよう。


「あのね、それにね、私の好「速達でーす」


「おや、領主様からですね早速読んでみましょう。『娘と一緒に早く連れてこい』だそうです」


「え~~~と、どういうこと?」


「説明しましょう。昨日お会いした直後に早馬を使って領主様に『アスティーナ様にそっくりな方を見つけた』と、連絡しました」


「はい」


「それだけですよ?では!」


 執事は、手を上げて2回、パンパンッといい音の合図を鳴らした。

 直後、メイドが6人集まり、私は一室に連行されて服を脱がされ、湯あみを強制された。


 昨日はお風呂に入っていなかった分気持ちよかったけど、自分の裸自体に慣れていないので目線が宙を舞った。


 メイドは口々に「肌がすべすべ」とか「ムダ毛が無い」とか「あそこも生えてない」とか「本当は何歳なのか?」とか好き放題言ってくる。というか生えていない事を教えられたというのは、未だに自分の全裸を見ていないからだ。

 そういえばこの世界に来てからトイレという物を見た事が無かった。

 アイドルの世界には、トイレを必要としない清純派が居るらしいけど、この世界は全員が清純派なのかもしれない。そんな馬鹿な事を考えつつ、手探りでお尻の穴を確認してみた。


 無かった。


 本当に清純派の世界だとは思わなかった。

 これではBLはどうやって事を済ますのかとか考えてしまった。

 そこでメイドさんに聞いてみた。


「ねえ、トイレって知ってる?」


「はぁ、トイレですか?知りませんが、それは食べ物ですか?」


「ぶはっ」


 吹いてしまった。

 トイレを食べ物って、ありえない答えだった。知らないって怖いね。


 尚、その後に知る事になるが、排泄物的な成分は下腹部にある魔臓に辿り着き、燃焼して魔力に変換されるそうです。つまり、地球の人類とは体の構成がすこし異なっていると言う事みたいです。その為、魔法使いは痩せ大食いが多いという話があるそうです。また、魔力は消費してなくても蓄積上限を超えると自然放出するので、便秘の代用的な物はないそうです。

 さらには女性の場合、子宮を魔力をつかって自然に浄化する為に生理も無い。


 じゃあ、女の子のトイレの仕方が判らないとか、トイレが真っ赤になったと言う性転換物に有りがちな体験はしなくて済むという事になる。そもそも、ダンジョンに籠っている最中のトイレとか生理とか考えると大変な事だから無くて助かったとも思えた。


 と、先輩が嬉々として解説してくれるのはまた別の話。ソースは神様だそうです。


 で、この時は排泄物はどうするんだろうと青ざめていました。



 湯あみが終わると着替やブラッシング、化粧と忙しい時間が過ぎ、着せ替え人形代行もようやく終了した。なんでサイズなピッタリのドレスや靴があるのかとツッコミを入れそうになった。


 そしてみんなが私を見ると口々に評価をした。


「ほっほっほ、見立て通りですな、これで貴族と言っても疑われませんね」

「素材が良いとやりがいがありますね」

「薄化粧でも映えるのは羨ましいわ」

「流石ミハルお姉様です!」


 その後、メイドさん二人に左右から腕を組まれて馬車の中まで連行。

 あっという間に村から連れ去られてしまった。

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